第223話 【別視点】コリンの盤上 2


おろおろするだけで何も言えなくなってしまった市長に一言断りを入れてから、私は口を開いた。


「神獣は何も自然に倒れた訳ではありません。ノースベールによるモンスターの討伐、コストラによる個人的な巫女への支援は確かに重要な決め手となりました。しかし、神獣と命を懸けて戦ったのは冒険者連盟に所属する冒険者達。そして星詠みの巫女である事を、お忘れなきよう」


「こ、コリンくん……」


「神獣を他国の人間が傷つけたとなると問題になるでしょうが、今回は『あくまで星詠みの巫女の支援に留まる範囲』とご主張なされています。ならばむしろ、いつ復活するかも分からなかった神獣が、ノースベール、コストラ両国の戦力があったこのタイミングで復活したことは良かったのではないでしょうか」


神獣の復活原因は未だ不明。

だが、復活してしまったのであれば仕方がない。

それを存分に利用するまでだ。

これは、一方が偏りすぎない形で関わっていたから出来た荒技であろう。


「確かに、余やノースベールの騎士、そして星詠みの巫女が居なければ被害はもっと広がっていたことだろう。最悪の結果、ウォール自体が消えていたかもしれぬな。だが街ひとつが消えた所で得られるものに比べ安い代償だ……やはり得をしたのは、市長、貴様ではないか?」


「……これだけの被害が出ておきながら得など決して」


肘置きに腕を付き、どこか気だるげな様子でロレンスは市長へ鋭い視線を向ける。

だが、ロレンスの口は止まらない。

ただ焦ることしか出来ない市長を、苛立たしげに追求する。


「神獣とは高濃度のエネルギー体だ。奴が今どこぞにいるか定かではないが、アレはマクスベルン神の右腕、このマクスベルンから出ることはないであろう。それはとどのつまり、ウォールを中心とするマクスベルンに未来1000年はエネルギーが存在するという事だ。我々に頭を下げ、貴様達は余の国から魔法石を買わなくても良い未来があるのではないか」


マクスベルンはその広大な土地から取れる生産性に比べ、圧倒的にエネルギー不足だ。

どれだけエネルギーが生まれようとも、それを使う人間の方が多いのだ。

だから、コストラから魔法石を輸入している。


だが、神獣が姿を見せたというのであれば話は別。

神獣のエネルギーはウォールからマクスベルン全土へと広がっていくだろう。

1年、5年、は今とさほど変わらないかもしれない。

だが10年もすれば、目に見えて変化が出てくるはず。

それはつまり、


「では、私達の同盟も破談ということかな?」


マクスベルン、コストラ、ノースベールの同盟に亀裂が入るということ。


「そ、そんなことは決して!!我々マクスベルンはこの同盟を何よりも重要視してます。その証拠にマクスベルンにとって重要な土地であるこのウォールに両国の領事館を建てている!」


「そうかもしれないが、マクスベルンがエネルギー不足から解消されるのなら、私達ノースベールの鉱石や宝石も必要がなくなるのかな?どうするロレンス、2国だけで同盟を組むか?」


「……そうだな。それも良いかもしれん」


「……」


まずい。

ノースベールは厳しい環境下の土地故に、生き残る為に戦争を繰り返し大きくなった国だ。全ての大陸内でもっとも軍事力に優れている。

マクスベルンは支援をしている立場だが、それは逆に軍事で攻められればひとたまりもない。

いくら騎士道を掲げようとも、彼らの揺らぎない一番は自国の王だ。

自分達の食糧不足を解消するため「豊かな土地を侵略する」可能性は高い。


そしてノースベールに攻め込まれた所で、コストラは助けてもくれないだろう。

マクスベルンが魔法石を買わなくなれば、より多く魔法石を買ってくれるノースベールを優先することは目に見えている。


……さて、市長はどう出るか。

まぁ、市長にマクスベルン政府はどういった指示を出したのかは、大方予想はついていますが。


「わ、我々ウォール、そしてマクスベルン政府は、今回の件に星詠みの巫女が深く関与していると考えている。彼女が意図的に神獣を復活させ、街を混乱に招いたのだと……」


それは、この二人の背景にとって非常に悪手だと言わざるを得ない。


「よって、彼女を重要参考人として聴取し、疑いが晴れるまで政府施設内にて管理する。同盟は彼女の容疑が分かるまで待って頂きたい。もちろん、その間に戦いがあればマクスベルンと共にある者として巫女には協力して頂く」


「貴様……」


「……期限を聞かせて貰おうか、市長」


「わかりません。エオンから特別裁判官を召集するのも視野に入れていますので」


市長の言葉にロレンスとヘンリーは一旦口を閉じた。

だが、両者の表情から伺えるのは嫌悪感と、清々しいまでにウォール側を見限ったと捕らえられる侮蔑の視線だった。


市長はこう言いたいのだ。

なんらかの理由付けで星読みの巫女をマクスベルンから一生出さない。

万が一にもコストラ・ノースベールの両国がマクスベルンに戦争をふっかけてきたのなら、星詠みの巫女とその神獣が矢面に立ち牙をむく、と。

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