第2話 ペルセウス襲来!

「ねえ芽出さん鍵かかったこの扉、石になったこの手でブッ壊そうか?」

「え?……ええ~!?」


 これで感謝いこーるフレンド! 逆境を利用するなんて頭イイッ、柔子ぉ!


「じゃあブッ壊しちゃうよぉ」


 肘を曲げ、丸いドアノブの先にある鍵穴に右拳の狙いを定める。

 

「よぉっし! 右フックゥゥ!」


 言い放って石の拳で叩いた。 

 ガラクタっぽい金属音を立てて鍵穴が大きくひしゃげる。

 ちょーっ、全力怖かったから五分の力で叩いたのにこの威力、もっかい叩けば壊せるよ!


「見てて芽出さん、すぐに壊すから」

「ま、待ってください~! 日頃さんにそんないけない事させたくないです~!」


 ほわ~っとした口調に似合わない素早い動きで手首を掴まれた。


「え? だってこの扉の先にどうしても手に入れたいモノあるんでしょ? いいよ、あたしが壊しちゃ――あだだだだっっ!?」

「ダメです~! わたしのせいでいけないことするのダメです~!」


 ひぇぇぇ!? 何この力! 血管潰れて腕折れちゃうぅぅぅ!!


「いしゃ! ご、ごめんなさい~」


 ぱっと手首が解放された。

 目をやると皮膚がみるみる赤くなっていく。


 百六十のあたしよりニ十センチは小さいのに何て怪力?

 ああ、でもそのギャップもまた可愛いぃぃ!    


「め、芽出さん鍛えてるの? 凄い力だね」

「いえその……え?」


 芽出ちゃんの視線があたしから廊下の先に移った。

 廊下を走る音がする。

 しかもどんどん近づいてるんだけどぉぉ。


「いしゃ! 来ちゃった~!?」

「え? どうしたの?」

「日頃さん、逃げますよ~!」

「え!? どうして?」

「一緒に逃げてその手を元に戻しましょ~」

「う、うん」


 訳もわからず頷く。

 すると芽出ちゃんがあたしの左手を握ってきた。


 柔らかくてしっとり汗ばんだ生温かいお手々ぇ!

 はひぃ! これだけであたしおかしくなっちゃいそう!


 そんなあたしを引っ張るように芽出ちゃんが駆け出す。

 背後の足音が耳に響く。

 肩越しにチラ見すると、背の高いブルマー姿の女子がすぐそこまで迫っていた。


「あの顔はペルセウス……聞いた通り嗅ぎつけるの早いですね~」


 そう言った芽出ちゃんがあたしに視線を移した。


「日頃さん、逃げ切れると思ったけど無理みたいなのでお別れです~」


 握られた手が離れると同時に芽出ちゃんが身をひるがえした。


「芽出ちゃん!?」


 思わず立ち止まって振り向くと、ブルマー女子と対峙していた。


 何なの一体? そういえば生徒会がどうとか言ってたけど……。


「芽出ちゃん、この人は?」

「生徒会のひとり、ペルセウスです~」


 ペルセウス? って確か神話のキャラじゃなかった?

 それにしてもデカッ! 百八十くらいあるんじゃない?

 筋肉むきむきで体操着ぴちぴちだし、胸もおっぱいか筋肉かわかんない。

 金髪ショートに青い瞳だからハーフかな、顔は凛々しいっていうより怖い感じ……。


「成る程、さっそく淫らな血筋で手駒を作ったであるか」

 

 ペルセウスさんが背中から何か取り出した。

 先の方が半円状になってるヘンテコな棒だった。


「手駒、そこでじっとしてるなら何もしないである」


 ヘンテコな棒を向けられたよ、って金属製じゃない! こんなんで殴られたら簡単に大参事ぃ! あ、足がガクガク震えだしたぁ。

 

「この人は関係ありません! 手を出したら許しませんよ~!」

「淫乱の末裔が生意気な口を利くなである!」


 ペルセウスさんが金属棒を振り上げたぁ!! この人本気!? 芽出ちゃんの可愛い顔にそんなの振り下ろしたら!


 自然と右手が動いた。

 五分とはいえ2年間毎日練習してきたシャドーボクシングの動きが自然と出た。

 石化した右手がペルセウスさんの棒に激しくぶつかる。

 衝撃で体が後ろへ傾いた。

 それでも足に力を込めて何とか姿勢を立て直した。


「むう手駒、何のつもりであるか!」


 棒を持った手を左右に振ってる、あっちもかなりの衝撃だったみたい。

 何か自分でも驚くほど冷静になってきたよ。


「日頃さん! 早く逃げて~!」


 隣の芽出ちゃんが可愛い声で叫んでる。

 でも賛成出来ないよっ、相手は容赦なく鉄の棒を振り下ろすサイコパスだし足も早い。

 ならこうするしか無いのっ!


「逃げて、芽出ちゃん。ここはあたしが食い止めるから」


 言った自分にゾクゾクゥ!

 愛読ボクシング漫画「はじめての歩美」でもこんなセリフ無かったよっ!

 あたし今とんでもなくカッコイイ!?

 

「そんな! ペルセウスは神の1人ですよ~!」

「いいから行って! あたしを困らせないで!」

「そ、そんな~!」

「あたしを助けたいと思うならそうして!」

 

 怒鳴るように言ったら芽出ちゃんがぴょんと飛び上がった。


「やっ、柔子さ~ん! え? いしゃ~~~!?」


 心地いい声で叫びながら凄い勢いで視界の端に消えた芽出ちゃん。

 精神を正面の筋肉ムキムキのペルセウスさんに向ける。

 あの金属棒を受け損なったら大怪我――下手すると死! でもこれでいいの。

 人生初の一目惚れした芽出ちゃんの為ならあたしはぁ!


「吾輩はペルセウス、三年生で生徒会の書記をやっているである。貴様は?」

 

 突如ペルセウスさんが尋ねてきた。


「い、一年、日頃柔子……です」

「一年か、どうりで見ない顔である」


 え? 構えを解いて背中向けたよ?


「奴の手駒とはいえ、己の身を盾として逃すその心意気や天晴れ。それに免じてここは退いてやるである」

「……あの、手駒って何のことですか?」


 立ち止まったペルセウスさんが肩越しにこちらを見る。


「貴様は奴の色仕掛けに誑かされ手駒にされておる」

「ち、違います! あたしは芽出ちゃんに一目惚れして……」

「一目惚れして奴の淫らな遊戯に溺れている、違うであるか?」


 は? 淫らな遊戯? ソレってまさか。


「あ、あたしっ、芽出ちゃんとはさっきそこで出会ったばかりなんですけどーっ!」

「ふうむ、である」


 あ、疑ってる目。

 って何? 棒仕舞って近づいてきたよ?


「吾輩と……」


 顎を手で持ち上げられたぁ? ちょっ、顔近づけて、何っ? 何ぃぃ!


「接吻などしてみゴワッ!!」


 やばっ! 思わず石化した手で殴っちゃった。

 でもこの人、神の1人って芽出ちゃん言ってたよね。

 こんなあたしごとき人間のパンチひとつ位で効くはず――――効いてたぁぁ! 

 パタンと倒れて動かないんですけどぉぉ!


「あの……ペルセウスさん?」


 ひぃっ、白目剥いてるぅ。

 こ、ここは保健室へ運ぶべき?


「よいしょっと、うーーん!」


 おもっ! 何この人、模様替えした時の苦戦したベッドより重いんですけど!?

 ダメ、一回保健室探してそこでお話してこの人運んで貰お。

 それではすみません、ペルセウスさん。

 


 つづく

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