第203話 愛の力だ
「確かに他者へ異世界人の加護を付与するというスキルは神秘と呼ぶに相応しいレベルの術式であろう。それ故に効果時間が短いのも納得ではあるが……5分はあまりにも短くはないか!?」
「う、ううううっ!そんな事言われましても」
「ついでに言うなら、シーナのエネルギーキャパの関係上、スキルは一度に1人が限界だと思うぞ」
「1人!?5分で1人!」
「あああ~~!!なんでバラしちゃうのウィル!?」
「作戦を立てる上で不明確な情報ほど場を混乱させるものはないからに決まってるだろ」
ご、ごもっとも……。
一応、私なりにフォローを入れさせてもらうとするなら、複数の人に個数変更のスキルを掛けるってことは、やったことがないってだけで多分出来るとは思うんだよね。
事実、トータの街で襲われた時、私はキャロラインさんを含めた複数の人に対して一時保留をしているんだから。
つまり、複数人の情報をレジに取り込むことは可能ってこと。
でもまぁ、一時保留と個数変更じゃエネルギー消費が全然違って、私のお腹が大変ひもじいことになりかねない。
「いっそ、パンを食べながらなら、時間を伸ばしたり複数の人に掛けたりできるかも……!」
「す、スキルを使いながら食事をしなければならぬ程にエネルギー消費がすさまじいのか」
「いやだから、コイツのレベルが低すぎて体内にエネルギーを蓄積するキャパが少ないだけだ」
ウィル~~~!!!!!わざわざご丁寧に説明してくれなくていいです!!!
ほら、ロレンスさんが信じられないって愕然とした表情のまま後ろに下がっちゃったじゃない。
これは絶対に引かれているって!!
「いや、待て……つまり、体内にエネルギーさえあればシーナはスキルを無限に使えるということか?」
胸の前で腕を組み、考える素振りで軽く目を伏せるロレンスさんの様子がさっきよりも随分と落ち着いて見える。
驚愕に塗り潰されていた顔は、あっさりと冷静さを取り戻していた。
「えっと、多分。いつもご飯を食べたらまたスキルが使えるようになりますし」
「なるほど……」
ふむ、と暫く無言を貫いたロレンスさんがようやく私を見た。
今度は何処か楽しそうでワクワクしている。
「良い案を思いついたぞ!やはり余は天才だな」
「本当ですか、ロレンスさん!」
この状況下で名案ってまさに奇跡!
王様としてのカリスマ性って、難題にぶつかった時にも発揮されるんですね、さすが!
あれ、ロレンスさん急に私の所に来てどうしたんですか?
そんなに強く両肩を捕まれると、ちょっと緊張するというか……それに、顔も近付いてきて、このままだと私……ロレンスさんに、キ……。
「おいっ!!」
あと数センチで唇が重なる所で、ウィルの大きな声。
突然のことに目をパチクリさせる私の前で、ウィルが半ば無理矢理ロレンスさんを私から引きはがす。
ついでに風のような早さで私達の間に割って入ってきた。
そこでようやく私は今の状況を理解する。
ロレンスさん、私にキスしようとしてた!?
「お前の名案っていうのは、死ぬ間際に良い思いをしてドラゴンと一緒に心中するって案じゃないよな?」
普段のよりだいぶ低い声でウィルが呟く。
ひりついた空気がその背中から伝わってきて、私は少しだけごくりと唾を飲み込んでしまった。
「そんな筈なかろう。余が死ねば100年はコストラの地で悲しみの雨が降り注ぐ事になりかねん」
「じゃあ、今、俺がお前の首を切り落としてその雨を降らせる前に説明しろ」
ウィル!?
あまりにも物騒なことを平然と口にするものだから、心配になってロレンスさんとウィルを交互に見たけど、ロレンスさんはそよ風でも受けたみたいに笑っていた。
「ウィンチェスターよ、貴様は魔法の知識は無いのか?まぁ、良い……ようは、シーナが常に万全の状態でスキルを使う環境があれば良いという話よ」
「万全の状態?」
私は思わず頭を傾げてしまった。
「そうだ。スキルを使うことによってエネルギーが直ぐに枯渇するというのであれば、消費するよりも先に補充すれば良いだけの事。それもエネルギーを失ったと感じる暇もない程にな」
えっと、つまり……10秒でエネルギーをチャージするゼリーを飲み続けるって事!?
いや、それはさすがに無理があるか。
「人間が一度に天や大地から吸収出来るエネルギーの量は限られてくる。ましてやシーナがそんな芸当出来るはず無いだろ」
「いいや、出来る。何も天からスキルのエネルギーを吸収しようとしているのではないからな」
「じゃあ、どこから……」
私の質問にロレンスさんがおもむろに自分の胸に触れる。
「余だ!生まれた時から22年間、この玉体を潤い続けてきた大地のエネルギーをシーナと繋げることによって変換し、スキルの糧とする」
どうだ!と言わんばかりの回答。
一瞬の間を置いて、私ではなくウィルが呆れた様子で口を開く。
「……本気か?つまりお前がシーナのエネルギータンクになるって?干からびて死んじまうのがオチだ」
「余はコストラ随一の魔法使いであるぞ。シーナに与えた所で余の身体は衰えぬ。ましてやウォールは余のテリトリー内、通常の何倍にも余のエネルギー量は膨れ上がるであろう」
「仮にお前のエネルギーをシーナに渡すとして、どうやって渡す。巫女や神官だって長い時間を掛けないとそんな芸当出来な……」
「愛の力だ!」
ウィルの言葉を遮って、ロレンスさんがぐいっとウィルを押しのけた。
私を真っ直ぐ見つめてくる赤い瞳が、静かに弧を刻む。
「エネルギーとはすなわち生命の源だ。余に取り込まれたのならばそれすなわち余の中に流れる全てである。この身から流れる血潮ひとつに至っても、エネルギーだ。それが少しでもシーナの中に入れば、繋がりが完成する」
「つ、つまり?」
「余の体液をそなたの中に入れればいい」
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