第201話 足止めぐらい軽い軽い


「リーク、こんなモンスター見たことあるか?」


「いや、それなりに旅をしてきたが、初めて見るぞ」


ウィルとリークさんは、さっきの親子に襲いかかっていたモンスターの死体を注意深く観察している様子だった。

2人の背中からそっと覗き込む。

体つきはハイエナに近いかもしれないけれど、毛並みは白と黒の斑模様だし、耳だって角みたいに尖っている。

何より、口からだらんと飛び出た舌がカエルみたいに長かった。

一言で言うと……不気味だ。


「地中から出てきたみたいだし、新種の可能性もあるがな。ケンドーはどう思う?」


「ん~それにしては随分と弱くなかった?あれじゃあ型落ち量産型って感じで、少し凶暴な野犬レベルだ。何より、この模様は気味が悪いね」


「確かに。だが野犬でも、集まれば面倒な事この上ないな」


ウィルがモンスターに突き刺さったままだった自分の小型ナイフを引き抜く。

マントの下に収容されるかと思いきや、再度ノールックで彼方へ投げつけられた。

奥まった通路の先でキャインっと獣の鳴き声が響く。

おお~~お見事!


そうこうしているうちに、次第に周囲で爆発音や衝撃音が響くようになり始めた。

避難誘導が進んでいる証拠だ。


「ウィルとリークじゃねえか!相変わらず高ランクの冒険者は足が速ぇなぁ」


「よっ。パルスのオッサン!随分と久しぶりだな。アンタもウォールに滞在してたのか?それならそうと早く言ってくれよ。飯のひとつでもおごらせたのにさ」


「リーク、20代のお前達みたいに食う胃袋を満タンにする為にワシは働いてねぇの。こちとらもう60だぞ?コリン坊やに尻を思いっきり蹴飛ばされてなければ、孫のおままごとに夜まで付き合ってたさ」


沢山のレジカゴと冒険者達を引き連れ、橋を渡ってき壮年の男性はリークさんと親しげに会話を交わし、テキパキと他の若い冒険者達に指示を出していた。


ホリが深くてシワが沢山刻まれた顔はとてもワイルド。

西部劇にでも出てきそうなコート姿が映画俳優みたいで、痺れる渋いかっこよさ!

魔法石が沢山付いている猟銃に似た武器から察するに、このパルスって人も冒険者なんだろうけど……。


「ウィル、この人は?」


「パルスはAランクの冒険者だ。前にトータの宿屋を経営しているアネスは元冒険者だったって言っただろ。そのアネスの元相棒だ」


スキンヘッドのムキムキ姿が脳裏を蘇る。


「へぇー!!しかもAランク!!」


「もう引退してるけどな。ウィルも相変わらずの色男だなぁ」


陽気な笑い声と共にパルスさんがこっちへ近付いてきてビックリ。

お、おっきい……。

リークさんと同じぐらい、いや……下手をするとリークさんよりも大きいかも。

60って言ってたけど、肉体もアネスさんと一緒でぜんぜんおじいちゃんって感じしないんですけど!!

もしかして、冒険者ってアンチエイジングなのかな?


「もしかしてアンタがコリン坊やの言ってた巫女様かい?」


「は、はいっ!!」


急に話しかけられて、反射的にビクンと肩が跳ねる。

そんな私に気づいてか分からないけれど、少し腰を屈めてパルスさんはにんまりと人の良い笑みを浮かべてくれた。


「アンタの神具、こりゃ凄いぞ。モンスターからの攻撃を全て跳ね返す高性能なのに、誰でも使えるって所がやべぇ。国の宝物庫に入れられていてもおかしくないレベルだ」


パルスさんが上機嫌でそう言うと、後ろの冒険者の一人が、続くように声を上げた。


「この神具は本当に凄いです!前にかざすだけでモンスターが距離を取って、近寄れないんですよ。しかも飛んでくる攻撃も防ぐし!」


「本当ですかっ!良かった」


バックヤードでは本当にレジカゴで防御できるか心配だったけれど、無事に効果を発揮しているみたい。

チュートリアルさんの言っていることは本当だったんだ~良かった~!


「ワシは信仰心なんてもんはないが……アンタみたいに若くて可愛い巫女様なら、喜んで創造主に祈るねぇ。そうだ、いっちょワシにも巫女の祝福ってのをくれないか?」


「えっえっ、祝福って……」


「ほら、あのコリン坊やを腰砕けにしたって言う、くちづ……」


パルスさんが何かを言い掛けた所で、ウィルが間に割って入る。

特に何かを口にするでもなく、さながら圧でも掛けるみたいに無言のままジッと睨む姿に、パルスさんは肩をオーバーに竦めて見せた。


「ほぅ。ウィルのそういう顔は初めて見たな。なるほどなるほど」


とても上機嫌でそう呟く。

……と思った次の瞬間に、おどけていた雰囲気なんて完全に消え失せて、険しくも冷静な表情へと変わる。


「Bランク以下冒険者はワシの指示で民間人の避難とモンスターの迎撃に当たらせる。お前達高ランク冒険者にはドラゴンをなんとかして貰いてぇんだ」


「神獣だぞ?俺達の攻撃が通用するとは思えないが……」


「そこに関しては政府が封印師を急ぎ派遣しているって聞いた。お前達はそいつらが来るまで、ドラゴンがウォールの街を火の海にしてしまわないよう邪魔してくれていればいい」


「その邪魔がとんでもなく大変なような気がするがな……」


「なに、SランクのウィルとSランク相当のリークだ。足止めぐらい軽い軽い」


「……」


あっ、ウィルの背中からなんとも言えない負のオーラがビシビシ伝わってくるっ……!!

うう、そうですよねそうですよね!

私の所為でウィルってばSランクじゃないんですもんね!

……とはいえ、以前みたいにごめんなさいと謝るばかりの私ではないですよ!


「私もがんばってみます!」


「お、おい。シーナも行くのか?相手は神獣だぞ?」


迷うことなく言い切った私にリークさんが少しだけ狼狽える。

たった一発で街を半壊させてしまうような光線を出すドラゴンの前に立ちふさがるのは、確かにちょっと安請け合いしすぎな感じもするけど、


「大丈夫です。多分、あのドラゴンは私に何か言ってきたと思うから。私、あのドラゴンも助けたいんです」


「いやぁ、お前達よりこの巫女様の方が度胸があるじゃねぇか」


豪快に笑い出したパルスさんが私の肩をバシバシと叩く。

あまりの威力にふらつきそうになるのを必死に耐え、私はぐっと親指を立てる。


「ドラゴンは私達に任せちゃってください!」

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