第226話 おいしい話には裏があるって聞いた
「……と、いう訳で。お嬢さんには冒険者連盟の支援受理の書類を書いて頂きたく思います」
「ほ、ほー……」
コリンさんがさらさらと話す内容を聞きながら、私の頭の中は「?」で埋め尽くされていった。
決して話し方が悪かったわけじゃなくて、もっと根本的な理解というか、なんていうか。
えーーーっと。
まず、首謀者としてウォールの市長さんには怪しまれたけど、私は無罪放免。
とりあえず賠償金は払わなくていいってこと。ここは重要だ!
でもそのかわりに、政府に管理されそうになった。
きっと閉じ込めたり政府の犬にさせられたりするんだ!テレビで見た!
その状況を聞いて、コストラ・ノースベールが私を保護したいって言ってくれて。
そして、そんな2つの国を押しのけて、冒険者連盟が支持するという形で手をあげてくれた。
こんな感じかな??
「あのぉ、支持って具体的に何をしてくれるんでしょうか」
「よくぞ聞いてくださりました」
おずおずと挙手しながらコリンさんに伺うと、彼は大きな鞄の中から紙の束を取り出して私に差し出した。
反射的に受け取った後で、それが「冒険者連盟有力者支持規約書」と書かれた書類だと気づく。
規約書ってもしかして、この枚数全部!?
百科事典ぐらいありそうなんですけど!?
「細かい概要は是非そちらの書類に目を通して確認して頂きたいのですが、大きいのは金銭の援助ですね。次に各大陸での身分の保証。そして、福利厚生のサービスです」
「おおっ、お金は凄く嬉しいです!でも、各大陸での身分の保証って何ですか?」
旅をするのに保証がいるの?って悩んでいたら、リークさんにポンと頭を撫でられた。
「そんなに難しく考えなくても良いぜ。簡単に言うと、シーナの身元は冒険者連盟が保証しますよっていう約束だ」
「リークさん、それって身元保証人ってことですか?」
「難しい言葉知ってんな。まぁ、そういう事だ。この人はきちんとした人ですよって冒険者連盟が太鼓判を押してくれてる。例えば貴重な遺跡や王宮っていう公的な場所や、高ランク冒険者しか入れない場所にも入れるようになるんだ」
「ほ、ほーーー」
頭を撫でられながら聞いていると、そのリークさんの手を、ウィルがペイって叩きながら口を開く。
「それだけじゃない。冒険者連盟が身元を保証してくれるって事は、お前がどこに行こうと『冒険者連盟がバックに付いている』事になる。冒険者連盟は完全な中立組織ってのもあって、その大陸の王でも軽くあしらえないようになる」
「そうなの!?」
リークさんとウィルに説明されて、私は驚きに口を開けたまま惚けてしまう。
まさかそんなにも凄い提案だったなんて。
いやでもごく普通の高校生である私が、世界的に大きな組織である冒険者連盟から支援を受けられるようになるなんて、ちょっと話がおいしいすぎる気がする。
おいしい話には裏があるっておばあちゃんに聞いた事があった。
もしやそれなのでは?
「えっと、ちなみに、その支援を受けた場合。デメリットとかってあるの?」
「「ない」」
2人揃って頭を左右に振られて、私は余計に頭を抱えてしまった。
ウィルとリークさんの態度から見ても、これは破格の提案なんだろう。
それは分かるんだけど、やっぱり少し納得がいかない。
うんうん悩んでいると、コリンさんが少しだけ困った顔で微笑んでいた。
「ふふ、危機管理があるのは良いことです。デメリットはありますよ」
「や、やっぱり!」
「デメリットは、冒険者連盟から何かしら依頼があるかもしれない事です。巫女の噂を聞き付けた人々が、巫女を求めるかもしれませんので」
「なるほどな、そういった面倒な輩を冒険者連盟がまとめて精査してくれるって事か。冒険者連盟を通してくれと言えるのは助かる。直接来られたらたまったもんじゃない」
ウィルは心底嫌そうにはぁ、と溜息をついた。
「はい。ただ、立場上、きちんとした依頼は一度通さないといけませんので。もちろん、気に入らなければ断っていただいて結構です。貴女には打って付けの理由もありますしね」
「理由ですか?」
「今は他の依頼を遂行中です、と言ってください。エオンまで行くのでしょう?」
そ、そうだった~~~。
最近忙しくてすっかり忘れていたけど、私、元の世界に戻るためにエオンに向かっているんだった。
あれ、でも、それって。
「エオンに行き、そこから連絡が取れなくなったら冒険者連盟は『巫女と連絡が取れません』と通しますので」
「……!コリンさん、知って……」
「私は冒険者連盟のチーフですので、依頼を調べるのは難しくありません。それを知った上で提案しております」
「どうして……どうして私なんかの為に」
「お嬢さんはあまり自覚が無いかもしれませんが、貴女がしてくださった守護と救いは、変えようのない偉業です。そして、星詠みの巫女はこの地に生きる者にとって大切な伝説でもあるんです。自分が生きている内にその奇跡を目にしたら、全身全霊を持って支持したいと願うのが信仰ではないでしょうか」
「……信仰」
「実は私、幼い頃から星詠みの巫女に憧れていたのです。本が好きで、その奇跡を物語で読み続けていました。自分がその伝説に触れられるとは思いもしませんでした。こうしている今も、内心は感動で打ち震えています」
どこかクールで抑揚の少ない表情が私の前でにこやかに笑う。
その時だけは、書類を前にバリバリ仕事をする姿が絵本をのぞき込む子供のように見えた。
「だから私なんかと仰らないでください。少しでも旅が楽になるよう、私の信仰を受け取って頂けませんでしょうか」
「……っ」
じっと見られて少しだけ顔が熱い。
普段あまり聞かないコリンさんの柔らかな声は大人の色気がある。
シナモンみたいに甘くて、でもジャンジャーみたいにピリッとする。
「どうか末永く私の巫女でありますように」
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