第225話 【別視点】コリンの盤上 4


「……何?」


「聞こえませんでしたか。冒険者連盟は全面的に巫女を支持します」


「コリンくん、それはいったい何を言い出すのだね!」


「言葉の通りです。彼女の行く先々で、我ら冒険者連盟が彼女を支えるのです」


「それは、私達が巫女から手を引く理由になるかな」


「えぇ、冒険者連盟は各大陸に分布しておりますので、どの大陸であろうと彼女の立場は確立される筈。逆を言えば、どの国の脅威にもならないということです。マクスベルン、ノースベール、コストラ、どの大陸でも、その土地にいる時に協力を要請できます。インフィニティセブンが良い例ですね」


まぁインフィニティセブンはそういう制約がある為だが、いる場所で協力を要請できるのは事実だ。

ここで名前を出しておくのは別の意味がある。


「また、巫女は今回の件で市民に大きな支持を得ました。その恩恵は強いでしょう。政府に管理されるとなると、反感もあるかもしれません。しかし各地に顔を出せば、その地域の活性になりますし、ウォールの名も有名になっていく。そして、ウォールに人が集まり、経済が潤う。そうなれば巫女と共に歩む市長もおのずと支持されるかと」


「た、確かに一理あるな……」


「それに巫女に要請したい事があれば冒険者連盟を通して、お力になれるかもしれません。例えばコストラの瘴気の池、例えばノースベールの針の森、など」


「先程の式の件と言い、貴様は耳がいくつあるのだ」


「ロレンス様にお褒めに預かり恐縮です」


「私はもう一声欲しいところだけど」


ヘンリーは相変わらずの笑みを湛えながら聞いてくる。

呑まれぬよう一度目を伏せ、ゆっくり開いた。


「では、最後に。これは冒険者連盟の権利でもあります。」


「権利だと?コリンくん、巫女に冒険者に関する権利なんか」


「巫女は我々冒険者連盟に正式に依頼を出しています」


背筋を伸ばし、はっきりと言い放つ。


「冒険者連盟の依頼は、国が妨害することができない。それは各国……他の3か国も含め、6か国の全世界共通です。政治的な依頼も受けますが、それは政府からの依頼が前提となります。あなた方がこれを守られないのであれば、他の国3国の付け入る隙となりましょう」


「……」


「依頼の内容は何なのかは教えてくれるかい?」


「それは正式な手続きを通して頂かないとお答えできません。しかし、他ならぬヘンリー様にはこれだけは伝えておきましょう。」


「何かな」


「依頼を受けたのはインフィニティセブンのクレア様。この世界で一番の魔法使いであり、兄上様であるリチャード様のご友人です。そして、その依頼を遂行し、巫女を守っている冒険者の登録名は……ウィル」


青い瞳が、揺れ動く。

この美しい男がこんなに動揺していたのは、初めて見た気がする。


「ヘンリー様には別の動きができましょう。それに、ウィルさんが星詠みの巫女の依頼を受けていることは、ロレンス様はご存じの筈。その上で結婚式があったのですから」


続いて、紅い瞳もバツが悪そうに揺れ動いた。


「また、キレヴァ・ロヴァ市長。星詠みの巫女が懇意にしている冒険者はマクスベルンの者です。その者も、巫女の依頼に遂行しています。何よりここには冒険者連盟の本拠地があります。巫女はこの地を大切にするでしょう」


三人が口を閉じる。

巫女から依頼を受けていることは、真っ当な事実だ。

そして他の情報も事実しかない。


冒険者連盟はコストラとノースベールにも存在する。

つまり、どの国も争う事なく恩恵を受けられる。

そう、このままでは巫女が自国に付いた時、他国に付いた時、どちらであっても諍いが起きるのだ。

ならば自国に無理やり連れてくるより、招く方が都合がいいのではないか。

冒険者連盟は国ではないのだから。


「以上を踏まえ、巫女は冒険者連盟が預かりとなるよう提案します」


冒険者連盟の所属となる。

勿論これは星詠みの巫女が承諾しないと叶わない事ではではあるが、監禁されたり無理矢理海を越えた国に連れて行かれる可能性に比べては、天秤の傾きが全く違うだろう。


勿論、全てが上手い話というわけではない。

彼女が冒険者連盟の支援を受けるということは、冒険者の一員であるという事。

国所属と違い守る壁がない巫女は、自分で降りかかる事件を何とかしなくてはらないのだ。


でも……それでいい。

大人達の思惑で少女を巻き込むなど、あまりにも残酷だ。


「いかがでしょう、皆々様。意義のある場合は申し出て頂きたい」


私は願う。

己の選択が間違いではなかったと確信する時がくることを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る