第7話 愛の百合逃避行
<これまでのお話>
入学早々、ロリ美少女芽出(めで)に一目惚れした柔子(やわこ)。
ところがメデューサの末裔である芽出と因縁のあるアテナに柔子は操り人形となるキスをされてしまう。
そんなことも知らず芽出は柔子と共にアテナと対峙する。
つづきは↓
「食らうがいいです、石化ビ~~ム!」
出たぁ、目から赤いビーム!
え? 会長が余裕しゃくしゃくで動かないっ。
「ふん!」
間一髪、ペルセウス先輩が手にした制服の上着で石化ビームを受け止めた。
「おほっ、おほほ! 目からビームなんて悪役のあなたにぴったりですわ」
「よく聞くがいい芽出! このペルセウスがいる限り、アテナ様に指一本触れさせはせん!」
言いながらペルセウス先輩が石化した制服を放り投げた。
「おほほ――イデェ!!」
制服が会長の足を直撃。
「ア、アテナ様! これは違っ、ごはぁ!」
涙目の会長がペルセウス先輩のお腹に正拳突きを決めた。
「いっしっし~、いい気味です~」
芽出ちゃん、けらけら笑ってる間に石化ビーム撃てば良かったのに。
「あら、わたくしは痛くもなんともなかったのに何をバカみたいに笑ってますの? 気が触れたのでしょうか」
「嘘ばっかりです~! 足に当たった時、イデェェ! 言ってすんごく鼻の穴が広がったの見ましたよ~だ!」
「んまっ! 嘘八百並べるなんて、やはり醜い性悪メデューサの末裔ですわ」
「メデューサの美しさに嫉妬して醜い姿に変えたあなたの口からそんな言葉が出るなんて驚きです~!」
「んまっ! 女神のわたくしより美しいと公言したのだから神罰を下すのは当然でしょ。それにあなた知っておりますでしょう? メデューサは勝手にわたくしの神殿にポセイドンを連れ込んで淫らな行為もしてたのですよ? もう言語道断とはあの醜い女の為にある言葉ですわ」
「言語道断はあなたです~、自分より美しいからって不当な罰を与えるなんて本当に言語道断です~、べ~!」
「キーッ! メデューサの末裔らしく心底憎たらしいわ!」
会長が指を鳴らした。
「はっ!」
お腹を押さえてうずくまってたペルセウス先輩が立ち上がった。
「早くこの忌々しいメデューサの末裔を捕えなさい!」
「はっ! アテナ様!」
口から血を流してフラフラ迫るペルセウス先輩はまるでゾンビ!
「いしゃ~!」
芽出ちゃんの背中があたしの胸に当たった。
そこへ会長の声が頭に流れる。
『捕まえましたわ!』
「捕まえたよ」
ああっ、左手が勝手に芽出ちゃんの手首を掴んだぁ!
「や、柔子ちゃ~ん?」
芽出ちゃん、そんな目で見ないでぇー!
もうどうしようもないの、会長の声が流れると体が奪われるのよぉー!
「どう芽出、下僕に裏切られる気分は? おほっ、おほほほほほ――ほげっ! げほっ! ほげげっ!」
「アテナ様ぁ!」
「げほぉぉ……はぁ、はぁ……い、いいから早く芽出を捕獲なさい、ペルセウス!」
「は、ははっ!」
ひぃっ、ペルセウス先輩が例の得体のしれない棒を取り出したぁ。
「柔子ちゃん……」
芽出ちゃん、何でそんなに優しい目で見るの?
会長に操られてるとはいえ、あたし芽出ちゃんを裏切ったんだよ?
「芽出! あなたの母親も新しい女を作って一家離散なのでしょう? そのさもしい血をあなたは引いているのよ。そんなあなたを相手にする者など今もこれからもいないと断言しますわ。そう、ひとり孤独に死んでゆくしかないの、おわかり? おほっ、おほほほほほ!」
母親が新しい女を作って逃げた?
そういえばあたしの家で両親離婚してるって言ったら“わたしと同じ”って言ってたけど……そうだったの?
