メデューサちゃんに一目惚れしたあたし 恋の邪魔をするなら神々とも戦います!
こーらるしー
第1話 はじまりは一目惚れ
薄暗い廊下に並ぶキャビネットから飛び出した何かにぶつかった。
「あいたっ!」
冷たい廊下に尻もちを着く。
こんな人っ気のないトコで誰なの!?
想いながら開いた両足の間にスカートを押し込んで立ち上がろうとする。
え?
なんか手がおかしい。
おかしいというか感覚がまったくない。
まるで手首から先の神経が完全に麻痺したような。
チラっと右手を見る。
「えっ? えぇぇぇ!?」
いしっ! 右手がぁっ、右手が石になってるぅぅ!
「ご、ごめんなさい~! てっきり生徒会だと思って石化ビームしちゃいました~」
んえっ? 何このメッチャ可愛い声。
って目の前で両手をあわせる美少女いるんですけど。
涙を浮かべる大きな目――激烈好みっ!
肩まで伸びた無造作ヘア――壮絶好み!
しゃがんだ両脚の奥に見える薄水色のパンツ――スリースター好みぃぃ!
ななな、何か顔が燃えたみたいに熱いんですけどぉ――って脳に痺れるような衝撃が走ったぁ?!
あ、これひと目惚れだわ。
そう、人生初にして運命のひと目惚れ
あたしがここへ導かれるように足を踏み入れたのも運命。
◇
運命に出会う前、もっと詳しく言うと10分前のあたしはこう呟きながら校舎内をフラフラ歩いていた。
「石のように……固い意志が欲しい!」
これはダジャレでも何でもなくあたしは意志が弱い。
「テニスやらない? ていきゅうよ、ていきゅう」「卓状の格闘技、卓球で青春燃やしましょう!」という新入部員勧誘から逃れに逃れ、こんな校舎の端まで来てしまったのが何よりの証拠。
とはいえ昨日付けで入学したあたしに校舎の造りなんか知るはずもなく迷子な現在進行形。
「まあいいや、適当に歩いて行けば何とかなるでしょ」
こうして意志薄弱なあたしの彷徨が始まった。
創設五十年というゼウス学園の内部は修学旅行で見た国会議事堂の廊下みたいに年季が入っていた。
別な言い方をすれば古めかしい感じ、もっと突っ込んで言えば霊的なモノが出てきそうな感じ。
突き当たりの角を曲がって立ち止まる。
何故ならその先の廊下は隣接する山壁のせいで窓から日光がほとんど入らず、昼間なのにかなり薄暗かったからだ。
心拍数が上がると同時に、もう一人のあたしが囁いてくる。
引き返しなさいって、もしかしたら学校でも有名な心霊スポットかもしれないよ。
立ち止まり、息を吸うと上半身を振り子みたいに揺らした。
「必殺、デンプシーロール!」
愛読している百合ボクシング漫画「はじめての歩美」の主人公を憑依させたあたしは肩を左右にクネらせつつフックを繰り出した。
「ひぃ! ドサッ! ワン、ツー、スリー……カンカンカン」
脳内で囁いてきたもう一人のあたしをノックアウト。
見えない美人レフェリーにされるまま右手を真上にあげた。
何かいい感じじゃない? 行くわよ、あたし!
ひとりで勝手に高揚したあたいは拳を構えると軽快なフットワークで歩き出した。
「はじめての歩美」に感化されて始めたシャドーボクシング。
これをやると意思がちょっとだけ強くなる、これの欠点は人前じゃ出来ない事。
誰もいない薄暗い廊下をシャドーボクシングで進む。
「カンカン……第六ラウンド、ハァハァ……終了、ハァハァ」
さすがに息が上がって来た。
一日三分のシャドー意外体を動かさないからスタミナは無いのよね。
薄暗い廊下の途中で立ち止まると両膝に手をついて荒くなった息を整える。
壁に並ぶドでかい木製キャビネット群に何気なく目をやると“昭和四十一年”と書かれた小汚い紙カードが引き戸にはめ込まれてあった。
自分が生まれるずっと前からある古臭い引き戸、そこには何が入ってるんだろ。
真っ先に思い浮かんだのは乱雑に転がっている注射器だった。
そう、予防接種とかの後で捨てるのが面倒だからと適当に仕舞われた注射器。
注射針の先には血が付いてるんだ、何十年もそのままで赤茶けてしまった血が。
そんなことを考えてたら背筋がゾクっとなった。
考えるのヤメッ! と思うけどやっぱり怖い!
古臭いモノの中には何があるかわからないから怖い!
やばい、早くここをおさらばしないと……いやいや、何言ってんの? ここを突破して固い意志を手に入れるんじゃなかったの?
そう思いながら素早く顔を正面に向けたその時だった。
キャビネットの陰から小さな人影が飛び出してきた。
――というのが運命までの経緯なのでした。
「ね、ねえ、あの、あたし一年B組の日頃柔子(ひごろやわこ)っていうの」
「え~っ?……わ、わたしは、その~、一年A組の~、芽出由砂(めでゆさ)っていいます~」
芽出ちゃんっっ! 可愛いーっ、名前通り愛でたくなるぅぅ!
こ、ここ、ここはまずお友達になって、ゆくゆくは、じゃなく最短で恋人になりたい!
「あ、あのさ芽出ちゃ……芽出さんはこんなとこで何してたの?」
「え? え~? その……わたし~この扉の奥にどうしても手に入れたいモノがあって……そんなことより日頃さん、その右手を元に戻させてください~」
あっ、芽出ちゃんに夢中で右手の事すっかり忘れてた。
っていうか戻せるの? どういう仕組みで石にしたかわからないけどこれはチャンス!
つづく
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