探求心の後悔 前編

僕が生まれたのはとある地方の貴族の家だった。

それなりに地位が高く、親が美男美女と噂だっている家系に生まれて、それなりに裕福に育ったと思っている。

欲しいものがある時やどこかへ出かけたい時など頼めば思い通りになる。

そんな家に生まれた僕は、暴君のように荒らしている事もなく、虚しい一人息子として育った。


人は生まれながらにして知的好奇心が深く、自立していない子供は自由気ままに行動するのが当たり前だ。

でも、僕は違った。

ほとんどの事に興味関心を示さなかった。


生まれた時なんて、泣き喚く事もせず悟った目で生まれてきたと親から聞いている。

執事やメイドの中では、そんな僕のことを気持ち悪いと思っていた人も中にはいた。

ただ、親は生まれてきた事に喜び、僕の子供らしからぬ事をいい意味で気にしていなかった。

それもまた、自分たちの子供のアイデンティティと受け止めていたからだ。


そんな僕も気がつけば9歳になっていた。

貴族である以上礼儀とマナーを躾けられ、後継としての勉強を強要された。

しかし、残念なことに僕は物覚えは良くても、勉強ができる器用さは持ち合わせていなかった。


貴族としての行動はできるが勉強はできない。

そんな後継をよく思わないものも多く、また、貴族として勉強はできて当たり前と言う刷り込みにより、家の者や同年代からもいじめを受ける事が多かった。

と、言う事もあまりなかった。


僕は勉強が出来なかったが、親はそのことをあまり気にしていなかった。

それは、放任主義だからと言うわけではなく、全ての人間が何もかもできることは無い、誰だって苦手な事もあると理解していたからだ。

簡単な話、親に恵まれていたのだ。


そして、家の者や同級生からあまりいじめられなかったのは恐れられていたからだ。

武術が得意だったわけでは無い。

いじめが得意だったわけでは無い。

権力を恐れられていたわけでは無い。


大人に匹敵する、またはそれ以上の魔術の才能を恐れられていた。

僕は勉強ができないと言ったが、実際は違う。

多分できるけどやる意欲が湧かず何も学ぼうとしなかっただけだ。

そのかわり、興味をそそられた魔術は人一倍勉強し、実験を繰り返すうちに人一人は簡単に殺せるほどの魔術使いになっていた。

だから、周りはそんな僕に仕返しされることを恐れて悪口すら言わなかった。


多分、そんなに日が続いたせいで他人の興味を失い、僕の探究心は魔術以外何もなかった。


そして、10歳の頃、僕に転機が訪れた。

僕より一つ上の女の子がメイド見習いとしてやってきた。

遠い地方からやってきたらしく、僕についてあまり知らない子だった。


その子は優秀で家事は完璧だと執事やメイドの中では噂だっていた。

運動もでき、勉強もでき、魔術も子供の中では群を抜いていると言われていて褒められているのをよく見かけていた。


それもあって、僕の世話係になった。

その子の近くにいれば僕がやる気を出すかもしれないと思われたのかもしれない。

僕もその子に感化されるかと思ったが、僕は未だに何事も興味関心を示すことはなかった。

その子と勉学を比較されても多かったが、特に思うことはなかった。


そんな態度が気に入らないのか、その子からちょっかいを出されるようになった。

自分より勉強もできない人間に従事したく無いのか、または、美談美女の家系に生まれながら普通よりいい程度の間抜け顔が気に入らなかったのか、いじめを受けるようになった。

