第5話 クレーム対応にはまず、申し訳ございません!



「何かしたのか!?したんだな!?」


「はい???」


画面から振り向きざまに、勢いよく両肩を捕まれた。

そのままぐわんぐわんと乱暴に体を揺さぶられる。

ちょ、酔う!気持ち悪い!


「お前が変なボタンを押した瞬間、俺の技の一部が使えなくなったぞ!」


「そんなバカな。だって私は半額ボタン押しただけですよー!」


「半額ボタンって、これのこと~?」


クレアさんの声でようやくウィルの手が止まった。

かと思いきや、彼は私の身体を放り投げるみたいに手放し、レジのディスプレイを凝視する。


わなわなと身体を振るわせているウィルの肩からのぞき込んだ私は、ようやくその変化に気付いた。



名 前 ウィル(ウィリアム)

年 齢 26歳

性 別 男性

職 業 冒険者(斥候)

技 術 双剣レベル5 危険感知レベル5

    道具生成レベル5 

レベル 40

情 報 冒険者連盟Aランクの冒険者。


合計金額

50ゴールド



なんか、さっきよりステータスが変わっているような。

技とかのレベルが5になって…俊足歩行?っていうのも消えている。

それにレベルが……40!?


「え?あれ、なんで??」


「こっちが聞きたい!どうなっているんだ!早く元に戻せ!」


「申し訳ございません!すぐに修正させていただきますね!」


ものすごい剣幕で迫ってくるウィルを必死に押しとどめ、精一杯の謝罪を口にする。

あれ、なんだろう、この感じ懐かしいなぁ。

クレーム対応しているみたい……じゃなかった、早く修正しないと。


お会計の後に商品の値段が違っていたって、よくあることだからね。

そういう場合、修正戻りって機能で戻るんだけど……あれ。


「おい、何固まってるんだよ」


「あーえっと。少々お待ちください」


ディスプレイを端から端まで確認する。それはもう2回、3回と。

指さし確認までしてボタンのひとつひとつを確認していくけど、ない。

修正戻りのボタンがない。

いやいやいや、これが本当にレジ機械なら、その機能は絶対にある筈なのに、どうして!?


「あの~…大変申し訳ございませんが、レシートはお持ちでしょうか」


「はぁ!?」


「ですよね!」


あぁああ。これは怒っている。

お客様……じゃなかった、ウィルめちゃくちゃ怒っている。

いや、確認もせずに不用意に割引ボタンを押しちゃった私が一番悪いんだけど、まさかこんなことになるなんて思いもしなかったんだよ~~。


「ちょっとごめんなさいねぇ~」


どうしようかおろおろしていたら、クレアさんがウィルに向かって杖を向けた。

ほんのりとバニラエッセンスの香りがしたかと思えば、クレアさんはうーんと考え込んだ。


「シーナちゃんの割引ってのがどういう効果を持っていたのか確かなことは分からないけれど。ウィル、貴方凄く強力な呪縛が掛かっているわ~」


「クレアの魔法で解けそうか」


「できないこともないけど……時間は掛かりそう」


「どれくらいだ」


「1年ぐらい」


「いちねん!?」


「なんで俺じゃなくてお前が驚くんだよ」


「いやだって…1年ですよ!?」


クレアさんの言葉におもわず大きな声をあげてしまった。

慌てて両手で口を押さえるが、ウィルにギロリと睨まれてしまう。す、すみません。


「シーナちゃんのスキルで解除してもらうのが一番早いんだろうけど、それはできないのよね?」


「それが、私の世界では訂正できる筈なんですけど、なぜか今その機能がなくて……」


「たぶんそれは、シーナちゃんのレベルが関係あると思うの~」


「レベルですか?」


「そうよ。私達が魔法や技をレベルの上限で解放するみたいに、シーナちゃんも経験を積まないと強いスキルは使えないってこと。でもそれは逆に言えば、強くなりさえすれば鑑定以外のスキルも使えるようになっていくってことよ」


ほほーと思わず間抜けな声がでる。

レベルアップでスキルを覚えるってまるっきりゲームみたいだ。


「じゃあ私が強くなれば……」


「ウィルに掛かった半額?の割引を外せるかもってことね~」


おお!なんだかクレアさんの話を聞いているとやる気が出てきた。

このふんわりオーラには人を癒す効果がある、うんうん。


「そこで、シーナちゃんに一つ提案があるんだけど」


うんうん、うん?


