潔癖のボクサー
みつお真
第1話 潔癖のボクサー
「ねえちゃん・・・ボクにどうしろって言うのさ・・・初めから答えは出ているんだ。ボクは負ける!あんな大男に勝てるはずが無いんだ・・・」
「何を言うのカンちゃん!相手は見ての通りボロボロよ。やれるわ。きっとやれる!」
「勝手だよ・・・ねえちゃんは闘ったことが無いから判らないんだ!恐いんだ・・・ボクは闘いたくはないんだよ」
「郷里はガードが甘いの!そこを突くのよ!接近戦に持ち込めば勝機はー」
「接近戦がどんなものかも知らないくせに!」
「叫ばないで!」
ボクシング。
1ラウンド3分間の闘い。
今まさに、始まろうしている最終12ラウンド。
レフェリーの私とて興奮している。
セコンドと選手の緊張感。
美しい。
私は生きている。
フワァイトお!!
「カンちゃん!接近戦よ」
「大人って・・・」
選手同士が間合いを詰めている。
私にも互いの息吹が聞こえる。
いいぞ。
熱い闘いを見せてくれ。
チャンプカンちゃん!
挑戦者郷里!
「やるもんだな小僧、見直したよ」
「クッ・・・」
「だけど甘いな!左がガラ空きだぜ!」
出るか無敵の左ストレート!
いや、違う!
と見せかけてからの右ストレートか!
「いやああああ!」
「もらった!」
「グローブ汚い汚い汚い汚い汚い!」
交わした!
流石だ、チャンプカンちゃん。
レフェリーの私も目を疑う程の速さだ。
郷里のスクランブルストレートを交わすとは。
フワァイトお!
「やだヤダヤダヤダ、血がついてる血がついてる〜」
「見くびっていたよお前を。だがこれならどうかな!」
どう出る郷里?
まさか、ホッピングジャブ!?
フワァイトお!
「キモいキモいキモいキモい!スキップしないで下さい!汗が飛ぶから!」
「キモいだと!?」
「近寄らないで下さい!汗臭っ!おえっ!」
「臭いだと!!」
「これ以上ボクに近寄らないで下さい!気持ち悪いいいい〜!」
「小僧!さっきから言わしておけば調子に乗りやがる!」
「ヒイ〜」
「沈めてやる!」
接近戦か?
やれるのか?
セコンドの声を聞いたらどうだ!
レフェリーの私に助言は出来ないが、セコンドの声を聞いたらどうなんだ!
フワァイトお!
「カンちゃん!クリンチよ、クリンチに持っていくの!」
「郷里ぃぃィィ! お前のそのぬるぬるでベタベタの身体を擦り付けてやれ!」
「カンちゃん!クリンチよ!」
「郷里ぃぃィィ! お前の加齢臭と共に、ベッタベタの肌をなすりつけてやるんだ!」
「カンちゃん今よ!郷里は足が止まっているわ!ギトギトのアブラ顔の郷里に勝ち目はないわ!ようく見て。ボクサーパンツの跡がまだ残ってる。そう、オッサンよ、あいつはただのオッサン!」
「うちの郷里はオッサンじゃない! お前だっていい歳こいたオバさんだろうが!」
「アンタに言われたくはないわよ!」
「アンタはよせ!」
「バツ7のアンタなんか!」
「アンタはやめろって言ってんだろが!」
「だったら女をお前呼ばわりすんじゃねぇ!」
おいおい。
セコンド同士でリングを汚すのはやめてくれ。
ちなみに私はバツ3だ。
フワァイトお!
「臭い臭い臭い!キモいキモいキモい!」
「ひひ、ひひひひひひひ、ボロクソ言いやがって」
「来るな来るな来るな!ばっちい!」
ナルシストの郷里のメンタルが崩壊している。
どうするチャンプカンちゃん。
フワァイトお!
「私の汗みどろの髪の毛・・・ほうら、ワカメみたいだろう? めかぶかな? あ。ワカメかな?」
「来るな来るな来るな来るな!」
「ワカメかな?」
「来るな来るな来るな来るなア!」
「めかぶかな?」
「来るな来るな来るなアアア!」
「ワカメかな?」
「来るなアアアア!」
これ以上は無理だ。
郷里の精神が崩壊してしまう。
「ストップストップストップー!」
レフェリーとしての私の決断だ。
「ストオオオオーッブ」
郷里は目を回して倒れている。
汗まみれ、
漂う加齢臭は私も同じだ。
よく闘ったよ。
立派な挑戦者だ。
そしてチャンプカンちゃん、私からも拍手を贈ろう。
これからも姉弟で、チャンピオンベルトを守って欲しい。
「カ、カンちゃん・・・やったわ・・・世界チャンピオンよ・・・カンちゃん・・・」
「ボ、ボクが、世界チャンピオン?」
「そうよ。カンちゃん」
「ね、ねえちゃん!」
「カンちゃん!」
君たちに感謝するよ。
とても良い試合だった。
チャンプカンちゃん、おめでとう。
だが、本当の勝者は君の心なんじゃないかな。
おしまい。
潔癖のボクサー みつお真 @ikuraikura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます