第3話 え、メデューサって実在したの?
<これまでのお話>
ゼウス学園に入学した柔子(やわこ)はちんちくりん美少女の芽出(めで)と出会うなり右手を石化される。
そんな目にあったのに柔子はそのちんちくりんに一目惚れ。
ところがこのちんちくりん、何とあるモノを盗みに学園に入学していたのだ。
そこへ生徒会のペルセウス(筋肉細マッチョの美女)が芽出に襲い掛かる。
一目惚れしてる柔子が石化右手でペルセウスと応戦、芽出を逃がす。
神の一員というペルセウスに人間ごときの柔子が敵うはずもないというか石化パンチでペルセウスを一発KOした柔子。
でも右手が石化したまんま、いったい柔子はどうなってしまうのか?
続きは↓
学校の帰り道、どのスーパーで半額弁当を買うかボンヤリ考えてたら、いつの間に
か芽出ちゃんが横に並んでいた。
「あの、わたしだけ逃げてごめんなさい~」
俯き加減で謝る芽出ちゃん激かわッ!
「い、いいのよ。そんな事」
「あ、あの、ペルセウスとあの後どうなったんですか~?」
「えっとね、これで一発殴ったら倒れちゃった」
スカートのポケットから石化した右手を見せた。
「いしゃっ!? ペルセウスを一撃で~~?」
「偶然だったと思うよ、あっちも完全に油断してたっぽいし」
「や、柔子さん」
「え?」
「すっごいです~!」
ええっ!! 両手でこっちの手を握ってきたんだけどっ!
「うへへ、だから偶然だよー」
そこで何とか保健室を見つけ、そこの先生と一緒にKO現場へ戻った場面を思い出す。
「柔子さん?」
きょとんとする芽出ちゃんに事情を話す。
「ペルセウスが消えてたんですか~?」
「うん、後で連絡するって言ってた保健室の先生からも音沙汰無しだし」
「……む~ん、ペルセウスは生徒会側ですからね~、人間の生徒に一撃で倒されたなんて知れたら大問題なのでもみ消したんでしょうね~」
え? 何それ、倒したあたしも消されるピンチ?
「大丈夫です! わたしが柔子ちゃんを守ります~!」
ふんすっ、と石化右手を握り締めてくる芽出ちゃんにキュン!
「あっ、その前にこの右手を元に戻しますね~」
おおっ、やった! ってほっぺ赤くして動かないんだけど。
「ちょっと……ここじゃ出来ないので、あのその、どこか人目につかない場所知ってますか~?」
ちょっ、えっ? どういう方法で元に戻すのぉぉ?
とはいえ完全に人目が無い場所と言えばここしかない!
「じゃ、じゃあさ、あたしんちに行こ?」
「い、いいんですか~?」
「いいに決まってるじゃない! 人目がつかない手っ取り早い場所と言ったらあたしんちしか無いんだからさ!」
「あの~、ご両親がいるんじゃないですか~、石化解除の途中でお茶とか差し入れられたら困ります~」
「だ、だだ、大丈夫! 家には誰もいないわよ!」
「え? と、共稼ぎされてるんですか~?」
そこではたと冷静になる。
「えっとね、離婚して……お母さんは家に居ないの」
「ご、ごめんなさい!」
「い、いいのよ! 気にしないで」
ちょっと気まずくなっちゃった。
そう思ったところで芽出ちゃんがボソッとこう言った。
「……日頃さんも、わたしと似た境遇なんですね~」
「芽出ちゃん、それってどういう……」
「な、何でもないです~」
そのままスーパーで半額弁当を買って家に辿り着いた。
「上がって上がって」
「は、はい~」
芽出ちゃんと一緒に廊下を歩いて階段を上げる。
そして自分の部屋へ通した。
「ウーロン茶とコーラ、どっちにする?」
珍しそうに部屋をキョロキョロ見回す芽出ちゃんに尋ねる。
「あ、ウーロン茶をお願いします。炭酸は苦手なので……」
炭酸ダメとか可愛いぃぃ!!
