第三十三話『鉄屑は快調に』
『絶対に、殺してやります、弟を──人を殺した罪は、何よりも重いはずです』
目が覚めた時、早く起きすぎたと思った。
窓から射す光が、暗かったからだ。
これは、雨の日の朝に似ている感覚だ。曇ってるせいで太陽がまだ昇っていないと思い、二度寝してしまいそうになる。
『たくさん、人を殺してきたんですね、師匠も、モルさんも、志東さんも』
頭がギチギチする。
時計の針が2時を打った、どうやらもう昼下がりらしい。
昨日遅くまで話した木菜くんは見当たらない、ただ彼の声が頭のどこかでクラクラと彷徨っていた。
身だしなみを整え、宿の一階にある食堂へ降りてきた。
人が少ない。
『結局、俺達はみんな最低なんですね』
頭が痛い。
「あ、志東くんおはよ〜」
「なひゆさん、こんにちは」
手を軽く振り、僕の座る席の反対側になひゆさんが腰かけた。
なひゆさんもまだ眠たそうで、目を擦っている。
「それで、どこに行くわけ〜?あ、目玉焼き定食でお願い〜」
「ぼくは、卵焼き定食でお願いします」
店員さんは律儀にお辞儀をして厨房へ消えていった。
さて、とりあえずスクラップ場へ行こうと思う。
それ以外に特にめぼしい情報もないわけで、聞きこみ調査等も必要だ。
「モルは?」
「まだ寝てるよ、すやすや〜」
こんな時間まで寝ているとは、さては夜中の遅い時間まで二人で話していたのだろう。
早起きは三文の徳ともいうし、早寝早起きは大切なんだぞ。
「行動は別れる?それとも同伴?」
「別れていきましょうか、モルと僕がスクラップ場に行きますよ」
スクラップ場には思い出もある。もっとも、その思い出は爆発というオチで片付いているのだが。
先程の店員さんが定食を運んできてくれたので、姿勢を直し机に十分なスペースを確保したのだが。
定食は期待をはずれ、違う机に運ばれていった。
「ふっ」
「笑わないでもらえますかね」
「人生笑わないと損だよ〜」
それはそうかもしれないが、鼻で笑うというのはその損得の勘定に入れていいものなのだろうか。
僕は今度こそ、こちらの机へ運ばれてきた定食を前に手を合わせて「いただきます」と唱えた。
〇
「すっごい!なんにもない!」
「ですね」
あるにはある、しかしスクラップの山。
様々な鉄屑が、ガラガラと音を立て、小さな山の様に積み重なっている。
広い草原に立って、草以外何も無いことを、何も無いと言うように。
スクラップ場もまた、スクラップ以外何も無い故に、何も無い。
ただ、ガソリンの臭いがかなりキツくなってきた。
やはりここには、なにかあるらしい。
「ていうか、あれですね」
「あ、ほんとだー」
このスクラップ場、そこそこの広さがあり、中央に大きなタワーがあるのだが。
そのタワーに何かが、無数にくっついている。
赤く点滅しているランプ、そしてそれに照らされ一瞬見える無数の何かの塊。
「あ、あの、志東さん」
「はい、どうしま、……しょうかね、これ」
ついつい、タワーの上の方を眺めてしまっていた、それで今周りで何が起きているのか全く理解出来ていなかった。
音はした、けれどその音はここに入ってから先程から鳴り続けていて、違和感のある音ではなく。気にしていなかった。
気にするべきだった。
ガラガラガラガラ────。
金属がぶつかり合う音、どこかで風が吹いているか何かで音を立てているだけだと。勝手に思考の隅に追いやっていた。
「い、いや、わかりませんよ、もしかしたら友好的なあれかもしれないですし」
「そ、そうだよね!鳥って優しいイメージあるもんね!カラスさんとか!」
「いや、それは違うと思いますよ」
鳥だ。
いつの間にか、鳥に囲まれている。
鳥を象った鉄の塊だ。象るとは言っても、それほど綺麗じゃない。
ただ、それが鳥であるとわかる形で、スクラップが寄せ集められ、継ぎ接ぎで子供が適当に作ったような。
どこかの人間に成り損なった、機械のような。
いや、それよりも、その出来栄えは酷いものだ。
「ほーら、おいでー、んー、パンくずか何かもってくればよかったですかね」
「マカロニだよー、おいでー」
モルがマカロニを持って、一歩前に出た。
その時だった。
キィィィィィィィィィィィ────。
金属音が。
金属音のような嫌な音で鳥たちが、けたたましく鳴き始めた。
「うわっ」
「臭いっ!なにこれっ」
鳥たちが翼を広げ、身体から濁った液体を噴出した。
それも、僕たちを囲んでいた全ての鳥が。金属音を鳴きながら、液体を辺りに撒き散らした。
そして、臭いでわかる。この液体、全部ガソリンだ。
「モル、一旦引きましょう、流石にこれは」
「マカロニがガソリンまみれにっちゃったっ!」
「あっ、ちょっ」
ガソリンまみれになった、マカロニをモルは腹いせに鳥に向かって投げつけた。
あまりこれ以上、鳥達を刺激するのは良くないと思ったのだが。
後の祭り。
マカロニは宙を舞って、恐らく鳥達のテリトリーに入ってしまって。
次の瞬間には。
轟音が耳を
そして瞬く間に、赤は黒へと落ちていった。
体が焼けるように熱かった。
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