第3話 商品をお通しします


レジ!レジ!レジ~~~~~!!!!


グレーのカラーリング、大きな液晶ディスプレイ、パソコンより余白の多いキーボード。

どこからどう見ても、スーパーにあるレジじゃん!

しかも自動釣り銭機一体型の結構大型な奴だし……あ、お札口、銀行ATMみたいに小銭もまとめて入れる奴だ、ラッキー。


…じゃなくて!なんで私のスキルを発動したらレジ機械が出てくるの。


まさか、私のスキル、レジ打ちとか言わないよね。

なにそれ、どこに需要があるの……。


そうこうしている間に、真っ黒だったディスプレイに電源が付く。

なになに、音声パスコードをどうぞ?レジ入る前に入れる、担当者IDみたいなのかな。

とは言っても、バイト先のID入れるワケにもいかないし、音声パスコードってことは、喋り掛けたらいいとか?


さっきのスキル発動の経験から見るに、音声パスコードの言葉も予想できないこともないんだけど……わかりやすく恥ずかしい。

誰だよ、スキルの設定したやつ、出てこーい!!


「動かないわねぇ。壊れているのかしら~」


「あ、いや。たぶん、パスワードを入れないと動かないようになっているんだと思います」


「へぇ。使用者を厳選して安易に使用できないようにする。それだけ重要な機械ってことか」


「まぁ……」


そりゃレジだからね。

お金を取り扱う機械は何でもセキュリティしっかりしとかないと。


それにしても、クレアさんとウィルさんから伝わってくる期待感が重い。

どう見ても、ただのレジなのに、古代から掘り起こされた貴重な機械みたいな感じで見られても困るよ~~。


「早く起動しろよ」


「わ、わかりましたよ。もう、勝手に期待してガッカリしないでくださいよ」


ほら!ウィルさんなんか直接的に急かしはじめたし。

この期待を裏切るのがめちゃくちゃ怖いが、もうこうなったらヤケクソだ。

私は浅く深呼吸を繰り返し、叫ぶ。


「お次のお客様ー!こちらのレジにどうぞ!!」


ピコーン。

なんちゅう間抜けな音だ。

私の声を無事認証したディスプレイが新しい画面を表示する。

画面は、左半分が商品名を表示する所で、右半分はさらに上下に分割されていた。

右上が割引や個数変更っていう機能選択画面で、右下が金額表示ね、ふむふむ。


というか、この画面を出す為には毎回あの台詞が必要とか憂鬱すぎる。

なぜ異世界に来てまで、私はレジ打ちをしないと駄目なのか。


ガックシと肩を落とす私を横からウィルさんがのぞき込んできた。

クレアさんの胸も視線に困るけど、ウィルさんの無駄に良い顔もなんか困るな。


「で。これは何ができるんだ」


まぁ、そうなるよね。私も知りたい。


「わかりません。この機械、私の世界でレジ打ち……えーと、金銭のやりとりに使う機械なんですけど」


「銀行か」


「違います違います。んーなんて説明したらいいかなぁ。小売業っていうんですか?そういう場所で、沢山の商品を買っても短時間で精算できるんですよ、誰でも簡単に計算と精算ができる機械っていうか」


まぁ、実際にレジ打ちってやってみると大変なんだけどね。

おぼえないと駄目な機能は多いし、支払い方法は無駄にあるし、横柄なお客様も多いし!


「まぁ~とっても便利ねぇ。道具屋でまとめて買ったりすると時間がかかって精算は次の日になったりする時もあるもの。ねぇ、使って見せてみて~」


「えっ。でもバーコードとか無いから使えるのかなぁ……」


クレアさんに促されるままにレジを見てみる。

すると、それはあった。レジの側面からびょーんと伸びたコードに繋がった小さな機械。

そう、親の手より見ているハンドスキャナーだ。


うーん、この手にフィットする感じ。

これなら、重たくて机にあがらない商品もピピッと一発よ。


周囲を見渡して、私は無数に生えている野花に向かってハンドスキャナーを向けた。


ピッ


「お。バーコードなくても通るみたい」


ディスプレイの左部分に野花の情報が表示される。なになに。



・タンポリン

 マクスベルン大陸の南西部に多く自然分布する植物。

 傷薬の元として広く使われている。


合計金額

 2ブロンズ



ブロンズってたぶんお金の単価だよね。

てか、これだけ?値段を見れるだけ?それって……。


「なんだ、鑑定か。スキルのわりには地味だな」


グサッ


「ウィル。そんな言い方しないの。鑑定は貴重よ。冒険者連盟の加入店や大きな都市部にしかないんだもの。それを個人で所有できるってことは小さな財産よ~」


小さいんだ…


「そりゃ悪かった。異世界人のスキルは唯一無二って聞いていたもんだからさ、期待しちまったのさ」


「いいえ、別に気にしてませんから~~……」


容姿も変わらないままなら、スキルもバイトとなんら変わらない。

特別感が全くない~~!!