「すみません~、ありがとうございます~」
冷蔵庫から持って来たペットボトルを手渡した。
「いいお部屋ですね~、あっ、海が見えますよ~!」
芽出ちゃんがペットボトル片手に「ふ~」と息を吐いた。
き、緊張する! 親以外の人を部屋に入れるの初めて。
しかも一目ぼれの芽出ちゃんを入れるなんて、その、妙にドキドキするぅ。
ああ、窓の向こうを眺める背中に胸が高鳴っちゃう。
だ、抱きしめたら柔らかいんだろうなぁ、そしてすっごくいい匂いがしそう。
ヤバイッ、鼻息荒くなってきた!
まさかこんなに自分を抑えられなくなるなんて!
震える手が思わず伸びちゃう、ダメ! ダメよ、柔子!
「海っていいですよね~」
くるりとこちらを向いたので慌てて手を引っ込めた。
「えっと……じゃあその……」
その顔が急に赤くなるとモジモジし始めた。
「せ、石化を解いちゃいますね~」
沸騰しそうに赤くなっちゃって可愛い!
でも何でそんなに赤くなってるの?
「あの~、本当にこの家、誰も居ませんよね~?」
「大丈夫、あたしと芽出ちゃん二人っきりよ」
目は涙ぐんでるし唇もぷるぷる震えている。
何? 石化解除ってそんなに恥ずかしい方法なの?
「で、でわ……お、お手を借ります~」
かくかく震えながらあたしの右手を掴んだ。
「ちょ、ちょ、ちょちょちょ、ちょっと目をつむってくれませんか~?」
「え、何で? 見ちゃヤバイの?」
「は、はは、恥ずかしい方法なんですよ~、石化解除は~。と、ととと、ともかく終わったと言うまで絶対目を開けないでください~」
「わ、わかったわ、はい」
目をぎゅっと閉じた――――振りをした。
恥ずかしい方法って何?
て、手にキス……とか!? いやいや、もしかして手をおっぱいに挟む……とか!?
鼻息あらく極限の薄目で様子を窺った。
え? ス、スカートをめくってるぅ!
ちょ! 石化した手を……ス、スカートの中に入れ……え? いや、ちょ……
「あんっ!」
はぎょおぉぉ! 何てセクシーな声出してるのぉ! 石化してるから鈍ってるけど微かに感じるこのむにゅっとした感触はもしかして……
「お、終わりました~」
予想外の解除方法に心臓バクバクで薄目を開けた。
「え? あ、あの日頃さん、鼻、鼻!」
芽出ちゃんが大慌てでこちらの鼻に指を向ける。
指を当てると鼻血が垂れていた。
「ひえっ!」
カーペットの上にある箱からティッシュを数枚取って鼻を拭く。
そして丸めたティッシュを鼻穴へ詰めた。
「あっ」
そこで石化していた右手が元に戻っているのに気付いた。
「だ、大丈夫ですか~?」
「う、うん大丈夫、でも芽出ちゃんってその……何かの能力者なの?」
芽出ちゃん顔が強張ったぁ!
バカ! あたしのバカバカ!
「ゴメン! 答えなくていいから」
それに芽出ちゃんが首を横に振った。
「いいえ、日頃さんを巻き込んでしまったのでお話します」
「その前に座ろうよ」
腰を下ろすと、芽出ちゃんもテーブルを挟んで座った。
「あとあたしのこと、柔子って呼んでよ」
芽出ちゃんの強張った顔が緩んだ。
「では柔子ちゃん、って呼びますね~」
「うんうん」
「柔子ちゃん、メデューサって知ってますか~?」
「メデューサ?……って、あのメデューサ? 髪の毛が蛇で、睨んだ相手を石化するっていう神話の怪物?」
「そう、それです~。実はわたし……そのメデューサの末裔なんですよ~」
「えっ!? そ、そうなの……っていうか納得、だからあたしの手を石化出来たんだ。それにしても驚き、メデューサって実在したんだ」
「空想上の存在と思われてますけど~、三千年近く前、確かに実在してたんです~。わたしだけじゃありません、神話に出てくるもの全ては実在してたんです。そして今も……」
そこで一呼吸置いた。
つづく
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