第四十九話『犬猿の仲、犬猫の仲』
夜の景色はまた一段と映えた。
真っ白な雪原は見えなくなり、代わりに空に満天の星空がどこまでも拡がっていた。
結局モルは起きないし、ミミさんは違う部屋なのだがその部屋も知らないし、猫がいるし。
なかなか最悪な雪国までの旅路になりそうだ。
なかなか寝付けなくて、僕は椅子を車窓の前に持ってきて、モルが寝ているので灯りは付けず、景色を眺めていた、そろそろ景色を眺めることにも飽きてきたところだった。
「あれぇ、まだ寝てないのぉ、早く寝ないと大きくなれないよぉ」
「仮に寝ていたとして、何なんですかね、不法侵入が趣味なんですか」
「ミミの趣味は敵を倒すことぉ?」
なぜ疑問形なんだ。
ともあれ、丁度いいところに話し相手が来たわけだ。話は通じなさそうだが。
話の通じない話し相手とは。何という皮肉。
ミミさんはベッドの1階に寝転んで、「ぐなぁ」と気の抜ける声を出しながら伸びをした。
僕は小物置きに置かれていた二足歩行の杖を着いているシルクハットを被ったカエルの置物の首を突っついてみた。
カエルの首が、変な挙動で揺れる。
何を思って一体こんなものを作っているんだろう。
「それで、何の用ですか、こんな遅くに」
「暇なんだよぅ」
いや、寝ろよ。
人のことは言えないかな、ミミさんも寝付けなかったのだろう。
何か話すか、ミミさんにも何か聞いておかないといけないことはあるはずだ。
「仕事、なにか気分が晴れやかになる朗報はありませんかね」
「んんぁー」
今のところ凶報しかない、こんなんじゃあ仕事をする気が湧かなくて困難じゃあ。
……。
「……ふっ」
「急に笑うのこわぁいー」
ミミさんは僕から離れるように、コロンと僕が居る反対側へ寝返った。
ミミさんに怖がられるとは、不名誉極まりない。
「んっとぉ、カラスもミミたちとは違うルートだけれど、このお仕事に参加ぁしてるよぉ、うれしぃでしょぉ」
「凶報もいい所ですね」
「うえーい」
いよいよ、ごちゃごちゃしてきたな。
猫とミミさんとヴァニタスさんが居るだけでも、かなり面倒くさいのに。
カラスまで入ってくるとなると、気が滅入る。
どうやら、上の人達は本気で教団の奴らを潰しにかかっているようだ。本気なのはいつもだが、今回は徹底しすぎている。
「今頃ぉ、暖かいところからドライブだよぉ、うらやましぃ」
「なんでそんなに詳しいんですか」
「ミミは天才だもんねぇ」
カラスと似たようなことを言って、ミミさんは壁の方を向いた。
「……」
「……」
暫くの静寂の後。
穏やかな寝息が、暗い部屋に微かに漂った。
汽車の、車輪の音はどうにも心地よい。
僕は車窓の外をまた眺めると、雪が降っていた。
「寝れないじゃないですか……」
ため息混じりに、僕はカエルの置物の頭をつついた。
カエルの頭は、雪を眺めながら可笑しく揺れた。
〇
「はっはー!」
「おい、足おろせテメェ」
天気は晴天。
白い雲に青い空。カラッとした空気が気持ちいい。
切り立った丘の道、下にはまた蒼い海が広がっている。
カモメが空を優雅に泳いでいる、カラスは車のダッシュボードに足を乗せている。
「キャーキャーうっせぇんだよ!カモメ!たっくよ!鳥はどいつもこいつもっ!」
「ピリピリしてるね、落ち着きなよ」
カラスと口の悪い女性が乗っているのは、スペーシーなデザインのキャデラック。テールフィンが特徴的だ。
口の悪い女性は煙草を口に加えサングラスをかけていて、黒色の長髪を後ろで結っている。
白いカッターシャツに黒いネクタイ、そして灰色のスラックスを着こなしている。
カーラジオからはポップ・ミュージックが流れる。
「テメェ!だから足上げてんじゃねぇ!その座布団取り上げるぞっ!」
「うるさいなぁ!なら僕はそのサングラスの度数めちゃくちゃに上げてやるからなっ!」
そして、二人は睨み合って。
空でカモメが鳴いて。
空気が、ふっと緩んで二人の互いを嘲笑うような大笑いが海にまで亘った。
「雪国に向かうのに、そんなに薄着で大丈夫なわけ?」
「逆にテメェはそのマスク暑くねぇのかよ」
カラスは座布団を前から抜いて、座席を倒して座布団を枕替わりにうたた寝を始めた。
女性はそれを白けた目付きで一瞥し、煙草を灰皿に擦り付けた。
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