第2話 認証完了、スキル発動!


王子様が何言ってんだコイツって顔してる。

わかる、わかるぞ、私も自分で言っていておかしな気分になってきた。

でも、それなら辻褄があうのだ。

足があるから幽霊になっているわけでもないし、かといって天国と言うにはこの場所はデンジャーすぎる。


「ここって天国ですか」


「そうだな。俺が助けなければ行けていたかもしれないな」


すごい皮肉で返されたけど、これで確信した。

空想か、はたまた長い夢なのかもしれないけど、私は異世界に来てしまったのだ。


「あら~。その子、もしかして異世界人?」


どこからともなく、砂糖菓子みたいなフワフワトロトロな声が聞こえてくる。

いつの間にか停車した馬車から、一人の女性がこっちに向かってきていた。さっき神の稲妻みたいな衝撃で焼け野原にした張本人みたいだが。


「ひょえっ……」


「私異世界の人初めてみるわ~。思ったより、小さいのね。ふふ、かわいい~」


ぼいんっ。


「貴方、お名前は~?私たちの言葉がわかるかしら」


ぼいんっぼいんっ。


「もしも~~し~~」


ぼいいんっ。


知能って著しく低下すると何も言えなくなるんだな。

全身生クリーム、七色キャンディーとイチゴソース添えって感じの女性は、コットンわたあめみたいにフワフワなピンクの髪に手を添えながら、私の前に膝を付いた。


すごいんだ。うん、胸が。


いくら同性だからって言っても、こんなにも見事な胸があったら、ついつい目を奪われても仕方がないでしょうよ。

衣服も、布の面積の方が少なくない!?って感じのセクシー衣装だし、でもチュールのレースで縁取りされて可愛さも捨てていないっていう見事なコントラスト。


これはまさに女神様。

先に彼女と話していたら、私はここを天国だと思いこんだかもしれない。


「おい、聞いてんのか?」


女神様の言葉を遮る王子様にハッと我に返った。

危ない、危ない。フェアリーランドに連れて行かれる所だったわ。

えっと、なんだっけ。そうだ名前だ。


「鏑木椎名、です」


「かぶらぎしいな。しい、な。シーナ。シーナちゃんね。

初めまして、私は魔法使いのクレア。こっちは斥候のウィル。冒険者よ」


無愛想な王子様がウィル。ぼいんばいんな女神様がクレア、か。

それにしても冒険者なんて単語、漫画や映画以外で初めて聞いたよ。


さっき、クレアさんが使っていた魔法もそうだけど、斥候とか、マジで剣と魔法のファンタジー世界に来ちゃったんじゃないの~!

どこぞの銃社会みたいに、安全な場所から一歩出た瞬間、金を出せって刃物突きつけられるとかありそうで怖すぎる!


「あ、あのぉ。ちなみにこの世界って警察とかいます?」


「警察?役人とか騎士のことかしら」


ですよね。まぁ剣と魔法の世界にピストル持った警官が居たらおかしいか。


「えっと、じゃあ。クレアさんはなんで私のこと一目で異世界人って分かったんですか?」


これ結構素朴な疑問。


「あぁ、簡単よ~。変わった服もそうだけど、その腕輪でね」


「ん、腕輪なんて私つけて……あ」


クレアさんに促されるままに自分の右腕を見た私は、思わず間抜けな声を上げてしまった。

普段から付けている腕時計が無くなっている。

代わりに、青紫にうっすらと透けた透明の腕輪がしっかりはまっていたのだ。


いつのまに。

というか、腕時計安物だったけど結構気に入ってたんだけどなぁ。


「その腕輪はスキルっていう異世界人だけが持つことのできる、特殊技能を発動させる為の腕輪なのよ~」


「なるほど、だから私が異世界人だって気づけたんですね」


「えぇ。私たちは魔法や技は使えてもスキルは使えないの。だからすっごく貴重なギフトなのよぉ~」


「へー、そんなに貴重なんだコレ」


クレアさんが胸の前で両手を重ねながら、きゃっきゃっとはしゃいでいる。

その度にたわわな胸が揺れて、なんとも視線に困っちゃうんだけど、まぁいいや。

これは慣れるしかない。


……っていうか今更気付いたけど、事故で死んでないってことは、私は異世界に転生したんじゃなくて、召喚されたってことだよね?

