第四十三話『疑問』

「師匠、好きってなんだと思いますか」

「愛シテルッテコトジャナイカ?」

「じゃあ、愛してるって何なんでしょうか」

「ソレヲ、訊クノカ?俺ニ」


 特に、何か欲しい答えがあった訳でもないが。なんとはなしに尋ねてみた。

 けれど、この類の質問は心のない機械には、どうにも答えづらいものだった。


 今、木菜とブリキは廃工場に潜入している。

 工場の中は閑散としていて、閑寂な空気が蔓延していた。

 けれど、目に見えるものが全てじゃない。二人は廃工場を念入りに調査していた。

 談話を交じえながら。


「急ニ、何ノ話ヲシテルンダ、何カアッタノカ」

「えぇ、まぁ、その」

「構ワン、言ッテミロ」


 木菜は遠慮がちに、視線を下に落としながら。


「志東さんって、何なんですか」

「今日ハ、答エニクイ質問バカリスルナ」


 木菜の質問は、答えにくいものだった。志東を──不可色を知る者には。


「別に、どうってことないんですよ、特に何か、この仕事をしてる人にしては変なところも少ないはずなんですけど、どうにも…」

「ソウイウ、奴ナンダヨ、許シテヤッテクレ」


 木菜が何か見つけたようで、ブリキを尻目に手招きをし。ブリキはゆっくりとそちらの方へ歩いていった。


「これ、地下に続いてますね」

「行クカ」


 ボロい布に隠されていた穴に、地下へ続く階段を見つけた。

 少し奥の方にランタンが吊り下げられていて、暗くは無いものの。不気味なことに変わりはない。


 木菜がこういった所に躊躇なく立ち入ることができるようになったのは、この2年間の経験と努力の賜物だ。


「それで、志東さんの話なんですが」

「惑星再起動装置ヲ、知ッテルカ」

「知りません」

「不思議ノ、物ヤ擬似生物オルタナティブ、機密対象、ソノ存在自体ガ危ブマレテイルガヨナ、アレハ存在スル」

「その、惑星なんとかって、何ですか?あと、志東の話はどこへやら」


 両手の人差し指を立ててクルクルと回すジェスチャーを見せる木菜に、ブリキは首を横に振って。

「関係ノアル話ダ」と、木菜の頭を手荒く撫で回した。


「惑星再起動装置ハ、言葉通リ、惑星ヲ再起動サセル装置ダ」

「はい、スケールがすごいです」

「ソレデダナ、ソレガ、十年前ニ起動シタ」

「はい?」

「シカシナ、完全ニ起動スルマエニ、何トカ停メラレタンダナ」


 木菜は、顔をしかめて。今頭に入ってきた情報を整理した。しようとした。

 分かるが、分からない。そう思うが違うと思う。

 訳の分からない感覚だった。


「十年前にって、まさかそれ…」


 十年前。

 世界規模の大災害。

 地形変動。


「アァ、ソノ考エデアッテイル」

「え、でもそれって、地形変動が起きる前に既にそれを認知している人たちがいたはずですよ、それは一体…」

「ソモソモ、完全ニ起動サセルツモリハナカッタンダロウナ」

「その言い方だと、地形変動が起きるとわかっていた人……世界各国の政府が起動させようとした、という話にも捉えられるんですが」

「政府ハ、隠シ事ガ好キダロ?」


 頭を抱えることしか出来ない、地形変動は自然の大災害じゃなかったのか、そもそも志東の話を持ちかけたはずが、いつの間にやらとんでもない裏の真実を知ってしまったのではないのだろか。


「でも、一体、なぜ」

「ソノ頃、トアル病気ガ密カニ流行シテタンダ、人間ガ、人間ジャナクナリ暴レ狂ウ病気ガナ、ソノ時ハマダ、ソノ病気ニ名前ハツイテイナカッタ」

「話が、噛み合ってませんよ?」


 もう、考えたくもなくなった。階段はまだまだ地下へと続いていて。一本道だった階段が螺旋状に変化していた。

 気に留めることもなく、ただ階段を下っていった。

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