僕が一人の時は蹴られたりすることは当たり前だった。

何もされないことがない時の方が珍しかった。

それでも僕は何も思う事もなく、いじめを受けても興味を見出せず黙って立ち去るばかりだった。


それが余計気に触るのか、その子の態度は常に変わることはなかった。

僕の前ではとにかくイラついてばかりだった。

それでも僕は何をする事もなく黙って普通の生活をしていた。


「ねえあんた、なんで何も言わないのよ!」


ある日、その子から声をかけられた。

普段はただ黙って蹴るだけだったので新鮮だった。


「なんでと言われても、わかりません。」

「何がわかりませよ!?あー、イライラする!あんたをみるとイライラするわ!」

「そうですか?」


言いたいことが終わったようだったのでその場をさることにした。

さっきの場所であの子が大声を出しているような気がしたけど、興味がなかったので気にしなかった。


そして次の日は蹴られることはなかった。

なので、いじめをやめたのかと思ったけど、そうではなかった。

また次の日から相変わらずいじめは受けた。

それでも僕は興味を持てなかったので、何をされてもうんともすんともしなかった。


そうしてまたある日、あの子に呼ばれた。

なんでも大事な話があるらしい。


「あんた、死になさいよ。見ているとイライラしてしょうがないわ。」


自殺するように要求された。

別に自殺に興味はないのでやらないが、理由を聞いてみることにした。


「どうしてイライラしるのですか?何か怒らせることをしましたか?」

「はぁぁ!?本気で言ってるの!?」


鼓膜が破れそうなほど大きな声。

その子はとても機嫌が悪いみたいだ。


「こっちはあんたみたいなクズの世話をするために来たわけじゃないのよ!あくまで自分の認める主人に使えるために来てるのよ!!なのに、なんであんたの世話をさせられるわけ!?」


どうやら僕の世話をするのが気に入らないらしい。

何かしてしまったのかと思ったが、どうやらメイド長の判断に怒っているだけだった。

自分には全く関係のない話だった。


「僕はメイドを変えてもらっても構わないので、メイド長に頼んで変えてもらってくだい。」


こういえばこの話も終わりだろう。

この子も僕が強制していると思って怒っていると考えたので、これでどうにかなるはず。

後は僕の関係ないことだから帰ろうと思い、部屋を出ようとするとまた呼び止められた。


「あんたなんでいつもそんななのよ!意味わかんない!気持ち悪い!!」


いきなり悪口を言われた。

どうしてか分からないが、興味がわかなかった。


「あの、用事がないのであれば、もう行っていいでしょうか?」

「だから、いいわけないでしょ!?まじでなんなのよあんた!!なんでこんなバカの従者をしないといけないのよ!イライラする。」

「あの、従者の件も僕は気にしないでメイド長に言ってもらえれば…」

「そんなのどうでもいいのよ!!」


ヒステリックに叫ぶ。

僕もどうしてこうなったのか分からずだまってしまった。

本当にどうしてこうなったのか。


「本当、あんた感情がないみたいにスルーするし、気持ち悪すぎるのよ!文句あるならはっきり言いなさいよ!」

「文句と言われても…?」


何かされても興味がわかないため、何も思わないのでなんの感情が湧き上がらない。

むしろなぜ怒るのか、その方が不思議に思う。

僕は怒ったことがなかったので理解できなかった。


「むしろ、生きて行く中で、なぜ怒る必要があるのでしょうか?その方が理解できません。」

「何バカなこと言ってんの!!気持ち悪いからに決まっているでしょ!!」


そう言われても理解できない。

嬉しと思うことはある。

それは知的探究心を満たしている時だ。

だから、それ以外の感情を持ち合わせた記憶はない。

そんな体験をしたことが無いと思う。

だから、気持ち悪いと思ったことすらないので理解できない。

人間という感情は謎だ。


「やっぱり、怒る意味がわかりません。」

「あんた、ロボットのわけ?分からないなら、自分で考えなさいよ!」


怒ったことない人間に自分で考えろと言われてもどうしろと言うのか。

自分で考えてもわからないから聞いているのにそれが理解できていないのだろうか?


いや、怒りという感情は理性的ではなく感情的な行動をしやすくなると聞いたことがる。

今はその状態になっているのだろう。


それにしても、感情というのはつくづく謎だ。

人間に、意味のない行動をさせたり、無駄な考えを持たせたり。

とても考えるには頭を悩まさせそうな断りを作ったようだ。


しかし、だんだんとこの子の揺れ動く感情に興味が湧いてきた。

どうして怒るのかの実験したくなってみた。

だが、どうやって実験をするかだ。

そういえばこの子は俺をいじめて、なぜ平然としてるのか、なぜ怒らないかと言っていた。

つまり、何か苦痛を与えれば怒るのだろうか?


