第10話 ご先祖と子孫の百合はアリか

<これまでのお話>

 メデューサの末裔である芽出(めで)に一目ぼれした柔子。

 宿敵の生徒会長アテナに一泡ふかせたふたりは有頂天。

 調子こいたまま、かねてより狙っていたメデューサの首がある部屋へ直行した。

 しかし戸を開けて目に飛び込んできたのは破廉恥で語尾が「よよーん」の変な女。

 彼女は敵か味方か、続きは↓ なんだけど、時系列変えての続きだったりして。

  


「はあぁぁぁ……」

 

 畳の上で両膝を抱えながら長い溜め息を吐く。

 

 十畳一間の部屋、レトロな天上の吊り下げ照明がちゃぶ台を、四十インチのテレビを、そして立ち姿の芽出ちゃんを照らす。


「はあぁ……」

 

 またも溜め息が出た。

 夕刊やピザの配達だろうか、バィーンというバイクの音が聞こえてくる。


 畳に落としていた目を芽出ちゃんに移した。

 驚きの形相を浮かべたまま微動だにしない芽出ちゃん。

 

 完全なる石化。

 この大宇宙でもっとも可愛い彫像になった芽出ちゃん。


「うぅ……」


 今度は溜め息じゃなく嗚咽がでちゃう。

 

 芽出ちゃん! 

 芽出ちゃん、芽出ちゃん!

 芽出ちゃーーーーーん!!

 

「あああああっ!!!!」

 

 思わず頭をもみくしゃに掻き毟る。

 そこへキィィっと玄関の戸が開く音がした。


「何騒いでんねん」

「あっ、おかえりなさい、ステノさん」


 フリルネックブラウスとスキニージーンズのステノさんがサンダルを脱いだ。


「ミートソース無えへんかったからナポリタンにしたけどええか?」

「全然ええです」

 

 ステノさんがちゃぶ台の前に腰を下ろした。

 そしてコンビニ袋から取り出したナポリタン、サンドイッチ、飲み物をちゃぶ台に並べていく。


「さ、食べまひょか。まずは腹ごしらえが第一歩やねん。な、芽出ちゃん」


 ステノさんがストローを挿したカフェオレパックを石化した芽出ちゃんの太ももにコツンと当てる。

 それを見て更に食欲がなくなった。


「ん? はよ食べえや」

「ちょっと今は……」

「ダメやで、石化した芽出ちゃんは食わんでもええけど、柔子ちゃんは食わなあかん」


 言いながらサンドイッチをむしゃむしゃ食べる。


「これからぎょうさんやることあるんや、食って体力付けときや」


 んっ……その通り、何めそめそして無駄な体力使ってるのよ。

 

 

 ナポリタンをフォークで巻き、口へ運びながらステノさんを見る。


 澄んだ水色の瞳にブロンドのロングヘア、くっきり整った目鼻立ちで超絶美人。

 この人がメデューサのお姉さん、つまり芽出ちゃんの伯母さんで、二千年以上も生きてるっていうんだから驚き。

『当たり前や、神様なんやから』と返されたけど。


「ここのカツサンドもソース少な過ぎるわぁ」


 そう言って部屋の隅にある台所から持って来たおたふくソースをカツサンドにタップリかける。


「うんうん、やっぱこん位コテコテやないとな」


 言いながらパクつくステノさんから芽出ちゃんに目を移す。

 

 うう、石化ビームを出す芽出ちゃんがまさか石化されちゃうなんて……。

 これもそれもあのテンテコな女のせいよ! あのメデューサの首がある部屋にいたあの――


「ヘルメース、余の名はヘルメェスゥって言うんだよよーん」


 自分で戸を開くなり自己紹介してきたぁー!

 しかもギリで乳首とアソコを隠す紐みたいなのだけで、ほとんど丸裸だよぉー!


「貴様らー!」


 ひぇ! いつの間にかペルセウス先輩が来ていたぁー!


「およよーん、ペルちゃんじゃーん」


 こちらに掴みかかろうとしたペルセウス先輩の動きが止まる。


「へ、へへ、ヘルメース様っ!」


 先輩が凄い速さで直立不動の姿勢になった。

 

「な、何故このような場所に、お、おられるのであるですか?」


 明らかに先輩が慄いている、何なの? この変な女の人どういう人なの?


「何故って、ペルちゃんがダラダラしてるからさぁ、こりゃ~余が出てった方が早いかな~って? あ、実際走るのも速いよ~」

 

 そう言うと両手足を振りながら走る真似をした。

 それはとんでもないスピードで、一瞬手足が消えたように見えた。


「ヘルメース……十二神の一人ですね~」


 え、芽出ちゃん知ってるの?


「わーおっ! ビンゴー! ゴンビー! なんつって。やっぱ知ってるぅ? メデューサの末裔ちゅわん」


 何か腹立つ、このヘルメースって人!

 ほら、芽出ちゃんも思いっきりムスっとしてるよ!


「そこから出て来たということは~、メデューサの首を持ってるってことですよね~。それを渡してくれませんか~」

「め、芽出由砂! 何と恐れ多いことを、今すぐ謝るである!」

「いーからいーから、ペルちゃんジップイット」

 

 ヘルメースが口をチャックをする真似をして芽出ちゃんに向き直った。


「もーしかして? コレのこと? とこのレコ? なんつって」

 

 ヘルメースが背中に手を回した。

 え? 手が戻ってきたらメデューサの首が納まったガラスケース手にしてるぅ!

 どうなってんのぉ!

 落ち着くのよ、柔子。十二神のひとりって芽出ちゃん言ってたし、人間の常識で見てたら危険だわ。

 それにしてもあれがメデューサの首。

 映画とか本だとヤマンバみたいな恐ろしい形相してるけど、色白で美人。

 さすが芽出ちゃんのご先祖様だわ。


「む~ん……」

 

 あ、芽出ちゃんがめっちゃ怖い顔をしてメデューサの首を睨んでいる。


「つーいに時空を超えたご先祖さまとのごたーいめん! その時彼女の目に涙が!? 続きは30秒後ぉ! なんつってー」


 あのヘルメースって人、首を左右に動かしながら寄り目とか変を通り越してアホ丸出し。

 って、芽出ちゃんメデューサの首をガン見で完全スルーしてる。


「あ、あなたが子供を作ったばっかりに~、その血を受け継いだわたしが生まれました~」


 ちょ、芽出ちゃん?

 声を掛けたいけどそんな雰囲気じゃないし。

 メデューサの首は目を閉じて動かないし。


「わ、わたしは……石化能力も、蛇の頭も受け継ぎたくなかったです~。普通の女の子として生まれたかったんです~」

 

 芽出ちゃんの両手が震えてるっ、何か嫌な予感がするんだけど……。



 石化大戦の次回へ続く

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