第5話 知らなかったのは貴方だけです(1)

「はあ、何でこうなった。」

 ここは、騎士の宿舎であり、ベッドの上。王立学園の卒業パーティーで、婚約者のシャルロット様に婚約破棄を突きつけ、別の女性に言い寄り手酷く振られたこの国の第二王子ガブリエルは、廃嫡はされなかったものの、一騎士として性根を叩き直されることになった。


同室は、昔から一緒にいた幼馴染であり、騎士のテオ。


 テオはため息をついた。「貴方のせいではないですか。全て。」「わかってる。けど、シャルロットと、マリユスが昔婚約しようとしていた仲なんて、知らなかったんだ。」

男女のことなど、何もしらないテオだって知っていることを、ガブリエルは何も知らない。知らされてないのか、知ろうとしないか、わからないが、知らなさすぎる。もう一度ため息をつく。「貴方は何も知らなさすぎます。」

これでは、良いように料理してください、と言っているようなものだ。


 ガブリエルに婚約破棄されたシャルロット様は、最愛の人と、婚約した。ようやく、初恋を実らせた二人を応援するつもりで、ガブリエルが演技をしたのではないか、と言う噂が出たぐらい。


ただ、本人は何も知らなかっただけだが。


 他にも、ガブリエルが知らなかったことは、ガブリエルが好きになった相手のアルマ・ルロワの結婚相手のモロー侯爵が、若い女性を食い物にするタイプの高位貴族ではなかったことだ。


 モロー侯爵は、根が真面目すぎるため、再婚話が中々進まなかったぐらいの人なのに、王子がそれについて全く知らないと言うのが、ダメなのだ。


 ガブリエルはどこか抜けている。今まではシャルロット様がそこをフォローしてくれていたが、もうできない。だから、本人にしっかりしてもらわなくてはいけない。


 騎士団にいる間はフォローを買ってでるつもりのテオだが、ずっと一緒にいられるわけでもない。騎士団の中には、男性同士で、恋愛関係になるものもいて、屈強な男達の中ではガブリエルのような線の細いタイプの男を好む者もいる。とはいえ、今はまだ王子なのだから、失礼なことはしないと思うが、これからはわからない。


 元々王太子ではなかったのだが、王位継承権は完全に剥奪されてしまったし、臣下に降ることは確実だ。


 隙がありすぎるガブリエルは、本人が知らないうちにつけ込まれて、いつのまにか手篭めにされてたりしそうだ。


 テオだって、ずっと我慢している。無防備なガブリエルを見るたび、手を伸ばしそうになるのをグッと堪えている。ガブリエルは何も知らない。知らないことは罪だと思う。


 ガブリエルを寝かしつけたあと、寝顔を見て、おでこにキスを落とすと、自分のベッドに戻り、ガブリエルの顔を眺めつつ眠る。


 寝て起きたら、ガブリエルが自分のものだったらいいのに。


 在学中に、王子の周りをうろちょろしていた伯爵令嬢が、王子に媚薬を盛ろうとしていた時も、未然に防いで秘密裏に処理したり、ガブリエルを狙う男達を武力で退治したのも、自分なのに。いたずらにガブリエルを恐れさせたくなくて、何も言えずにいる。いい加減気付いてくれたらいいのに。貴方は、見た目だけは完璧なのだから。どれだけ狙われているのか、思い知れば良いのです。

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