第204話 お前のファーストキスは俺だろ!


「あ!だから……キス……?」


ロレンスさんの言い方が小難しいから理解するまでに時間が掛かっちゃったけど、それってつまり私とロレンスさんがキスをすれば、二人の間に絆みたいなのが出来て、私はロレンスさんのエネルギーを無限に使えるようになるってこと、なのかな?


「本来であれば術式を複数展開し、時間も掛かる所ではあるが、そなたは本当に運が良い。既にその身へ余の術式が刻まれておる。つまりシーナは余を受け入れる準備が出来ておるのだ」


そう言って、ロレンスさんは私の身体を指さした。

術式ってもしかして、結婚式の為に身体へ書いたヘナ?

ロレンスさんの魔法で洋服が戻った時、ヘナも無くなったから消えたものだとばかり。

あれって、形式的な意味だけじゃなかったんだ。


じゃあ、本当にロレンスさんとキスするだけで、スキルをもっと使えるようになるのか。

キス……キスかぁ……。


「……」


「やめとけ。他の方法を探すぞ」


「まだ何も言ってないんだけど!?」


「迷ってるんだろ。じゃあやめろ。俺も個人的に見たくないしな」


いつにも増してウィルがズバッと切り裂くように言い切ってくる。

ウィルが私の気持ちを尊重してくれるのは嬉しいけど、現状ロレンスさんが言っている案以外に私が役に立てることって無いんだよね。


「迷ってるっていうか、その……ファーストキスだから、ちょっと緊張してっていうか」


私まだ高校生ですし!

誰かとお付き合いしたことなんて無いから、勿論キスなんて初めてで……。


「はぁ!?」


「ぴえっ!?なんでウィルがキレるの!?」


かつてない勢いでウィルが目くじらをたてる。

あ~~!!イケメンは怒ってもイケメンですね!!なんて言ってる場合じゃなくて、ウィル割と本気で怒ってるよ~!

本当に何故キレられているのか皆目検討が付かないのですが!


「そうか!では余がシーナの初めての男となるわけだな。ふむ、やはり余と妻は生まれた瞬間から結ばれる運命であったのよ」


「え、えぇっ」


「初めての男というものは生涯頭に残ると言うぞ。なに、余以外に我が妻が見る必要などありもせんがな」


ふむふむとロレンスさんが感慨深そうに噛みしめて頷いている。

それに関しては少し語弊があるかもしれないですけど……ってウィル、なんだかブルブル震えてませんか?


「ウィル?大丈夫?」


「……お前のっ」


未だ苛立ちを残したまま、ウィルが私を睨む勢いで真っ直ぐ見つめてくる。


「お前のファーストキスは俺だろ!!!」


「………えっ」


いつ?むしろなぜ??

本気でウィルの言っている言葉の意味が分からなくて、私の頭が猛スピードで回転し始める。

ウィルが私を驚かせる為に付いている嘘……でも無さそう。

なんか本気で怒ってるみたいだし。

じゃあ、本当に……?


エメラルドの瞳が、痛いくらいに真っすぐ見つめてくる。

そうだ、あの時も。


『好きだ、シーナ。白き薔薇は永遠の愛をお前に誓う』


その瞬間、水の音と一緒に、私の脳裏を見たことの無い記憶が過った。

違うよ、見たことある。だって、この瞬間を私は確かに感じたんだから。

朦朧とする意識の中、私を真っ直ぐ見据えて、ウィルが確かに誓ってくれた言葉。

そのままエメラルドの煌めきが近付いてきて、唇が……。


「は、はわ……はわわ……」


思い出した。

思い出しちゃった!!!!

私、ウィルとキスしてたよ!!!!


ぼふん、と音を立てながら私の顔が真っ赤に染まっていく。

耳まで熱を持った状態でウィルの顔を凝視することなんて当然だけど出来なくて、勢いよく顔を俯かせる。

混乱して目がグルグル回る。

「あー」だの「うー」だの、意味不明な言葉ばかりが出てしまった。


覚悟を決めてなんとかウィルを盗み見たのはいいものの、途端に眩く感じて、すぐに撤退してしまう。む、無念。


「思い出したかよ」


「……ハイ」


少しふてくされたような声にビクリと肩が跳ねる。

ど、どんな顔をしてウィルを見たらいいと思う?

だってウィル、私のこと……!!


「ファーストキスの相手など記憶と共に薄れて美化された思い出だけが残るものよ。重要なのは今、最もそなたを愛す者からの口付けであろう」


「言ってる事がさっきと180度違うな」


「王ともなろう者は柔軟性も大切だからな」


あまりにも考えがコロコロ変わり過ぎるのも問題な気もする……。

それはそうとして、ロレンスさんのおかげで少し落ち着きを取り戻せたかもしれない。

多分……いやもうちょっと無理。


「ファーストキスの相手がそのウィンチェスターという所には不服だが、ファーストキスを理由に躊躇するという事は消えたな。さて、どうする?」


「どうするって……」


「余と口付けを交わし、ウォールを救うか?」


「その言い方は……」


少し卑怯です。

きっとロレンスさんは分かってやっているんだろうな。


あちらこちらから上る黒い煙。

剣や魔法のぶつかる音やモンスターのうなり声。

逃げまどう街の人達と、何より苦しみ暴れるドラゴン「アダレ」の悲痛な嘆き。


それをどうにかすると立ち上がった以上、手段を選ぶなんて贅沢な悩みは存在しない。

あるもの全て、手の届く方法全部、今は試すしかないんだ。

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