第三十一話『宿での話』
「志東さん、なんでこれ買ったんですか」
「面白いと思ったんですけどね……」
部屋に戻り、本を読み終えたらしい木菜くんを誘い、飛び出るチンアナゴパニックなるボードゲームをプレイしていたのだが。
はっきり言うと面白くない、というか説明書もなくどうやって遊ぶのかもわからず。
それの楽しみ方を模索していた。
窓の外には洞々たる夜が広がっている、行き交う人々の灯りも、人の影を映した屋内の明かりも、今はもう灯っていない。
「師匠遅いですね」
「師匠?」
「志東さんが言うところの、ブリキさん?です」
師匠って呼んでるのか、木菜くんは。
むしろ、あの機械には木菜くんを見習ってもう少し礼儀的な何かを学んでもらいたいところだ。
「ブリキさんですか、多分今日はもう帰ってこないと思いますよ」
飛び出たプラスチックのチンアナゴを、箱に詰め直しながら適当に言った。
「そう、ですか……じゃあ、寝ますか?」
そうしようか、普段の街ではこの時間はまだ大きなジョッキを掲げている人々が賑やかな時間帯なのだが。
どうやら、この街の住民は早寝早起きを心がけているらしい。
「その、志東さんがオールするんなら、俺付き合いますよ、師匠が帰ってくるかもしれませんし」
いい子だな。
僕が、関わるのが、少し悪く感じる。
「じゃあ、少しだけ雑談でもしましょうか、それでブリキさんが帰ってこないなら寝ればいいですし」
「ありがとうございます……」
ランタンの火が、ほんの少し、ほのかに揺れた。
「じゃあ、木菜くんのことでも、教えてもらいましょうかね」
「じゃあ、俺は志東さんの事を聞かせてもらいますね」
ランタンの火は、大きく揺れて。
弱々しく、部屋を照らしていた。
〇
「それ、お菓子〜?」
「なひゆさんも食べるー?」
そう言って差し出された袋を見て、なひゆは硬直した。
「やっぱり、遠慮しておくね〜、一人で食べていいよ〜」
「やったー!」
まさか、マカロニとは。
なかなかにメジャーな会社の商品のロゴが袋には描かれていた、普通のマカロニを製造している会社だ。
「あ!そうだ!なひゆさん、衝動?みたいな、あの必殺技みたいなの!」
「ん〜?ん〜」
ベットの上でバタバタと跳ねるモルとは対照に、なひゆは枕に顔を埋めている。
こうすれば、幾分か鼻につくガソリンの臭いも紛らわせるからだ。
枕はいい匂いがする。
「衝動のことについて教えて欲しいの、あと私も使いたい!」
「モルちゃん最近元気だね、使えるかは知らないけど〜、いいよ、教えてあげる〜」
モルがお礼とばかりに差し出すマカロニの入った袋を、優しく片手で押し返して。
大きく背伸びをした。
「じゃあ、まず、どうして技の名前を言って使うと思う?」
「かっこいいから!」
「うん、間違ってはないかな〜」
なひゆは人差し指を立て、「ほんとの理由が2つ」と中指も立てた。
「ひとつは言葉と感覚を体に馴染ませて、いかなる状況でも業を成功させる確率をあげるため」
空になったマカロニの袋を丸めて、ゴミ箱に投げるモルを眺めながら。
「もうひとつは、味方に知らせるため、ほら、弓を打つ時とかグレネードを投げる時とかに味方に当たらないように合図したりする感じ、かな〜」
と、説いた。
モルはゴミ箱で跳ね返った袋を、拾ってもう一度投げ捨てた。
話を聞いているかどうか微妙なモルを見て、なひゆは深いため息をついて。
「……おやすみ〜」
ふかふかの布団に、身を沈めた。
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