第9話 ふたりの百合愛で大反撃!
<前回までのお話>
入学早々、柔子(やわこ)はメデューサの末裔である芽出(めで)に一目惚れ。
だが彼女は学園に隠されたメデューサの首を奪う為に入学したのだ。
生徒会長アテナがそれを見逃すはずもなく、芽出と柔子はプレハブ教室行きになる。
二人きりの教室で百合百合な生活を送って柔子は大満足、だったのだが芽出は虎視眈々と会長への報復を狙っていた。
「おほっ、おほほほほ!」
「アテナ様、笑い過ぎるとまた咽るであります。控えめにお願いいたします」
「あらあらペルセウス、わたくしの心配をするなんて殊勝ですわ。これはご褒美を差し上げなくてはなりませんね」
「あ、ありがたき幸せでござります」
会長のつま先蹴りがペルセウス先輩の膝に炸裂した。
「ごわっ!」
「おほほほほ、そこへまたもやおほほほほ、この意味がお分かり? ペルセウス」
「は、はい! お分かりになるであります!」
「じゃあ言ってごらんなさい」
「はいっ! アテナ様の歴史に残る俳句でありますです!」
再び会長のつま先蹴りが炸裂した。
それも正確無比にさっきと同じ場所。
「ごあっ!」と呻き声を上げたペルセウス先輩が床にひっくり返った。
「今頃最下層教室であの性悪淫乱メデューサの末裔が忸怩たる思いでいるのかと思うと、もうたまらなくて、たまらなくて、もうひとつたまらなくて笑いが込み上げてきますわ、おほほほほ! という意味ですわ。おわかり? ペルセウス」
「ひゃ、ひゃい。さすがアテナさまであります」
膝をさすりながらペルセウス先輩がよろよろと立ち上がった。
「会長、それ、なの、ですが」
「何ですの? パラス」
「その、最下層教室、もう、ゴミ捨て、されてない、模様」
「な、何ですって!?」
「勉強も、他のクラスの、生徒が来て、二人に、教えている、模様」
「なな、何ですって!?」
「昼飯も、その生徒らに、紛れて、学食に、行っている、模様」
「なななな……何でそんなことになってますの!?」
「知りま、せん、以上」
「ペルセウス!」
「ははっ! 我輩が電光石火の如く調べ上げるであります!」
「よろしくてよペルセウス、ところで……」
見た時から気になっていた山と積まれた白いスチロール容器、それに会長が顔を向けた。
「これは何ですの?」
「牛丼特盛10パックであります、アテナ様!」
「んまっ! こ、これをわたくしに差し出すというのですか?」
「はい! 麗しきアテナ様が変装されて5杯もおかわりするという牛丼特盛を贅沢にも10パックテイクアウトして参りました!」
またも会長のつま先蹴りがゲシッ! と膝に直撃。
「ほわあっ!」とペルセウス先輩が床で転げまわる。
「“変装”と“五杯おかわり”は言わなくてよろしいですのよ! とは言え、褒めて差し上げますわ。今日も牛丼を食べに行く予定でしたから」
「あ! ありがたき幸せにござりまする!」
膝を抱えて悶絶するペルセウス先輩が涙声で言う。
冷酷非情にもそれを無視した会長が牛丼パックの蓋を開けるとウットリしながら鼻を鳴らした。
「んー、この香り、たまりませんわ。もうっ! こんなに食べたら太ってしまいますわ、どうしてくれますのペルセウス!」
「はは! その時は是非とも吾輩を蹴り続けてダイエットなさってくださいであります!」
あれ? ペルセウス先輩、よく見るとうっとりしながらハァハァ言ってる。
もしかして会長の蹴りってご褒美だったの?
