第13話 異世界人証明カードを手に入れた


相変わらずの笑顔を浮かべるキャロラインさんに、ふと気になったことを聞いてみる。


「異世界人って何人くらい来ているんですか?」


「年間ですと、10人程でしょうか。皆様、良い思い出ができたと戻られますよ」


「10人!?そんなに異世界人ってこの世界に来てるんですか!?」


「マクスベルンは平和な国ですので、他の国に比べると少ない方かと思います。争い事の多い大陸などでは、月に同じぐらいの異世界人様が召喚されたこともあると聞いたこともございますよ」


驚いた。異世界人ってそんなにぽんぽん召喚されてるものだったんだ。


そりゃ異世界人専用の援助制度とかできるはずだよ。

人にもよるかもしれないけど、それぞれが特別なスキルを持ってるんでしょ?

強いスキルを所持していたら、それこそ戦争とかで大活躍しちゃうわけだから、国からしたら手厚い待遇でずっと、こっちの世界に居てほしいよね……。


「シーナ様、今後のご予定はお決まりですか?」


「一応、首都エオンに行って元の世界に戻ろうとは思ってるんですが……」


「トータの街では異世界人の申請が受理されると、首都エオンから迎えの馬車を呼ぶすることが出来るんです。国の認可を受けた馬車で、護衛も複数つきますし安全です。勿論、無料で提供させていただいております」


「え、じゃあ。すぐにでもエオンに行けるんですか?」


「本日申請いたしますと、そこから受理される期間とトータとエオンの距離を考え、恐らく出発は3ヶ月後になりますね。ですが、こちらの馬車をご希望でしたら、お待ちの3ヶ月の間は役所の方でシーナ様をしっかり保護させて頂きますのでご安心ください。何も心配はございませんよ」


「……」


まさか徒歩や相乗り馬車以外に首都エオンへ向かう移動手段があったなんて。

しかも、遥かに安全そうだしお金もいらない。


異世界に放り出されて、右も左も分からないような状況の私にとっては、願ったり叶ったりな選択肢だ。

まぁ、こんなに制度が整ってるのは、私みたいな異世界人が多かったんだろうな。


暫く待たなければならないけれど、役所が保護してくれるって言うんだ。

それこそ観光気分で3ヶ月ゆっくりこの街で異世界を楽しめばいい。

いいんだけど…うん。


私の頭の中を、無愛想で皮肉屋だけど、なんだかんだ優しい王子様の顔が思い浮かんだ。


「あの……凄く嬉しい申し出なんですけど。せっかく異世界に来たんですし、他の街とかも見てみたいんで自力でエオンに向かおうと思います」


あぁ、もう本当私の馬鹿!


頭の中と行動はちぐはぐだけど、私がここで役所の保護を受けてしまえば、首都エオンまでウィルに護衛してもらう必要はなくなってしまう。

そうなった場合、1年間割引の呪縛を受けっぱなしってことになるわけで……罪悪感は凄い。

元の世界に戻っても絶対引きずる。


まだ出会ったばかりの付き合いだけど、ウィルって人はなんだか憎めないというか、なんというか……。


恨まれたまま別れるのなんて自分的に嫌だもんね!

遺恨は残さないに限る!


それに、どうせ3ヶ月何もせずに定期馬車を待つぐらいなら、レベルを上げながら徒歩で首都エオンに向かった方が有意義な気がする。


「……かしこまりました。ではシーナ様。こちらが異世界人だと証明するカードになります。役所での金銭支給の際に必要となりますので、必ず所持していてくださいね」


キャロラインさんが差し出してくれたカードを受け取ると、ツルツルした表面に私の名前と顔写真が浮かび上がる。


異世界人証明カードを手に入れた。ピロリーン。





カランカランとドアベルの音が流れ、私は無事役所での異世界人申請を終えた。


「何事もなく終わって本当によかった~。やっぱり役所ってどこの世界でも緊張するもんだね」


階段を下りて制服のポケットにカードをしまった私は、やっと一息つく。

対応してくれたキャロラインさんは凄く丁寧だし、笑顔も素敵だった。

だったんだけど……あの顔は笑顔だけど目が笑ってないって感じがして……国で働くのって大変なんだなぁって実感したよね……。

接客業だった私だからわかるぞ……あれは接客用笑顔。


「それにしても、まだウィルは終わってないのかな」


軽く周囲を見渡してみたけど、ウィルの姿は見えなかった。

あの顔面偏差値高めの人は、どこを歩こうとも目を引くから私が気づいていないって感じではなさそう。

あ、だから普段はフード被ってるのか。美形って大変だ。

なんて唐突に納得しつつも、私は暫くウィルを待つことにした。


10分

20分

……30分


遅い……遅いおそーい!

たかが30分。されど30分だよ!!!

待つだけならまだしも、私の格好は周囲の人にとにかく目立って、何かとこちらをチラチラ見られて、いたたまれないし!


こうなったら、冒険者連盟にこっちから迎えにいこうかと思ったんだけど、向こうの方からガシャーンって何かが割れる音と同時に、怒号が聞こえてきて完全に二の足を踏んでしまった。


「お、今回は誰が暴れてるんだ」なんて物見気分で見に行こうとしている住民とかもいるし、ヤダヤダ怖すぎ!!

こんなにものどかな街中なのに、あそこだけ世紀末みたいなんですけどっ!


ここで待っていろって言ったウィルには悪いけど、先にアネスさんの宿へ帰ってようかな。

来た道は覚えているし、あんまり一人で居たくない。


暫く行き交う人を眺めながら考えていたけど、やっぱりチラチラ見られるのに耐えられなくなって、私は顔を俯き気味にしながら歩き出した。


日差しによく照らされた石畳の道を戻りながら、何気なく遠くの景色を眺める。

地平を広がる高原にはぽつぽつと動物らしき姿が見えた。

だけどそれ以外は特に何もない。

おぼろげながら遠くに山があったりするけれど、私の視力ではそこまでが限界だった。


この見知らぬ大地を3ヶ月、私は生き抜かなければならない。

はぁ、ほんと一人になると考えこむのは悪い癖。正直不安でいっぱいだ。

生活をサポートしてくれるって役所は言ってくれているけど、だからって不安が解消されるわけじゃないし。


何とかしなきゃなぁと思うのと、ウィルへの迷惑に申し訳ないと思うのと。

行きはルンルンの石畳の道が、帰りはとても重く感じてしまった。

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