腕輪に反射して写る自分の顔は当然ながら、朝洗面台で顔を洗った時とぜんぜん変わってなかった。


普通さ、こういう異世界に行くってなると絶世の美少女とか、人間ではない高貴な存在になるとか、そういう容姿的なチート要素が入ってくるもんじゃないの!?

実際、目の前にいるクレアさんやウィルさんは美男美女なわけだし、それは異世界から召喚されるっていう特別な条件でやってきた私に適用されてもいいと思うのよ。


それなのに、髪は普通の黒髪ボブだし。

服は学校のセーラー服のままだし、腕には変な腕輪付いているしーーーーー!!!!


せめて、そのスキルって奴ぐらいはチートの奴が欲しいよ!

ん?そういえば、私の持っているスキルってどんなのなんだ。

そもそも、使える技能なんだろうか。


『……は…です……』

は?


『スキ……はつ…』

なになに?


『スキルを発動するのです……』

何か聞こえてくるんだけど。


クレアさんとウィルさんを見てみたけど、二人に聞こえている様子はない。

この謎の声は私だけに聞こえている?もしや、本格的に幻聴……


でも、困った時に助言してくれるメタ的な存在ってゲームによくいるよね。

チュートリアル説明をしてくれているって考えたら、こういうのも有りなのかも。

しらんけど。


(いや、発動したいんですけど。発動の仕方がよく分からないんです)


ものは試しだ。私は頭の中でチュートリアルさんに聞いてみた。


(どうしたらいいんですか?)


……あれ、何も返ってこない。やっぱり、私の幻聴だったの?


『貴方の普段よく使う言葉を言うのです』


あ、返ってきた。よかった、私おかしくなっているわけじゃないんだ。

いや、おかしいから聞こえるのか?

それにしても、よく使う言葉ってなんだろう。

頻繁に繰り返して使う単語なんて思い付かないんだけどなぁ。


『ヒント、挨拶』


ひ、ヒントって。なんだか間の抜けたチュートリアルさんだな。

最初の方はもっと厳かなイメージあったのに。なんか軽くない?


まぁ、いいや。挨拶ね、挨拶。

んー、おはようございます、とか、こんばんは、とか。


『違う違う。君、もっと毎日、数分おきぐらいに言っている挨拶あるでしょ』


なんだそれ、私は学校の校門前で挨拶指導をしている生徒会役員じゃないんだよ。

むしろバイト関係で色々目を付けられて……あ!!


『そうだ。それなのだ』


まだ、あ!って驚いただけでしょうが!!!


『その言葉を口にするのです。さぁ…さぁ…』


どこからともなく脳内に直接響いていた声が、すぅとエコーを響かせながら遠ざかっていく。

残された私は、なんとも言えない気持ちで腕輪を見た。


いいのか、そんなので。

自問自答するも、腕輪は鈍く光るだけ。それどころか、またあの謎の声が脳内にジャックしてきそうな雰囲気を感じて、私は頭を勢いよく左右に振った。


えーい、女は度胸だー!


「い、いらっしゃいませ~!!!」


恥ずかしい!!!これめちゃくちゃ恥ずかしいぞ!!!!!

これで大したスキルじゃなかったら、怒るからな!

何に怒るとか具体的なのは分からんけど、とりあえず怒るからな!!


しかし私の怒りとは裏腹に、腕輪は待ってました!と言わんばかりに青く光り輝いた。

透明なリング内を光の粒子が走り回って、私の目の前に集約する。

そして、なんらかの姿を型取りはじめたかと思いきや、ポップコーンが破裂するみたいな軽快な音を立てながらソレは出現した。


「……」


「なぁに、これぇ」


「何かの機械か?」


出現した物に言葉を失う私とは違って、クレアさんとウィルさんは興味津々と言った所だ。

そりゃ、そうだろう。こんな物彼女達は見たことないだろうから。


「な、なぜ……」


「シーナちゃん?」


「おい、大丈夫か?」


「なんで!!!レジ!!!」


見慣れたレジスター、通称レジがそこにはあった。


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