第199話 私の手からゼリー食べてる


「これは精算しなくても良いんですよね?備品?扱い?」


『ソウソウ、だからマークが入ってるでショ。だけど、店内の備品ヲお持ち帰りすることはご遠慮クダサイ~って事デ、カゴは役目を終えたらココに戻ってくるヨ』


「なるほど!安全な場所までモンスターから身を守れたらここに戻ってくるんですね」


なんて良いシステム!

店内のカゴとかカートをそのまま駐車場に置いて帰ったりする人いるんだよ~。

あれ、忙しい時は回収するの地味に大変なんだよね。

何より口に入れるものを置くカゴだから、拭いたりとかしなくちゃいけないし!

でも、そのまま持って帰るのも窃盗だけどね。

レジカゴは使ったら返しましょう!


「じゃあカートごと持って行っちゃいます!むんっ!」


とりあえず、レジ袋を積み重なったレジカゴタワーのてっぺんに投げ入れる。

そして、連なったタワーのひとつを右手に、もうひとつを左手に持って同時に引っ張った。


私ぐらいレジバイトに慣れていると、一度にこんなにも沢山のレジカゴを移動させるのぐらい簡単ですよ!!

まずは60個ぐらいかな、これを外に持ち出して……。


「何だそれ、またトンチキだな。」


「お待たせ、ウィル。ちゃんと煙のやつもいっぱい持ってきたよ。ちょっと待ってね」


そう言って一番上のカゴを取ろうと手を伸ばすと、ウィルがスッと取ってくれた。

こ、これ良くマンガであるやつ……!ってそんな場合じゃなかった。


「あ、ありがとう。そうだ、これ!すぐ飲めるから皆の所に戻る前に、ウィルも一緒に栄養補給しよ!」


ウィルに10秒で飲めるゼリーを手渡して、私も自分の分に口を付ける。

犬堂さんは3秒で飲めるよ、って死んだ目で自慢(って言うのかなあれ)していたけど、私は流石にそんなに早く飲めないので、できる限り早く飲むように……ってあれ、ウィル、何でゼリーをじっと見つめてるんだろう。


「ウィル、ゼリー嫌いだったっけ??」


「いや。飲み方が分からないんだが」


「あー!!ごめんごめん!そういえば、ウィルにこのタイプのゼリー渡したことなかったね!」


つい、元の世界のノリで手渡しちゃったけど、異世界にはこんなパウチ商品なんてないか。


「開けるから一度返して~。えっと、これはね、この蓋の部分をパチッと外れるまで回して……吸う!はい、どうぞ!!」


そう言いながら、開けたゼリーを私はウィルの口元へと持っていった。

へぇ、と関心にも似た感想を呟いた後、ウィルはおもむろに、


「じゃあ……」


私が手に持ったままのゼリーにぱくっと口を付けて、そのまま吸い初めてしまった。

あ!いや、その!!自分で持ってねって意味合いで口元に持って行ったんだけど……。


「……!!!」


ウィルが宇宙をバックにした猫のように衝撃を覚えている。

このゼリーもウィルのお眼鏡に叶ったらしい。


「おいしい?よかった~……なら、まぁいいか」


ちゅーとゼリーを私の手から食べるウィルを見ていると、高貴な猫にまっしぐらなおやつを上げている気分にならないでも、ない。

なんだか可愛いから。

ウィルが飲み切った後、自分の分もジュッと吸い上げた。


「よし、行きます!ウィルはそっちの台持ってね」


少し恥ずかしさを滲ませながら、私は大量のレジカゴを持って建物の裏から飛び出す。


「お、お待たせしました~~!!」


見た事のない物体に周囲はざわついて、様々な感情を含んだ視線が私に突き刺さってきた。

えぇい、これは最強の防御アイテムなのです!!!


「このアイテムは創造主様の声を聞き私の聖なる力で召喚した神具、その名も<スーパーレジカゴ>です!」


「スーパー……レジカゴ…です、か。巫女様」


「そうです……私が信仰するスーパーマーケット教に古くから伝わる、全ての者(商品)を(カゴに)収容し安全な場所(店外)まで守る……(買い物)救い手です」


「なんと!!では、この見たことの無い文様は」


「これはスーパーマーケット教の神の名。これは神より祝福された物なのですよ」


「おおお……」

「幸運が舞い降りたんじゃ」

「えっ、あの人、巫女様なの……!」

「すげえ……あんなもの見たことない」


必死に巫女様っぽい雰囲気を出したかいがあって、周りの人はこの、どこからどう見てもレジカゴを神聖な物でも見るみたいに捉えてくれている。

よし、このまま押し通してしまえ!


「どうかこれを皆に渡してあげてください、きっとその身を守り、避難の手助けとなるでしょう」


皆に聞こえるよう大きな声で伝えた後、コリンさんに向き直る。


「それとこれは、魔避けの煙です。この缶の中に置き、端に火をつけてください。燃え続けるうちはモンスターから守ってくれますので、無くなったら次のものに変えてください」


「巫女様……ありがとうございます。直ちに動きましょう」


コリンさんが私を熱い眼差しで見つめてくる。

そして、ふかぶかと頭を下げ、声を張り上げた。


「皆、巫女様のお言葉を聞いていましたね!ここにいる民間人は私の元へ!職員はこのアイテムを中央の島へ届けてください!B級以上の冒険者はその護衛をしながら、モンスター討伐!C級以下冒険者はこの煙のアイテムを要所へ届けてください!すぐに動いて!」


「はい!」


さながらバケツリレーのようにレジカゴが次々と集まっていた民間人に手渡され、残った物も職員さんが中央の島へと運ぶ準備を始めている。

あわわ、この勢いだと全然レジカゴ足りないかも。

ここはバックヤードに入れる犬堂さんにもお願いして……。


「レジカゴが……防御アイテム……ひっ、だめ……おなかが痛いっ……」


「コイツ、さっきからずっと笑ってるけど壊れたのか?」


「も~~~!犬堂さん!!笑ってないで手伝って!」


身体をくの字に曲げて笑う犬堂さんの身体をぺちぺちと叩く。

相変わらず笑いの沸点が低いんですからっ!!

まぁ、レジカゴに関しては……私だって信じられないですけど。

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