第四十四話『先へ』

「それで、志東さんの話は?」

「ドレダケアイツノ事ガ知リタインダヨ、惚レタノカ?」

「それは、ありえませんね」


 本気で心外だった。

 螺旋状の階段は、未だ続いている。


「ソウダナ、ソモソモ奴ノ年齢モワカラン」

「魔学の授業を受けて、それが中学校って言ってましたねそういえば、ということは…」

「ソレモ信用ニナルカドウカ」


 吊るされているランタンの、頻度が少なくなってきて。暗闇が徐々に侵食し始めた。

 暗い所は苦手だ、不安な気持ちになる。梟さんがそばにいるなら別だけど。


「奴ハ、二年前ノ雪国デノ抗争デ、親友ヲ一人失ッテイタナ」

「親友?」

「魔王ノ、タシカ最恐ダッタハズダ、魔王仲間ッテイウヤツカ」

「サイキョウ、ですか」


 魔王の最強、最強の魔王のことかな。

 そう自己解釈して、自己完結した。


「2年前の、冬…」

「ソウダ、マスクヲチャントツケテオケヨ」

「あ、忘れてました」


 思い出してカバンから取りだし、慌ててマスクをつけ直した。呼吸がしにくいから、取っていたのだ。

 直結式小型タクティカルガスマスク。

 名前が長い、けどなかなかにカッコイイ。


「似合ってます?」

「イインジャナイカ」

「どうもどうも」


 褒められて、悪い気にはならない。

 ガスマスクが似合うって、一体全体どういうことなんだろう。

 少し、師匠に似てるのかも。


「木菜」

「……はい」


 少し錆びた重い鉄製の扉が、ランタンに照らされて鎮座していた。

 静かだ。

 空気も重く沈んでいる。


「行クゾ」

「はい」

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