なら、この子を使って拷問をしてみてはどうだろう。

よく感情的になるから、実験に使うにはとっておきだろう。


「ねえ、僕の実験に手伝ってよ。」

「は?黙ったと思ったらいきなり実験?バカじゃないの?手伝うわけないでしょ?」


それはまずい。

せっかくいいモルモットがいたんだ。

ちゃんと確保しないと!


拘束エンチャント!」

「な!?」


僕が唱えると無数の鎖がモルモットに襲う。

首、手、腕、胸、腹、腰、腿、足とモルモットの体全体に絡み付けます。

そして、巻きついた部分は枷と変化しその場に縛り付けました。


「君が自分で考えろっていうから、自分なりにどうして怒るのか調べてみるよ。だから、実験台として、君を確保させてもらうね。毒霧ミスト!」


そう唱えると、次はモルモットの顔の周りに霧が発生し、数秒もしないうちに彼女は眠ってしまいました。

こうして確保できたので、僕はとある場所へと向かいました。


そこは、この屋敷で一番危険な拷問部屋です。

僕の先祖は元々拷問や処刑を任されていた家系で、今ではその真実を忘れられている家系です。

僕はたまたまこの部屋を見つけてそのことを知りましたが、部屋を見つけるには何百という仕掛けを説かないといけないので、他の人は知らない事実だと思います。


「目を覚ましてください。」

「………」


眠らしてすぐなのでなかなか起きません。

なので、ペチペチと頬を叩くと意識を戻しました。


「こ、ここは?」

「ここは拷問部屋です。」


モルモットは自分の置かれている状況が理解できずにいました。

しかし、1から説明しても長くなるだけなので、簡単に教えてあげました。


「これからあなたに拷問します。それで、どうして人間は怒るのか実験したいと思います。そこで、被験体としてあなたをこれから拷問します。なるべく感情的になってくださいね。」

「は!?どういう事よ!?て、これ、どうして外れないのよ!?くそ、火炎ファイア火炎ファイア火炎ファイア!」


モルモットは鎖を溶かそうとしているようでしたが、一向に魔術は発動しませんでした。

それは、僕の鎖で使えないようにしているのですが、あえて伏せておきました。


そして、ついに実験ですが、拷問はとある本を参照させてもらいます。

それはこの『誰でも吐かせられる、肉体的、精神的、拷問の仕方108』と言う古ぼけた本です。

先祖が書き残した物なのか、それとも誰かが作ったものを持ち込んだのか。

真偽はわかりませんが試す価値はありそうです。


「では、最初のものからやっていきますね。え〜っと、初めは、『死なない程度に首を絞める』ですか。」

「ば、バカじゃ無いの!?」


手始めからキツそうですね。

ですが、これも実験のためです。


僕はモルモットに向かって手を握りつぶす動作をしてみせました。

すると、首についている鎖がだんだんと小さくなっていきます。


「いや、いや、いやぁぁ!」


苦しみ出すと暴れ出し、首の血管は浮き出て目鉢走ります。

しかし、殺すわけでは無いので、ある程度のキツさをキープさせながら観察します。


「ごろす!ぜっ、だいに、ゴロす!」


思った通りモルモットは怒り始めました!

ここからは観察するのみです。

どうして怒るのか?

その原因、理由、根本を探るため、死なせないように1時間粘りました。


「今日はここまでですね。」

「げほっ!おぁっ、げっ、、、、おぇっ!」


思っていた通りすぐには理解できませんでした。

やはり、1日では理解できないと思い、モルモットの拘束を全て解きました。


「はっ、バカね!拘束がなかったらこっちのものよ!」

「暴れないでくださいよ。明日以降の実験で使い物になら無くなったらと困るんですよ?」


モルモットに手を向けて2つの魔術を行使した。

一つは僕に対して一切攻撃できなくなる魔術。

もう一つは、特定の時間になると無意識に特定の場所に訪れてしまう魔術。


「な、何を!?」

「明日も今日と同じ時間に来てくださいね。一日1時間頑張ってもらいますから。」

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雪の降る冬のちょっぴりH短編集 雪の降る冬 @yukinofurufuyu

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