「う、うるさいです~! この牛丼女~!」
「ぎゅ、牛丼女?」
「知ってますよ~、変装したあなたが牛丼屋で特盛五杯食べてるの~!」
「んまっ! 何でそれを……じゃなく何を言ってるのかしら?」
「嘘ついてもダメです~、証拠の写真もあるんですから~」
「キ~! ペルセウス、早くとっ捕まえなさい! そしてスマホを没収、画像を全て消去なさい」
「わたしが撮ったんじゃないからありませんよ~、べ~!」
「何ですって!!」
会長が両手を床に着けて這いつくばった、そのケツを蹴り飛ばしてやりたい!
「いやっ、牛丼の秘密がバレたら……わたくしもう生きてゆけないわ……いやよ! いやーー!」
「アテナさま! 牛丼をお食べになっている様子を盗撮した不届き者を早速見つけ出すであります!」
「へぁ?…………そ、そうよペルセウス! その者を見つけ出しなさい、そして神罰を下してやるわ!」
「はっ!」
「わたくしの秘密を知られたからにはただではすみませんわよー!」
「ははっ!」
ああ、ヘンテコ棒の曲がった先が芽出ちゃんの首に掛けられた。
「ご苦労様でしたわ、日頃柔子さん」
ぬぐぅ、このクソ会長ぉぉぉーーー!
「安心なさい、わたくし達がここを去った後、その支配を解除してあげますわ」
くぅぅ! 体がまったく動かないーー!
「ペルセウス、その性悪ぼっち女を逃がさないようしっかり連行しなさい」
「ははぁー! 命に代えて連行いたします!」
ああ、芽出ちゃんが行ってしまうぅ!
「柔子ちゃん」
あ、芽出ちゃんがこっち向いた。
「後で石化を解きに行きますからね~」
ちょっと待ってよ!
その目、約束する目じゃないよ!
もう一生会えなくなるさようならの目だよ!
ふんぐぅーー!
動けぇぇ! 今欲しいのは固い意志じゃない、この憎たらしい硬直をブチ壊す力ぁ! その力が欲しいーーー!
――――うあっ!? 何この感覚、頭の中に冷え冷えの炭酸を流し込まれたみたい。
あ、動く! 体が動く!
よし、フットワークだよ、毎朝部屋でやってたシャドウボクシングのフットワーク。
さっきまでのだるさが嘘みたいに消えて軽やに動くぅ。
ペルセウス先輩の背後まで来たけど全然気づいてない!
「先輩」
「ん?」
振り向いた所で顔面に石化した拳を叩き込んだ。
「ぶぐぅ!?」
石化フックはあたしも驚くほど威力絶大で、歯を数本砕かれたペルセウス先輩が壁に叩き付けられた。
「んま、柔子さん! あなた何をなさって……まさかわたくしの魔法を解いたの!?」
廊下の先で振り返った会長に怒り心頭。
「よくもあたしを操って! 牛丼特盛百杯の話、大拡散してやるから!」
「特盛百杯! 極秘牛丼パーティの話を何故あなたが知ってますの!?」
ホントに食ってたの!?
まあいいや、それより早く逃げなきゃ。
「行くよ、芽出ちゃん!」
「柔子ちゃ~ん……」
わわ、芽出ちゃんが目を潤ませてるぅ!
「日頃、柔子、会長命令違反は、重大な規則違反に、なります」
存在感無かったパラス先輩がロボみたいな喋りで何か言ってるけど無視。
「お待ちなさい、日頃柔子! 芽出は最低最悪な怪物なのですわよ、あなたは何故そんな化け物を庇うのです!」
早くこの場から逃げ出したかったけど、これには答えなきゃならない。
「芽出ちゃんは最低最悪じゃないし、庇ってなんかない! どうしようもなく惚れてるからこうしてるの!」
芽出ちゃんの手をぎゅっと握って走り出したら、きゅっと力を入れ返してきた。
これが本当の愛の逃避行。
学園にさよならしてどこへ行こう。
芽出ちゃんと一緒ならどんなことがあっても生きていく自信がある。
そう、あたしと芽出ちゃんの新しい生活がこれから始まるんだ。
――というのがこれまでの話、映画ならこれでエンドロールだけど実際はそうじゃない。
あたしと芽出ちゃんがどうなったかは……この後話すね。
つづく
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