第四十話『ケーキは任務のあとね』

 午前、10時21分。

 天気は曇り。

 スクラップ場にて。


「飛んでますね」

「焼き鳥にできないのかな」

「鉄まで食べようとするんだね〜、モルちゃん」


 相変わらず上空を飛び交う怪鳥、前とは違い遠回りではあるものの鳥の少ない道を来たのだが。


 ガラガラガラガラ────。


「モル!」

「一刀両断!だん、だん?だんごもち!」


 その鉄屑の身体に僕が猟銃で鉛玉を撃ち込み、モルがそれを剣で切る。

 先程からそれの繰り返しだ。鉄屑に対する鉛玉のダメージは微々たるものだが。


 モルがきちんと仕留めてくれる、切られた怪鳥は形を失い、本来あるべき姿の鉄屑に戻る。

 最後までガラガラとうるさい鳥だ。


「団子なのか、餅なのか」

「両方」


 怪鳥はガソリンを吹き出す前に仕留めないといけない、今は数が少ないからこんな会話を交わす余裕はあるが。

 束になってかかって来たら、戦わず速やかに逃走すると話を合わせている。


「物騒だね〜」

「なひゆさんもですよ、何気にこっち向けないでくださいよ、それ」


 なひゆさんはクロスボウを構えているのだが、向けている方向が間違っているような気がする。

 というか間違っている、こっちに向けるな。


「冗談が通じないね〜、まったく志東くんは〜」

「冗談でもしていい事と悪いことがあるんですね、これが」

「団子であり餅である、すっごくモチモチしてそう」


 なひゆさんはずっとこんな感じだし、モルは食べ物の話ばかりしている。

 モルが起きた時間に食堂が開いていなかったため、モルは僕がたまたま持っていた乾パンだけしか食べれていない。そのせいだとは思うが。


「三色団子、きな粉餅、わらび餅、みたらし団子……」

「私は饅頭の方が好きだな〜」


 自由すぎる。

 僕も自由なのが好きだが、無法地帯というのは好きじゃない。

 これも自分勝手で自由な考えで、法も何もあったものじゃないけれども。


「ここ登る〜?」

「いや、遠回りになりますが、沿っていきましょう」


 歩いているとスクラップの山が行く手を阻んでいた。これを登るのは遠慮願いたい。

 既に遠回りなのにここで更に目的地まで時間がかかるルートを選んでしまっているが、夜までにはこの任務を終わらせたいところだ。

 この街で夜に出歩くのは、危険だからね。


「あ、なひゆさん、あれ落とせますか」

「自分でやってよ〜」

「僕、当てれる自信ないんで、お願いします」


 停車しているクレーンのてっぺんに怪鳥が留まっている、こちらに気づかれる前に仕留めておきたいのだが僕の腕じゃとてもとても。


「うーん、後でパフェね〜」

「奢ってくれるんですか、なんか申し訳ないですね」

「……」

「分かりました、奢りますからこっち向けないでください」


 僕が折れた事になひゆさんは親指を立てると、怪鳥に照準を合わせ銀の矢を放った。矢は怪鳥を貫き、そしてあっけなく怪鳥は崩れ落ちた。


「その銀の矢、たしか、ウルラさんが作ったんでしたっけ」

「そうそう、すごいよね〜、わたしもこの前任務が一緒だった時にね、水銀で狼の置物作ってもらったよ〜、手のひらサイズの」

「いいですね、僕もいつか機会があったら、何か作ってもらいましょうか」


 そういえば、彼女の顔、覚えてないな。ペンギンだったのは覚えているが。

 まぁ、いいか。カラスと仲がいいみたいだし、また会うことになるだろう。


「志東さん!見て!」

「どうしま……うーん」

「ウエディングケーキ!」

「42点」


 静かだなとは思っていたが今の間に、スクラップを積み上げて重ねあげてウエディングケーキなるものを作りあげているとは。

 かなり、器用だな。


「それにしても、何でウエディングケーキなんです」

「でっかいもん」

「あの大きいやつ、ほとんどハリボテらしいですよ」


 まあ、大きいケーキを本当に作る場合もあると思うが。大体はハリボテらしい。


「あぅ…」とモルが肩を落としたと同時にスクラップウエディングケーキがガラガラと音を立てて崩壊した。


「まぁ、ほら、タワーも目の前ですし、早く行きましょうか」と僕。

「ショートケーキよりチョコケーキの方が好きなんだけど〜」と何故かなひゆさん。

「私はショートケーキがいい!」と立ち直りの早いモルが跳ねた。


 僕は甘いもの全般が好きなのだが、ここはチーズケーキと名乗りを上げるべきかと口を開いた。


 ガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャ────。


 直後。

 尋常じゃない音の大きさの、金属が擦れ合う音がして。

「志東さん!」「志東くん!」

「はいっうぁっ!?」


 突如降ってきた巨体に踏み潰されかけた、しかし僕の反射神経は視界の隅に入った蚊を仕留めることがたまになくも無いくらいにはある。

 モルとなひゆさんは、流石、後ろに跳躍し、そこそこの距離をとっている。


 足元に大きな影が現れたと同時に僕は、仰け反るようにしてその巨体をなんとか避けた。

 そのまま後ろに倒れて僕はその巨体をほぼ真下からその巨体を見上げた。


 その巨体は鳥を象り、鉄屑で構成されていた、されど今まで見てきた怪鳥と比じゃない大きさだ。

 そして今までと違うのは何も大きさだけじゃない。


 ガシャガシャガシャガシャガシャと、翼の金属を擦りながら、赤いランプの目玉で。

 怪鳥は僕を見下ろしていた。

 

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