第202話 特大サイズの問題があるのです!


「うーん。いざ任せてくださいと言い切ったものの……」


高い建物から中央の島全体を見渡しながら私は思案する。

学生通りを抜けた先にどーんと出現しているドラゴンは、相も変わらず大暴れ。

さっきみたいなビームは出していないけれど、立ち向かってくる者はモンスターであろうと冒険者であろうと、問答無用で叩き潰そうとしている。


リークさんは周囲の状況確認をしつつ、モンスターの撃退の支援。

犬堂さんは地下から出てきたモンスターを調べたいからと、2人とは一旦分かれたのです。

私は今ウィルと2人だけ。

リークさんはともかく、冒険者ではない犬堂さんの個人行動は少し心配ではあったんだけど。


「椎名君。僕達はね、多分最強の防具を持っているんだよ。だから僕の心配はともかく、本当に危なくなったら……迷わずアイテムボックスの中に逃げ込んで欲しいんだ」


「アイテムボックスって、バックヤードにですか?」


「アイテムボックスはほぼ別空間扱いだから、異世界人でないかぎり干渉は出来ない。おそらく神獣の攻撃も中に居れば安全だと思う」


「でも……アイテムボックスは私達しか入れないんじゃ」


「うん。だから本当に危ない時は決断して。僕は椎名君には生きていて欲しいから」


ほわほわと頭の中で別れる間際に犬堂さんと交わした会話が蘇る。

生き延びるって感覚を今まで私は感じたことが無かったけれど、ドラゴンが破壊しつくした周囲を見て、初めて恐怖を通り越した畏怖を感じた。


でも、アイテムボックスに1人で逃げ込むなんて絶対に嫌だっ。

だって、それはウィルやリークさんを見捨てるってことなんだから。


「今でこそ、モンスターと攻撃しあっているからいいが、モンスターが全部やられた場合、暴れる相手を無くした腹いせにまた街の破壊をし始めるぞ……シーナ?」


考えに耽っていた所をウィルに呼ばれて慌てる。

来るかも分からないその時を想定して悩むなんて駄目だよね。


「ドラゴンは私を救う為に出てきたのなら、私が側にいくことで満足して落ち着いてくれたりしないかな」


むんっと意気込むように私は息を吐く。


「それはどうであろうな。封印が解けた時点で奴は何者かの呪詛によって暴走しておる。我が妻の声を聞き入れる余力があるかどうか」


「そうですよね……ん!?」


ウィルとの会話に唐突に入ってきた高貴な物言い。

ウィルと私が2人同時に振り返った先には、動きやすい格好に着替えたロレンスさんが立っていた。

それこそずっと一緒にいましたよってぐらい自然に。


「どうしてロレンスさんが居るんですか!?領事館でコストラの人達を守るはずじゃっ!」


「余の部下は皆優秀な者ばかりでな。余の出来る事は全て済ませた。それにどれだけ守りを固めようとも大本をどうにかせねば話は収まるまい」


あんなに領事館はボロボロになって大変な事になっていたのに!?って思わずツッコミそうになるけれど。

胸を張り、堂々とするロレンスさんの姿を見ていたら、不思議とコストラ自治区は大丈夫な気がするから不思議だ。

これがカリスマパワーなんだろうか。

とはいえ、ロレンスさんとは逆にウィルは露骨に顔をしかめてる。


「コストラの……しかも王族ともあろう人間がマクスベルンの神獣相手にちょっかいを出して大丈夫なのか。俺たち冒険者が神獣と戦うのは正当防衛だが、他国が手を出すとなると、神獣が万が一にも死んだ場合国際問題に発展するぞ」


そ、そうなの!?

そんな事聞いちゃうと、足止めって言われたけどあんまりダメージを与えたりしちゃ駄目なんじゃ!?


「マクスベルンの右腕ともあろう獣が人間風情の攻撃で死ぬものか。弱らせることすら出来るか怪しい所で死した場合の事など考えるだけ無駄よ。それに今の余は我が妻を守る為に来た。つまりは妻の付属品だ!」


「付属品……」


随分と付属が豪華すぎやしませんかね!?