「まぁまぁシーナちゃん、そうふてくされないで。そうだ~、これって人間には使えないのかしら。物だけじゃなくて、冒険者相手にも使えたら、一部の人たちから引っ張りだこの人気者になれちゃうわよぉ~」


「本当ですか?」


一部の人ってのがちょっと引っかかるけど、必要とされるのは嬉しい。

変な話かもしれないけど、今の私完全に一文無しだから働ける要素のある所には食いつきたいのだ。


「ほら、手始めにやってみましょう~」


そう言いながら、クレアさんは私の前にウィルさんを突き出した。


「はぁ!?なんで俺がこんな出所もしっかりしてないし、副作用もあるかも分からないスキルの実験台にならないと駄目なんだ!」


ウィルさん~~~!!ちょっと、口が素直すぎやしませんかねぇ!?

異世界人には……いや、そもそも人にはもう少し優しくするって義務教育で受けませんでしたか。


ちょっとだけ腹が立ったので、ハンドスキャナーをおもむろに自分へ向けた。


ピッ


甲高い音と同時に、画面に私の情報が表示される。



名 前 鏑木椎名(かぶらぎしいな)

年 齢 17歳

性 別 女性 

職 業 異世界に召喚された女子高生

スキル レジ打ち

レベル 1

情 報 異世界に召喚された女子高生。



ちなみに、合計金額の所には0って表示される。

人間は販売できないのか、レベル1の私はまだ金銭的な価値はないのか……後者な気もするけど。


ここまで表示されて、私の体調に変化はなし。

遅効性だったら責任取れないけど、スキャンするぐらいで死にはしないでしょ。


「ほら、別に大丈夫でしたよ」


ふんっ、どうだ!と言わんばかりに両手を広げて、ウィルさんに無事であることを見せつける。

するど、ウィルさんは途端にイケメンの顔を青くしたり赤くしたり、最終的には分かりやすく歪ませて、


「ウィル~~」


「わかったよ、やればいいんだろやれば!」


クレアさんの鶴の一声で覚悟を決めた。


「チクッとしますよ~~」


本当は全然痛くないけど、それぐらいの嫌がらせしても罰は当たらないもんねーだ。

一瞬ウィルさんの肩が大きく跳ねたけど、私は無視してハンドスキャンを向けた。


ピッ


お、出てきた出てきた。



名 前 ウィル(ウィリアム)

年 齢 26歳

性 別 男性

職 業 冒険者(斥候)

技 術 双剣レベルマックス 罠感知レベルマックス 

    道具生成レベルマックス 俊足歩行

レベル 80

情 報 冒険者連盟Sランクの一流冒険者。


合計金額

 100ゴールド



れ、れれれレベル80!?なんだそれ、見間違いじゃないよね。

しかも一流冒険者って表示されているし、技の所も書ききれないぐらい表示が……っていうか、一番の驚きはこの人が26歳ってことだよ!

歳のわりに色々大人げない所多くない!?


言葉を失ったまま、ウィルさんを見ると、私の疑惑の眼差しをウィルさんは感動したのだと勘違いしたらしく、顔を逸らして少し照れた様子だった。


いや、違いますよ、呆れているんですって……。


あと合計金額の所。

私は0って表示だったけどウィルさんは100ゴールドってなっている。


「凄いわ、シーナちゃん~!こんなに細かくなんて冒険者連盟のお抱え魔法使いでも見られないわよ~!」


「わぷ!」


ずずいと伸びてきたクレアさんの腕にそのまま抱き寄せられる。

す、すごい、胸が凄い!このままじゃ窒息しそうってぐらい、すごい、柔らかい!


「あの、ちなみにゴールドってどれくらいの単位なんですか」


「そうねぇ、大きく分けてブロンズ・シルバー・ゴールドと単位があるんだけれど、それの一番上ね。大体100ブロンズで1シルバー、10シルバーで1ゴールドってとこかしら。ブロンズとシルバーの間やゴールドより上もある事はあるんだけど…難しいからそのうち憶えてねぇ~」


「なるほど、ありがとうございます」


簡単に言うとブロンズは10円、シルバーは千円、ゴールドは万円ってイメージかな。

ってことは、1ゴールドは1万円で100ゴールドって……うわ、100万ってこと!?

ひええ~~凄い金額だ。


凄い……考えをまとめようとしたのだが、いや、あの、ホント凄い弾力だ……。

なんとか顔をずらして窒息は逃れたけど、クレアさんから良い香りがして、もうそれだけで心身ともにふにゃふにゃになりそうだった。

フワフワする~~これが本物のテンプテーション、ごくり。


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