「このウィルをエオンまでの護衛に貸してあげる」


「「え!?」」


私とウィルの声が見事にはまった。

いや、さっき別の人を護衛中でできないって言っていたし、そもそも凄くお金がかかるのでは。

ほら、ウィルもはちゃめちゃ動揺しているし。


「実は私、冒険者チームのリーダーをやっているのだけれど、そのチームの規約にレベル65以下の冒険者は入れないって約束があるのよねぇ~。だからレベルが40になってしまったウィルを私のチームに残しておくことはできないの。

でも、私がウィルの鑑定を頼んだ責任もある。だからエオンまでの道すがら、シーナちゃんのレベルをあげてウィルの割引を外してほしいの。ほらぁ、シーナちゃんもエオンまでの護衛が見つかるし、呪縛もうまくいけば解けるし、双方共にwin-winの関係でしょう~」


「俺にwinが一つも見つからないんだがっ」


「あら~いいじゃない、1年間呪縛解除に掛かるよりも3ヶ月間の間にシーナちゃんに治して貰う方が効率的でしょう。それに、私はよくても他のチームメンバーがたるんでいるって怒るわよぉ~」


「うっ」


ビクリと分かりやすくウィルの身体が固まった。

私から見たら十分ウィルも態度がでかいと思うけれど、そんな彼でもビビるぐらいにクレアさんが率いるチームのメンバーって恐ろしいのだろうか。


いや、まぁ、あの神の雷みたいなのを出すクレアさんのチームだからなぁ……槍ぐらい平気でふってきそう。


「それにぃ~」


クレアさんが急にウィルの身体を引き寄せた。

耳元に顔を引き寄せて、こしょこしょと何か喋っている。


「シーナちゃんのスキル。どう見ても鑑定なんてレベルで収まるものじゃないわ~。一時的な呪いとして能力の変動は他の魔法使いでも可能かもしれないけど、完全に貴方のステータスを書き換えている。

これは創造の上書き。何千人もの魔法使いを集めて何時間も掛かる作業をたった一瞬で出きるなんて、冒険者連合が……ううん、国が黙ってないと思わない?」


「……珍しいな、無償で人助けか」


「うふふ~、私は冒険者よ?異世界人に恩を売れるなんて貴重なチャンス、逃さないわ」


「怖ぇ女」


小声で喋っているから何を話しているか内容までは分からないけど、クレアさんが凄く嬉しそうだ。

それに、ウィルも渋い顔だけど、さっきよりかは落ち着いているように感じる。


さっきまでのウィル、とりあえず感情を爆発させるクレーマーみたいだったもんなぁ。

ああいうお客様ホント多い……あ、戻ってきた。


「そんなワケだから、うちのウィルをよろしく。レベルは弱くなっちゃったけど、それでも十分使える冒険者だと思うから、好きにコキ使っちゃってね~!」


「は、はぁ……」


上機嫌なクレアさんとは違い、分かりやすくウィルは不機嫌だ。

というか、さっきから視線すら合わせてくれないんだけど。

分かるよ、私の失敗の所為ですもんね!でも、これから3ヶ月は一緒なんですし、少しは仲良くしたいじゃないですか!


勇気をだせ、これから短くも長い付き合いになるんだから。


「よ、よろしくお願いします。ウィル、さん」


にこぉ、と笑いながら手を出した。

ガッチガチの表情がひきつって少し痛い。というかこの状態結構キツい。

それでも我慢して、手を差しだし続けていると、やっとウィルがこっちを向いた。


「……はぁ」


ため息!?ため息された!


「よろしく」


渋々と言った様子でようやく握手を返された。

いたいいたいいたい!!!めちゃくちゃ強く手を握られている!!!


「絶ッ対に俺の割引を外せよ。いいな!」


「は、はいいいい!!」


あぁ、前途多難。

私の異世界ライフ、最初から過酷すぎるんですけど~~~!!

神様のばかーーーー!!


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