ん……ちょっとまって、今ロレンスさん弱らせるかも出来るか怪しいって言ってたけど、それって結構ヤバイのでは?


「ロレンスさん。ドラゴンを足止めするには攻撃をして気を引かないと駄目なんですよね?」


「そうだな。そうでもしないと無差別に街を攻撃しかねない。封印師が迅速に封印する為にも多少は弱らせたい所ではある」


「ですよね。でも私達の力ではダメージらしいダメージも与えられない。ならドラゴンはこっちを認識してくれるんですか」


サイズ感の違いは勿論だけど、種としての規模がこれだけ違うと相手に認識してもらえないんじゃないかって思ったんだよね。

私だって地面を歩く蟻さんとか意識して探さないと分からないんだから、ドラゴンからした人間なんてそんなレベルなのでは……。


「どれだけ小さくとも周囲を煩わしく飛ばれては意識せざる終えまい」


「それは、そうかもしれませんけど」


「それにな。余は人間風情の攻撃では傷付かぬと言ったが、シーナ、そなたは別よ」


「わ、私ですか?私、攻撃出来るようなスキルは全く持ってないんですけど」


「……もしかして、シーナの能力を上昇させるスキルか」


ウィルがはっと何かを思いついたみたいに口を開く。

もしかして、個数変更のこと?


「先ほど緑髪の男に使っておったであろう。スキルを使った瞬間、あの男にはシーナの加護が付いていた。つまり、緑髪の男の攻撃は異世界人が攻撃した状態と変わらんという事だ。そして、異世界人の攻撃は神獣にも十分通用する」


「ほ、ほう。それって凄いの?」


あまりにもロレンスさんが堂々と説明するから感心しちゃったけど、いまいち分かりにくい。

チラッとウィルを盗み見してみたら、ウィルは反対に私を訝しげな顔で見てきた。

バチッと視線が合う。


「凄いなんてものじゃない。本来攻撃の通らない相手に攻撃が通るってことなんだからな。その気になれば、お前は神様だって殺せるってことだよ」


「……それは凄い!」


「理解してないだろ」


「え、えへへ。なんだか規模が大きすぎて理解が追いつかないというか……」


「無理もなかろう。異世界人のスキルはまだ謎の部分が多いからな。だが、これで分かったであろう。余の妻が居れば神獣であろうと容易き敵よ。スキルで余や高ランクの冒険者達を強くし対抗すれば良いのだからな」


ウィルとロレンスさんの話が本当だとすれば、あんなに凄いビームを出すドラゴンとの対決にも少しは希望の光が見えてくる。

だって私の個数変更で強くするだけで、ドラゴンに攻撃が通るようになるんだもんね。


でも、心配がひとつ。

ううん、ひとつはひとつだけど、特大サイズの問題があるのです!


「あ、あの~~」


「どうした、我が妻。そう奥手にならずとも申してみるがよい」


恐る恐る挙手をする私を、ビシッとロレンスさんが指差してくる。

ウィルはというと私の言いたいことには既に気付いている様子だった。


「私が皆をスキルで強くするってのは理解出来るんですけど、問題がひとつありまして」


「ほう。あれだけ強力なスキルに問題とな」


あああ、凄く期待されてる~~~!!!

でも、こればっかりは隠しても仕方がないことだから、言っちゃいますよ!


「個数変更のスキルは確かに強力ではあるんですが、強力が故に凄く疲れましてぇ……時間もそれほど長くは……」


「強大な力はそれだけ天を漂うエネルギーの消費も多いという事か。それによって陣形も変えねばならぬからな。して、どの程度もつ?」


「……分……です」


「ん?よく聞こえぬ」


「だーかーらー!もって5分です!!!!!」


パチパチとロレンスさんの真っ赤な瞳が瞬きを繰り返す。


「ご、5分!?」


かつてない程に表情を崩して驚愕するロレンスさんの大声が周囲に響き渡った。

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