第7話 僕をダシにしてイチャつくのやめて?

 父が再婚した。母が亡くなって、ずっと沈んで辛気臭い顔をしていたのに、今では若い妻の顔を見るだけで笑顔になれるらしい。男手一つで育ててくれて、感謝している。だから、父が幸せになってくれて、文句はない。


 例え、再婚相手が僕の初恋の相手のアルマ嬢だったとしても、結婚式で、アルマ嬢の父上に息子の嫁にと思っていたのに、と僕を引き合いに出されても、いや、息子はまだ甲斐性がないですから、とか、貶されても、文句はない。


 一つだけ、言うなら、新婚だから仕方ないのだろうけれど、イチャイチャ を見せないで貰えるかな?僕はまだ独り身で、相手すらいない。だから、刺激が強い。


 あと、皆が見てないと言っても気付いてはいるからな?皆が見てない隙にキスしても、チュって音がしたら、わかるよね。さすがに。


 父が十代の少年のようになってしまった。恋に溺れるってこういうことなんだ、と経験もない僕は思う。


 羨ましくて仕方がない。


 だからなのか、僕の嫁探しは難航している。貴族だし、政略結婚で十分だと思っていたのに、今では恋がしたくて仕方ないのだから。


 とはいえ、限度はある。侯爵家の跡取りである以上、あまりに下位貴族は遠慮したいのだけど。あ、でもアルマは別だよ。子爵令嬢だったけれど、小さい頃から交流はあったのだし、特に失礼な様子もないし。


 失礼な人はどこにでもいる。アルマが父さんと僕に取り入って後妻に収まったと言う人。アルマが体を使って篭絡したと言う人。アルマを貶したつもりだろうが、それは侯爵家を貶したことと同じなのだけれど、わからないのかな。


 悪いけど、アルマのどこに男を篭絡できるほどの体や頭があるのか、教えてほしい。こんなことを言うと叱られるかもしれないが、彼女は令嬢でもなければ、女性と言うのも不思議な感じだ。当然だが女の武器なんて一切使用した痕跡はない。寧ろ知らないのではないか、と疑うくらいだ。だから、失礼なことを言う人は、そうやって自分が男を落としているのだと思っている。自分がしていることだから、相手もそうだと思い込むのだと。


 父は勿論、僕もアルマを悪く言った令嬢を全て把握しているし、何か考えている。アルマ自身は、父が人気のあることに惚れ直しているし、呑気な顔をしている。


呆れているのがわかったのか、アルマはケラケラと笑っている。「私を悪く言う人は既に負けを認めてるのよ。そんな人は怖くないでしょ?」


 今度は、父が惚れ直しているみたい。そう言うのは、俺のいないところでしてくれない?


 うんざりして、呆れてると「悔しかったら貴方も恋をしたら良いのよ。」とか言ってきやがった。出来てたら、するっつーの!!やっぱりこいつ、無神経だな。


 アルマを悪く言う中に、第二王子の人生を狂わせた悪女、と言うのがある。あの卒業パーティーに居合わせた人だろうが、あれは傑作だった。今まで婚約関係だった公爵令嬢に別れを告げ、ただの同級生のアルマに婚約を申し込んだのだから。あの場に居合わせたなら、あれはアルマのせいでもなんでもなく、王子の勘違いだと理解できる筈だ。あの後、両親は燃え上がった。本当にあの時の僕は、ここに存在しない人間だった。まさに二人の世界。


 まあ、でもダシにされるのが、僕でなくて良い。王子ならいくらでもダシにしてくれたら良い。彼の失敗のおかげで、両親が仲良く、尚且つ僕の心の平安も保たれるなら、多少のことは気にならない。


 そう言えば、王子の元婚約者の御令嬢は、王子の婚約者になる前に好きだった相手と婚約されたそうだ。今幸せなら、良かった。


 シャルロット様、お一人ならワンチャン無理かな、とか一瞬思ったことはさておき、前の好きだった相手はずっと思い続けていた人らしいから、仕方ない。


 結局、アルマの学園時代の友人を紹介してもらう。ナタリーは伯爵令嬢で、見た目は可憐だが、学園の頃のあだ名は白いゴリラだったらしい。理由はあまり聞きたくないが、すでに尻に敷かれているところから、由来を知るのはすぐになりそうだと思う。アルマの友人なのだから、一筋縄ではいかないだろうから、今から凄く楽しみだ。どういう顔を見せてくれるのだろう。


 会うだけで嬉しい。そんな存在を僕もようやく手に入れた。

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