第198話 神具スーパーレジカゴ


ふふん、スーパーマーケット教の本領はこれから発揮されますからね!


そう、不思議と今の私には次にやることが予測出来ていた。

ピカーンと光り出しそうな程に頭が冴えて、誰かに導かれているみたい。

ぐっと拳を握しめて、私は集まった人達へと改めて向き直った。


「今から私はこの状況を打破すべく、創造主様の力を借りて参ります!だから、今暫くお待ちくださいませ!!!」


「……巫女モードから戻るの早くないか」


う、うるさいなぁ!

つい癖で、お客様に待ってもらう時みたいな対応しちゃうの!!


ウィルの胡乱げな物言いに思わずツッコミを入れたくなったけれど、そこは寛大な心で受け流す。

そして皆に向かって頭を下げてから勢いよくウィルの腕を掴み、そのまま建物の影へと飛び込んだ。


「ウィル、ちょっとだけ見張っててね」


「早くしろよ。セーフゾーンの時の魔除けの煙もあったら持ってきてくれ」


「了解!任せて!」


ウィルに向かって胸を張りながら、路地裏で私は揚々と叫ぶ。


「バックヤード入りますー!」


私の眼前に現れるスイングドア。

そのまま、扉に体当たりしながらバックヤードへと飛び込んだ。


とりあえずは、ドラゴンよりもモンスターよりも、逃げている人を助ける事だ!


「よし、奮発して夏の超お得セットをいっぱい出しちゃうから」


まずは……じゃじゃーん!

ウィルに言われた、セーフゾーンで大活躍だった蚊取り線香!

この香りはモンスターを寄せ付けない効果があるんです。

前回は10巻程度が入った商品を使ったけれど、今回は50巻入り、しかも置くための缶入りのドデカ商品です。

これはお得ですよ~!

なんと、バラの香りやシトラスの香りもついています!


思わずTVショッピング風になってしまったけれど、これをとりあえず3セット。

後は怪我人の為の絆創膏や包帯に消毒液、スーパーの一部に置いてる程度のラインナップだから、軽傷にしか効かないかもだけど、無いよりはね。


それと10秒で飲めるゼリーも買っておこう。

さっきの個数でだいぶんエネルギーがない気がするから……!


もろもろをとりあえず精算して、レジ袋に入れる。

後は……。


「何かモンスターから身を守る物があれば……」


どれだけ避難所が安全だとしても、そこに到着しなければ意味がない。

モンスターと戦える冒険者も人数があるし、手が全く足りてない状態では混乱で被害が出てしまう。

そうならない為に、皆が個人で持てるアイテムがあれば。


「……とは言ったものの難しいなぁ。この前のスプレーは蜂用だから今回のモンスターに効くか分からないし……ううん、そもそも沢山の人に配れる程数もないからなぁ。ブルーシートを被って逃げる?でも、それじゃ視界が悪いよね」


身を守れる程度に大きくて

数も沢山あって

何より、誰でも手に出来る物……


『アルじゃん。君がレジの次に一番多くフレル物』


あの時と同じ、どこからともなく妙なイントネーションの言葉が響く。

それはじわじわと脳内に染み渡って、私の視界にごく平凡と積み重なって置かれていた「ソレ」を明確に目視させてくれた。


「いやそんなまさか……」


その発想は無かったっていうか……確かに、スーパーに来る人みんなが手にする物ではあるし?

商品がよく見えるように編み目模様になって隙間もあるから、視界もブルーシート程遮らないとは思うけど!


思うけど!!!


「レジカゴで!?」


そう、私が思い浮かべたのは、ショッピングバスケット。

通称レジカゴ!


キャスター付きの台車に積み重なっていて、スーパーに来た人なら誰だって手にする。

意識してなかったから、これまで気にも留めてなかったけれど、バックヤードにはレジカゴが沢山置いてあった。

今見えてる所にこれだけあるんだから、探したら量だってまかなえるかもしれない。


「丁寧にスマイルマートのロゴまで入ってて、私のバイト先と一緒だ」


バックヤード自体がバイト先と一緒なんだし、当然と言えば当然なんだけど。

近づいて手にしてみると、このレジカゴにもほのかに光の粒子が見えた。


「あのー……チュートリアルさん。レジカゴで本当に命、守れます?」


返事が来るかの確認も兼ね、改まってもう一度口にする。


『守レル!守レル!!』


「軽っ!!!本当に大丈夫ですか!?命、掛かってるんですけど!」


『大丈夫だっテ~~!心配性だなァ。そのグルグル巻きの商品だって、すぷれー缶だって君ノ世界以上の性能ガ発揮デキルんだからサ。レジカゴだって本領を発揮シチャウヨ!』


「レジカゴの本領って何なんですか……」


『そりゃァ。頭から被ッテ、身を守ル。虚無僧が被ってる籠ミタイニ。カゴだけに』


信用できない!!!!出来なさすぎる!!!!!!

チュートリアルさんの姿が見えるわけじゃないけど、絶対に真面目に考えてないでしょ、むしろ寝転がってお菓子でも食べながら声を飛ばしてるでしょ。


「ていうか、虚無僧が被ってるのは籠じゃなくて笠です~~~!!」


『神ジョークはこれぐらいにして』


「そんな単語初めて聞きました」


『まぁまぁ。デモネ、そのレジカゴが凄く守りニ強いのは本当ダヨ』


「本当、ですか?」


思わず私は聞き返してしまった。

だって、さっきまでチュートリアルさん、散々大笑いしてたし。

でも、不思議と耳を傾けてしまうのは彼が初心者ナビゲーターだからなんだろうか。

頭の中へ直接、胡散臭くて独特のイントネーションの、優しい声が響く。


『ウン。仮にも君のスキルの一部ダ。だから安心シテ、人を救いナサイ』


救いなさい。

そんな軽い口調で言われても説得力あんまりないです!

ないんですけどー……うん、今はこのレジカゴと私のスキルを信じるとしますか。

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