第229話 餃子を作ります!


「さてと、じゃあ張り切って餃子を作りますか!」


キッチンに引っ込むと同時に私はリスの絵がプリントされたエプロンを装着した。

あっ、こちらのエプロンはスマイルマートで販売している『ファンシーアニマルエプロン』になります。

料理を手伝ってくれる2人にも渡して付けてもらったんだけど……うーん、2人ともエプロン似合わないなぁ。

でもまぁ、形からって言いますもんね。

ちなみにウィルは猫。リークさんは熊のアニマルプリントです!


早速包丁を手にキャベリン……元の世界で言うキャベツを切っていく。

細かく切った方が個人的に食べやすいので、千切りにして更にザクザクと細かくみじん切りにしていく。

家によってはキャベツじゃなくて白菜を入れる所もあるよね。

それはそれでジューシーになって美味しい!


「リークさん切るの上手ですね!」


私の横でキャベリンを切っているリークさんの包丁さばきが見事で私は思わず声を上げてしまう。

芯を外すのも手早くて無駄が全然ないし、何より切り口も綺麗で均等だった。


「1人旅が多いからな。自炊してると、ある程度出来るもんさ。そうだよな、ウィル」


「……うるさい、今俺に声を掛けるな」


リークさんの爽やか80パーセント煽り20パーセントの皮肉が向けられたウィルも、キャベリンを切るのを手伝ってくれている。

いるんだけど。


トン

トン

トン


なんともゆっくりなリズム。

私とリークさんの切り方を見て真似ているからか、細かくは切り刻まれている。

ちょっと形が歪で大きい所があるのは、ご愛敬ってことで。

野菜が大きいとザクザクした噛み応えになるしね!


そうこうしている間に、キャベリン4つ分が全部切り終わった。

こんもりと積み上げられた刻みキャベリンに圧巻。

だけどこれはまだまだ序の口です!


「ボウル用意です!」


「おう!」


リーダーのように指示をすると、リークさんがとんでもなく大きなボウルを取り出してくれる。

小さいボウルで分けても良かったんだけど、ホテルのレストランがご厚意で貸してくれたのだ。

パーティや結婚式といった沢山の料理を作る時用の特別なボウルなんだって。


こんな風に通常サイズよりもはるかに規格外な調理器具を見ると、炊き出しとかそういうのを連想しちゃう。

何処かの地域では大きな鍋で作られた豚汁をショベルカーで混ぜたりするのもあったよね。

流石にそこまでは大きくないけれど。給食を作っている気分。


「このボウルに潰したお肉とキャベリン、調味料を入れていきます!」


ザザッとボウルに肉とキャベリン、別に混ぜておいた調味料を入れる。

ウィルが切り終わるのを待ってる間、リークさんに切ってもらったニラと生姜も入れて……よいしょっと。


「混ぜますよ~!」


後は混ぜるだけ。

まぁ、その混ぜるのが、この量ともなると重労働なんですけど。

皆でしながら全体的によく混ざった所で、コレの出番です。


「これを丸めて焼いたりするのか?」


「ちっちっちっ。そんな簡単なものじゃないです。これを美味しい皮で包むんです」


「皮?」


「はい、これでーーす!!」


ジャジャーンと音を自前でだして、私は餃子の皮を取り出した。

100枚入りセット×2袋!これでたっぷり食べられます!

具はいっぱい入った方が美味しいので、大判サイズにしておきました。


「随分と薄いな……まるで上質の紙みたいだ」


リークさんが一枚を手にとって、ひらひらと動かしつつ色々な角度から観察している。

くんっと鼻先を近付いて匂いを嗅ぐ様子が何だかマグナさんとそっくりで、笑顔になっちゃう。

あっ、そうだ。マグナさんにも餃子を少しお裾分けしてあげようっと。


「これ食い物か?」


「そうだよ。まぁ見てて」


ウィルが怪訝な表情を浮かべているのを制止、私は餃子の皮を取って掌に広げた。

スプーンを使って餃子のタネを置き、端に水を……ちょちょいのちょいっ!

