第232話 レッツ餃子パーティ!
「みなさーん!ご飯の時間ですよ~!席についちゃってください!」
「いい匂いだな。肉や魚を焼くだけじゃこうはならないぜ」
そう言って満足げな顔をするリークさんの前には、所狭しと並んだ料理が湯気を立てていた。
皆で沢山包んだ餃子は勿論、軽く炒めた野菜を乗っけた塩ラーメンもある。
「ふふん。食べたらもっと驚きますからね」
「シーナ、こっちのパスタはかっぷらーめんとは違うのか?」
新しい物好きのウィルは塩ラーメンの方も気になるみたい。
「カップ麺と袋麺は似て非なる物なのです。でもどっちも美味しいよ!ちょい足し野菜もあるし」
「全然分かんねぇけど、まぁ、美味いなら楽しみだ」
「むしろ気になるのは……」
そう。実は他に八宝菜もあったりする。
そんな事をできるのは一人しかいないので、コリンさんに聞こえないように小声で犬堂さんに尋ねてみた。
「犬堂さんいつの間に八宝菜なんて作ったんですか?ウズラの卵をちゃっかりレジに持ってきてた時、おつまみにすると思っていました」
「ふふっ、椎名君が調味料を色々持っていたからね。僕には八宝菜もつまみになるし」
餃子を焼いている合間時間に「片栗粉ある?」なんて聞いてくるから何をするんだろうって思っていたけれど、いつの間にかササッと準備してて。
うーん、このトロリとした餡がなんとも食欲をそそりますっ。
「……私は宮廷料理を頂くのでしょうか」
そんな料理が盛りだくさんのテーブルを見て、コリンさんが緊張気味に呟く。
料理を運び始めたら迅速に書類を片付けてくれたけど、さっきから衝撃に固まってしまっている。
ようやく喋ったかと思えば、宮廷料理って。
そんな大したものじゃないんです、どっちかというと1000円でお釣りがくる中華ランチセットって感じ。
「まさか。私が住んでいた土地でよく食されている料理です。このタレを付けて、召し上がってください」
「では、これは異世界の料理って事ですか……ふむ」
「あっ、そうなんですけど、野菜とか素材はこの世界の物を使っています」
「そうそう。オレもシーナの料理は食べているが、多分、調理方法と調味料が違うって感じだと思うぜ」
「なるほど、興味深いです。もちろん他言しませんので」
「ありがとうございます!じゃあ冷めちゃう前に食べましょう!」
そろそろ食べ始めないと、ウィルがかなりそわそわしちゃってる。
ウィルとリークさん、コリンさんにフォークを手渡す。
犬堂さんはお箸の方が食べやすいかなぁって思って割り箸を渡したら「これ矢にならない?」って言われました。
な、なりません!!
「いただきま~す!」
私のかけ声に併せて、バラバラに響く「いただきます」の声。
大皿に盛られ、机の中心に置かれた餃子へ皆の手が伸びる。
「んっま~!何だこれ、口の中で噛む度に肉汁が出てくるぞ!口当たりはパリッとしてるのに、野菜の甘みと肉のパンチがもっちりした皮に包まれて、何個でも食えそうだ!」
餃子を一口で食べきったリークさんの目がキラキラと輝く。
中身たっぷりで少し大きめに作っておいたのに、一つ二つとその口に消えていく。
「特にこの茶色いタレだ。少し酸っぱいがそこに独特の風味があって、付けると最高に美味いな」
「ふふふ、流石はリークさん。調味料に敏感ですね。半分だけ食べて、中の具にタレを付けて食べても美味しいですよ」
「本当か?どれどれ……んっ、確かにタレの味が強くなって、より中の具の味が引き立つな…美味い!流石はシーナだ」
「えへへっ」
リークさんの豪快にフォークへ突き刺して食べる様子は見ていて気持ちがいいなぁ。
はてさて、他の人はどうかな。
「ウィル、おいしい?」
さっきから終始無言のウィルへ問いかけると、彼はうんっと深く頷いた。
リークさんみたいに食べるスピードは早くないけれど、それでもしっかりと自分の小皿に沢山取り分けているのが、なんともウィルらしい。
一個一個を味わうようにして、噛み締めて食べているのを見ると、これは美味しくて黙ってるって時ですね!うんうん、大変よろしい。
あっ、でもウィルは逆にタレには付けないで食べている。
もしかして酸っぱいのちょっと苦手なのかなぁ。
次は味噌ダレを用意しても良いかもしれない。
「いやぁ、ラーメンに餃子ってやっぱり何だかんだ言って鉄板だよね、椎名君が作ってくれたって言うだけで更に美味しく感じるよ」
「私だけじゃなくてウィルやリークさんも手伝ってくれましたよ」
餃子を口にしながら、犬堂さんが大きなジョッキに注がれたビールに口を付ける。
コリンさんの前で缶ビールを出すわけにも行かなかったから、ジョッキグラスに入れ替えて机に出したんだけど、犬堂さんがジョッキを片手にしている姿って新鮮っ。
だってワイングラス片手に優雅なディナーを食べてそうな人が、餃子とビールジョッキだよ!ギャップが凄いっ……。
とはいえ、ビールのつまみに餃子を食べている感じが否めなくもないんですけど。
後は……。
「コリンさん、お口に合いますか?」
「えっ、あ。はい。すみません、こういう機会はなかなか無いもので……つい、味わって食べようと」
餃子をひとつ取り、お皿に乗せた状態でじっと凝視していたコリンさんに話しかけると、彼は少しだけ困ったように笑った。
そういえばホットケーキの時もなかなか食べ出さなかったっけ。
最初は慎重な人なのかなぁとも思ったけど、今なら分かります。
コリンさんは絶対、好きな物は後に取っておくタイプです。
「沢山あるんでそんなに慎重に食べなくても大丈夫ですよ。むしろ、あんまりゆっくりしていると、ウィルやリークさんに全部食べられちゃいますから」
私が促す先にはもの凄い勢いで餃子を食べているリークさんとウィルの姿がある。
私の言葉にも説得力があるように思えて、コリンさんがフッと破顔するように笑った。
あ、笑顔がちょっと幼いです。
「ふふ、それもそうですね。自分の食べる分が無くなるのだけは勘弁して貰いたいものです」
そう言って、餃子をフォークで突き刺してぱくっと口に放り込んだ。
もごもごと動く口元に何故か緊張する。
じっと凝視していると、コリンさんの目がパチパチと瞬いた。
「これは……驚きました。まず、パリパリとした食感がたまりません。しかし口に入れて噛むと皮の旨味が感じられます。そこから溢れ出る肉汁と野菜の風味とコクが押し寄せてきて……とても美味しい。タレも酸味がほどよく効いていて、何より、一口で食べやすいのがとても良いですね」
ほんわかと緩く持ち上がる口角。
その言葉だけでこのランチに誘ったかいがありますねっ!!
「嬉しいですっ!いっぱい食べてくださいね。あっちにチーズ入りやシソ入りの変わり種があるので……って、あ~!!チーズ入り殆ど無くなってるじゃん!ウィル~~!!」
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