第11話 カモが剣背負ってやってきた


「ごちそうさまでした!」


テーブルの上に置かれた空の食器を前にして私は元気よく言う。

はぁ、まさか異世界で、こんなにも美味しい朝ごはんが食べれるとは思わなかった。

ご飯に味噌汁っていう定番も良いけど、毎朝パンをトースターに突っ込んで焼いていた私からすれば、パンのほうがしっくりくる。


ゆっくり話しながら食べていたこともあって、辺りが少し賑やかになってきていた。

冒険者も起きてきたらしく、宿からは出発する冒険者グループもいる。

その様子を眺めていると、冒険者グループを見送りながらアネスさんが出てきた。


「アネスさん、ごちそうさまでした」


「応よ、うまかっただろう」


「とっても美味しかったです!って、えっ、アネスさんが作ったんですか?」


アネスさんはまたニッと笑って、今度は親指をグッと立てた。

そして、どうやら机の食器を下げてくれるらしい。

私の前に置いていたティーカップを下げるとき、小声でこう言った。


「時間取れるよう、いっぱい出しといたが、イイ感じに進んだか?嬢ちゃん」


だから、違いますってばーーーー!!!!

私が真っ赤になったのを見て、アネスさんはとても満足した様子だった。

うううウィルに気づかれませんように!!


「あんまりヤボはしたくねぇんだけどよ、ウィル。お前に客が来てんぞ」


「客?」


どうやって重ねているんだってくらい一気に食器を持ったアネスさんが、顎で入口の扉を示す。

それと同時に、男の人が宿屋から出てきた。


ガッチリとした大柄な筋肉質体型で背がウィルより高い。一言で言うとでかい。

黄緑がかった明るい緑の短髪に、ミルクティ色の茶色の瞳。

グレーの服の上から、腕と胸に白い鎧をつけている。

白い鎧ってかっこいいな……凄くファンタジー。

そして一番目立つのは、背中の巨大な剣。


あ、昨日受付にいた人だ。ちなみに顔はやっぱり怖い!


「よう、ウィル。昨日はよくもやってくれたなぁ……オレから巻き上げた金で食う朝メシはうまいかよ」


「悪くないな。欲を言うならデザート代も一緒に巻き上げておけば良かったって、後悔しているところだ」


ひえええ~~何この人、ウィルにバチバチとメンチを切ってるよ~。

ウィルは軽くあしらってるけど、明らか挑発で返しているよね。

昨日何したの、ねぇ。


ヒヤヒヤしてたら、今度は男の人が私のほうを見た。

コワ!顔コワ!すごく睨まれてる!!


「アンタ、悪いことは言わねぇ。このイカサマ男だけはやめとけ!」


はい?


「俺の強運にボロ負けしたからって連れにあたるなよ」


「嘘付け!あんなカードの強運あってたまるか。それにオレは警告してんだ!」


「はぁ……」


何か、私が寝ている間に何が起きていたのか想像がついてきた。

男の人はずんずんと大股で宿屋を後にする。

姿が完全に見えなくなった所で、私は気持ち小声のままウィルに聞いてみた。


「朝食ってアネスさんがサービスだって言ってましたよね」


「さぁな。俺は知らない」


しれっとした表情でウィルは嘘ぶくのだった。





食事をして天気もよくなってきたから、このまま少しお昼寝したい所だけど、今日は大事な用事がある。

そう、役所への異世界人申請だ。


異世界からきました~って書類を出すなんて、気が狂っているとしか言いようがないけれど、援助金も貰えるっていうからしない手はない。

だって私は現状、無収入といいますか……お金に関してはウィルにおんぶにだっこ状態だからね。

それに、


「服が欲しいです」


宿を出て、役所までの緩やかな上り坂を歩きながら私は言った。

移動中や夜は人も少なかったから気にならなかったけれど、昼間に人の多い所を歩くと、それはもう色々な人に見られるのなんのって!


そりゃそうだよね、このファンタジーの世界において、私、セーラー服なんだもん。

この時代と合わない服装と腕輪っていう組み合わせは、あっという間に異世界人だってバレてしまう。


だからこそ、一刻も早くこの世界の服を手に入れて、溶け込みたいのである。


私の切実な願いは、ウィルにも少なからず伝わっていたのかもしれない。

彼は少し考えるような素振りを見せてから、浅く頷いてくれた。


「そうだな。異世界人だってことを隠す意味では服をさっさと着替えるのは得策か」


「分かってくれますか!!!」


「まぁな。それに旅をするならその変な服よりも魔法服の方がいいしな」


「魔法服?」


聞いたことないけど、服って言うんだから服には間違いないんだろう。

分かっていない私の顔を見て、ウィルが自分のマントを軽く広げて中に着ている服を見せてくれた。


細身のパンツに白いシャツの上に、すっごい細かい金の刺繍がされた黒のベスト。

うわっ、腰が細い。

その上に丈の短い黒いジャケットを着ている。こっちにも細かい金の刺繍。

腰に下げられた物騒な武器さえなければ、カジュアルな格好で乗馬を楽しむ王子様みたいだ。


それになんだかこの服どこかで見たことあるような……どこだったかなぁ。

結構最近な気がするんだけど。


「これが魔法服だ。特殊な布と糸が使われていて服ではあるが、一種のマジックアイテムとして冒険者達に重宝されている。多少の汚れには負けないし、高価な物になれば低級の魔物からの攻撃すら弾く。

何より、身体の清潔感も保ってくれるから風呂に入らなくてもいい」


「え!?お風呂入らなくていいんですか!」


「限度があるけどな。高い魔法服なら30日程度もつ。冒険者には無くてはならない服ってことだ」


道理でウィルさんが全然汚れていないと思ったんだ……まさか、そんなカラクリがあったなんて。


いや、しかしこれはある意味朗報でもある。

やっぱお風呂に毎日入れないって結構気になる所だったんだよー!!

だって花も恥じらう女子高生だから!もう違うけど。


今回は宿屋にお風呂があったから良かったけど、野宿とか繰り返してたらそんな余裕なんてなさそうだし。


「言っとくが、魔法服は結構高いから、援助金だと安物になるかもしれないぞ」


「別に安物でもいいですっ。お風呂入らなくても清潔でいられるとか画期的じゃないですか!」


浮かれる私に釘を差してくれたんだろうけど、そんなの無理無理。

魔法服があればお風呂問題は解決できるんだから、これを浮かれずしていられようか。

何よりお洋服を見れるなんて、楽しみすぎる。


ルンルン気分で歩く私を見て、ウィルは呆れたようにため息を吐いていた。


「単純な奴」


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