「よろしくてよ、ペルセウス」
「ははぁ!」
「ところでパラス、あなたも牛丼どうです? 恵んであげますわよ」
「丁重に、お断り、します、何故なら、牛肉は、乳臭い、以上」
アニメの無感情系を超えるロボ喋りなパラス先輩。
「ち……乳臭い?……そう、嫌いなの……わたくしの大好きな牛丼が……」
会長が牛丼パックを手にしたままうな垂れた、ざまぁ。
「おのれパラス! ア、アテナ様のありがたき施しを断り、返す刀で繊細な御心を傷つけるとは! 勘弁ならぬ! あ!? いだだっ! あででぇぁ!」
勢いよく立ち上がろうとするペルセウス先輩、だけど膝のダメージが深刻みたいでまたもひっくり返った。
「んぐっ、はぐっ、むっしゃ、むっしゃ」
それに目もくれない冷酷非情な会長が牛丼を豪快にかっ込んでる。
「会長、牛丼特盛、およそ1200カロリー、ハーフマラソン一回分の、カロリー、キックで消費する、には、およそ3時間、ペルセウスにキックを、しなければ、ならない、以上」
「黙れパラス! 黙れ黙れ! 吾輩を殺す気か!」
言葉と裏腹にだらしない口からヨダレ垂れてます、ペルセウス先輩。
「ふぃ~、げふっ! あら、わたくしとしたことがはしたない……さ、それではもうひとつ頂きますかしら」
「会長」
「むぐむぐ、何ですのパラス? 牛丼ワールドに浸っておりますのよ、話しかけないでくださいな」
「その牛丼ワールドに、浸っている、現在の姿が、SNSにて、拡散中、以上」
「ぶふうっっっ!!」
「ア、アテナ様! 麗しきお顔が何ということに……こらっ、パラスー! 本当なのかそれは!」
パラス先輩がロボみたいな動きでノートパソコンの画面を二人に向けた。
「な、ななな、さっきからの様子が全部映ってますわっ……はっ!」
会長が素早く周囲を見回す。
その目があたしと合った。
「きぃぃー! そこの窓の隙間から覗いてるのはどなたですの!」
「芽出由砂、日頃柔子、およそ15分前、から、会長を、盗撮して、いた、模様」
「パラス! 何故それを言わなかったのです!」
「何となく、面白い、気が、した、以上」
「きぃぃぃ!」
「アテナ様! 奴らが!」
芽出ちゃんの手を握って脱兎のごとく駆け出した。
「やったね、芽出ちゃん!」
「大成功ですよ~、柔子ちゃん! これでアテナの評判はガタ落ちです~!」
宝石で他のクラスの生徒を味方につけ、SNSの動画で会長の評価を下げる。
芽出ちゃんは可愛いだけじゃなくて知恵も働くの!
やっぱりあたしの一目惚れは間違いじゃなかったわ。
後ろから勢いよく扉の開く音。
「こらぁ! 貴様らぁ!」
チラっと後ろを見るとペルセウス先輩が廊下へ飛び出してきた。
だけど会長の蹴りが効いているのかステーンと横倒れすると膝を抱えた。
「上手くいったね!」
廊下を走りながら手を繋ぐ芽出ちゃんを見る。
「そうですね柔子ちゃ~ん! でも本当の目的はこれからですよ~」
「え?」
「このままメデューサの首を奪うんです。わたし達が校外へ逃げているはず、という会長の裏をかいてやるんですよ~」
「さっすが芽出ちゃん、大好きだよー!」
「や、柔子ちゃん、そんな恥ずかしいこと廊下で叫ばないでください~」
うふふ、恥ずかしがる芽出ちゃん可愛い、とか思ってる内にメデューサの首がある部屋まで来た。
「じゃあドアノブ壊すね」
いまだ石化されているアソコを右手で触れる。
石になれ!
そう念じて右手をスカートから抜くと石化されていた。
「おりゃああ!」
憎い会長をイメージしながら鍵付のドアノブを殴った。
威力は絶大で、付け根から壊れたドアノブが廊下を転がっていく。
「あ、ありがとう、柔子ちゃん」
「いいって。さ、早く取りに行こっ!」
ドアノブの無くなった扉を手前に引いた。
ところでメデューサの首ってどんなだろ?
映画とかだとおっかないオバサンの頭に蛇がうじゃうじゃ生えてるイメージなんだけど。
芽出ちゃんをチラっと見る。
こんな可愛い芽出ちゃんのご先祖さまだから案外可愛かったりして――ん?
扉の奥に、背中向けて立ってる人いるー!
しかも背が高くて腰のくびれが凄いモデルみたいな人、でも何で裸?
あ、背中とお尻にほっそい線見えるから下着っぽいの着てるんだ。
「待ってたよよーン」
扉を閉めた。
「な、何今の?」
「わ、わかりませんよ~」
もう一回扉をそっと開けた。
「お入りなさい、怖くないよよーン」
再び扉を閉めた。
なにアレ? 何であっち向いたまま喋ってるの?
っていうか誰あの人?
ずーっとあそこで待機してたの?
「柔子ちゃん、ここは入りましょう」
「そ、そうだね。入ろっ!」
こうしてあたしと芽出ちゃんはヘンテコな人がいる部屋へ入ったのだった。
つづく
<次回予告>
部屋にいた変な人はやっぱり変な人、というか変な神なのであった。
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