親指と人差し指でひだを作るように皮を閉じていく。

あっという間に見慣れた餃子の姿が掌の上でできあがると、おお~とどこからともなく声がした。


「凄いなシーナ、魔法みたいだ!オレにも教えてくれるか」


「えへへ、もちろんです!」


久しぶりに作ってみたけど、我ながら綺麗に出来た気がする。

完成した餃子をお皿の上に置いて、次の皮を再び手にとると、今度は手元がよく見えるように2人の前に手を出した。


「真ん中にこう置いて、皮を半分に折ります。そしたら親指と人差し指で、こう折り重ねていくみたいにします。中身が出ないようにしっかり包んでくださいね」


「あーなるほどな。確かにしっかり押さえた方がよさそうだ」


「……」


納得するように軽く頷いたリークさんが、自分の掌に皮とタネを乗せて、きゅっきゅっとヒダを作っていく。

大きな指が綺麗に作る様をみて、思わず軽く拍手をしてしまった。


「リークさん、すごいです!完璧ですね!」


「いや、シーナの教え方が上手いんだって。よし、じゃあドンドン作っていくか!」


私が褒めるとリークさんは照れくさそうに笑いながら、お皿に自分が作った餃子を乗せた。

うんうん、初めてとは思えない綺麗さです。

やっぱりリークさんは手先が器用なんだなぁ。


「……」


もの凄く真剣な顔で餃子の皮を包んでいるウィルを私は横目に見る。

細い指先がヒダを作っているんだけど、ヒダ一枚一枚が大きいと言いますか……ううん、これはもうヒダある?ってレベルで、封がされただけの餃子だ。

中身もちょっとはみ出しちゃったりしてる。

形的には餃子というよりも中身のギッシリ詰まったクロワッサンみたいだ。


「ウィル、お肉入れすぎだよ。もう少し減らして平らに置いた方が綺麗に包めるよ」


「俺だってこれぐらい出来る」


私が横からアドバイスを送ると、ウィルは子供みたいにムッと口を歪めてぶっきらぼうに言い放った。


「出来てないから言ってるんです~!ほら、貸して」


頑なに1人でやろうとするウィルに思わずため息を漏らしながら手を伸ばす。


「こうして」


「お、おい」


餃子を包むウィルの手に自分の手を重ねるようにして、ヒダを一緒に作っていく。

あぁでも、やっぱり正面からだとちょっとやりにくいなぁ。

あ、そうだ!


「ウィル、こうだよこう!」


横にぴったりくっついて、ウィルの右手の下から自分の左手を入れる。

同じ向きになっちゃえば分かりやすいもんね。

ウィルの右腕を私の両手で包み込むような感じだ。

そして、コツが掴めるよう丹念にヒダを一緒に作った。


「こうやって、こう!わかった?」


「……」


「ウィル?」


「もう一回頼む」


「いいよ!」


ウィルが掌に皮とタネを置いたら、私が一緒になってヒダを作る。

うん!今度は中身も飛び出してないし形もなかなか綺麗なんじゃないでしょうか。


「うまいうまい。こんな感じで包んでいってね」


「なんだ、もうレッスンはおしまいか?」


完成した餃子をお皿に並べたウィルの手が皮じゃなくて私の手をとる。

きゅっと指を絡めるように握りしめられて、ハッと我に返った。

な、何も考えずにくっついているけど、これってウィルの右腕を抱き締めているのでは!?

そういえばずっと自分の胸にウィルの腕が当たってるし!?


「お、おしまい!沢山包んでね!」


「そりゃ残念だ。あと100個はあのままでも良かったんだがな」


「私が包めないよ!」


シュバッと音が出そうなぐらいに俊敏な動きでウィルから離れると、当の本人はニッと口角を持ち上げて、なんともニヒルな笑顔を浮かべている。

うう、なんて恥ずかしい。


今頃になってふんわりと鼻先に香るウィルの柑橘系の香水の香り。

そんなにくっついていたんだと、ドキドキするのを振り払うように私は頭を大きく左右に振る。

今は、私も餃子包みに専念するのだ!

なんてったって、これだけタネも皮もあるんだからね!

作り置き用も含めて沢山作っちゃうんだから。


切り替えるように、皮を手に取って餃子を包む。

綺麗にヒダが重なった餃子をお皿に置こうとした所で、随分とヒダが大ざっぱな餃子が目に入る。

ウィル?いや、ウィルはもう餃子作りに慣れつつあるんだけど……。


「あははっ……」


頭上から少し気恥ずかしそうな声が響く。

思わず声の方向を向くとリークさんが、皮を手に私に向かってウインクをしていた。


「いや~~、オレも急にだが上手く包めなくなっちまったなぁ。シーナが直接教えてくれたら、覚えられそうなんだが」


私へ向けられる熱っぽい視線。

ウィルの時は無意識にしちゃったけど、流石に意識してしまうと抱きついて手を重ねるなんて出来ませんよ!!

そしてリークさんはさっき完璧なまでに綺麗な餃子を包むことができてたでしょ!!


「も~~!いいから手を動かす!でないとご飯抜きですから!」


恥ずかしさのあまり、自ずと大きな声が出る。

楽し気に笑うウィルとリークさんを後目に、どうしたのぉと呑気にキッチンを覗きにきた犬堂さんにレクチャーを頼むのであった。

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