マイハリー2061

水白 建人

第1話

 夜空より降る星明かり。

 古びた木枠のガラス窓から彼方かなたを見やれば、目を見張るような銀河あり。

 けれど私は落胆する。

 全天一の美しきほうきぼし、ハリー。君がそのまばゆき髪筋をなびかせる姿を見せてくれないのだから。

 マイハリー。いとしき星よ。

 年の離れた兄が送った君の写真にめられてから、いったいいくせいそうを過ごしただろう。

 七十六年に一度きりの回帰。地球で君とまみえられる日を、私は少年の頃からひたすらに待ったんだ。君への想いは片時だっておとろえたことはない。

 けれど私はたんする。

 君が果てしない宇宙を巡るうち、私の世界はシングルベッドとその周りだけになってしまったのだから。

 私に許される自由などもう、まぶたの裏に君のぐうぞうを想いえがくぐらいだ。

『そんなことないさ』

 おや、誰だい?

『お前はこうして夢を見続けるままでいいのか』

 この声は……ああ、兄さんだね? 懐かしいな。

 窓辺に飾られた写真立てを見てよ。オーストラリアで兄さんが撮ったっていう写真、今も大事にしてるんだ。

『気に入ってるんだろう?』

 うん。とっても。

 ああもきれいな彼女の姿に、僕はあの日からずっと心をうばわれたままさ。

『そうか。じゃあこれから会いに行こうじゃないか』

 会いに行くだって? それは……無理だよ。

 僕は、私は、この通り、ベッドの上から自力で降りられそうもない。

 こんなに体が衰えていてはたびくなんて――。

『いいやできるさ』

 兄さん?

『今のお前なら誰よりも身軽な旅人になれる。そら見ろ、むねおどらせるあまり体はもう起き上がっているぞ?』

 あっ――すごいや、本当だ……! 僕、立ち上がれるよ兄さん!

『夢を見続ける限り、人はいつだってふるい立てる。さあ、窓を開けて』

 ……すずしいね。すがすがしい風だ。

しげる緑にくつなんていらない。星満ちる夜にランプなんていらない。準備するのは心だけでいい』

 そっか、そうだね。僕はこのままハリーに会いに行くよ。彼女が地球に戻ってくれるまで、もう少しのしんぼうさえできそうもないから。

 ねえ、いいだろう?

 マイハリー。我が愛しき星よ。

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