第10話 イケメン、ロマンを語る
結局バゲットにも手を出した私は、パリパリと小さくちぎって食べ、昨日から気になっていたことを尋ねる。
「そういえば、今日行く予定の役所って、どんなトコなんですか?ウィルさんが知っているってことは、冒険者と何か関係あったりするんですか?」
「いいや。役所は国が管轄で、冒険者連盟は冒険者支援連合同盟が管轄だが……ってそうか、お前そんな地味でヘンテコなスキルしか持ってないけど、一応異世界人だったな」
「地味でヘンテコスキルで悪かったですね」
ウィルが手にしていたサンドイッチにバクッとかぶりつき、目を細めながらこちらを伺ってくる。
見た目、お姫様をキスで起こしそうな王子様な癖に、仕草のひとつひとつが豪快なんだよなぁ、この人。あ、二口で食べきった。
「この世界には7つ大陸がある。それぞれの大陸が、それぞれ1つの国として成り立っている。
そこまでは、クレアから聞いただろう」
私はクレアさんのふわふわボディを思い浮かべながら、頷く。
「役所ってのはその国の政府が管轄している機関だ。施設の運営、街に必要な経費の捻出や税の徴収。銀行があって金の管理もする。
どれだけ管理が行き渡っているかは国によって格差も出てくるが、マクスベルン大陸は7つの大陸の中でも特に管理が行き届いていて、平和で裕福な国だ。召喚されてきた場所が良かったな」
「召喚されて出会った人にはちょっと外れちゃいましたけど……」
「何か言ったか?」
「いいえいいえ!!!続けてください!」
ぶんぶんと両手を振って誤魔化す。
少し不服そうだったけどウィルは続けてくれた。
「役所とは別に、冒険者が所属する冒険者連盟って言うのがある。こっちは7つの大陸全ての冒険者達を管轄する組織だ。年会費さえ払えば連盟の名簿に乗ることができて恩恵もある。ちなみに冒険者のランクが上がれば上がる程、恩恵も大きくなる」
「たとえば?」
「冒険者連盟に加入している店……武器屋や道具屋、魔法服屋。あぁ、あと宿屋もそうだな。それらの店を通常よりも安く使用できる。
それと冒険中の怪我や病気に対する保険制度だな。Bランクになれば冒険者を辞めた後でも金銭の援助が貰えて老後も安心だ」
「年金制度みたいだ……」
はぁ~なるほどなぁ。
やっぱり身体資本の仕事だから、いろいろ危険も伴うって意味でのサービスなんだろうな。
「とはいえ、そのランクを上げるのが一番大変なんだけどな。レベルは勿論だが、冒険者連盟がその都度募集している依頼をこなすことで、ポイントが貯まって昇級できる」
「ちなみに、Sランクに行くのってどれくらい大変なんでしょうか……」
「お前がそれを俺に聞くか」
「す、すみません」
ギロリとウィルに睨まれて、私は身を竦ませた。
いやー!だって気になるじゃん!
超一流Sランクってウィルのプロフィールには書いてあったからには、凄いんだろうけど。
「……Sランクになるには65以上のレベルと冒険者連盟の特別依頼を複数こなしているのが条件だ。だいたいは国と連携した依頼が多いな。要人の護衛であったり、街に被害を出すであろう魔物やダンジョンの制圧だ。それをこなしてようやく認められる。
認可されているSランク冒険者はそうだな……200人ぐらいだな」
「え!?ウィルさんってそんなに凄かったんですか!?」
「だから……超一流って言ってんだろうが」
ピクピクとウィルのこめかみがヒクついているのを見て、私はすみませんと蚊の鳴くような声で謝罪しといた。
いやぁ、レベル65でSランクに上がれるってことは元々レベル80だったウィルって本当に凄い冒険者だったんだぁ。
話を聞いている感じではSランクに上がること自体大変そうだし、うっかりレベルが40にされた状態でいるのって結構屈辱的なんじゃ……もしかしたら、ウィルって実は心が広い人……?
「どっかの誰かさんのせいで、Aランク落ちだけどな」
ハッと声が出そうな程にわざとらしく言い換えされ、目が点になる。
前言撤回~~~!!やっぱりちょっと心が狭いです!!
「というか、お前はそもそも冒険者っての、分かってるのか?」
「えーと。身体資本のなんでも屋って感じですよね」
「間違っちゃいないけど……」
はぁと盛大にため息を返される。
なんだなんだ。嫌みを言ったりため息吐いたり忙しいなぁウィルは。
「冒険者にも色々いる。地位や名声を求める奴も居れば、金欲しさの奴もいる。依頼をこなせばそれなりに金銭を貰えるからな。中にはそんなのには全然興味がなくて、単純に冒険者連盟の恩恵を受けたくてなっている奴もいる」
「確かに、年会費が払えるのならその方がお得かもしれないですもんね」
「だが一番は浪漫がある」
「ロ、マン……」
ウィルからそんな言葉がでるなんて思いもしなかった。
どちらかというと、ロマンとは縁遠いイメージだったから。
いや、見た目はかなりロマン溢れる美形だけど。
「冒険者になると7つの大陸間を自由に行き来できる許可が貰えるんだ。それはつまり自分の足さえ動けばどこへだって行けるってことだ。見たことのない魔物や、封印されたダンジョンに行けるっていうのは中々良い経験にもなる。世界中を冒険できる、まさに冒険者だ。」
「ほー」
「なんだよ、その気のない返事は」
「いや、なんていうか。ウィルさんって結構ロマンチストなんだなぁって」
「はぁ?」
ツンと無愛想な表情が柔らかくなっている様子は、警戒し続けていた野良猫が不意に自分の手から餌を食べてくれた時にも似た感動がある。
冒険者を語るウィルの表情はそんな風に柔らかくて、楽しそうだった。
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