第二十六話『出立』

「まったく、いい話だね」

「まあ、魔王にはざまあみろとしか言いようがないですね」


 最低な話だ、目も当てられない。

 警鐘者の声は、やけに耳に響く。耳じゃない、脳に直接喰らい付いてくる。

 終始、不快にしてくれるな。


 「そろそろいいですかね、この後ドライブの予定なんで」

「汝が運転するのか?」

「ですね」

「事故るね」

「言ないでくださいよ」


 運転免許なんてものは持ってないが、運転はできる。標識なんてものは分からないが、最近は見かけない。あったとしても、今は意味を持たないものが多い。


「じゃあ、もう行っていいですか」

「汝が我からいち早く離れたいのは分かるがまあ落ち着け、これでも持っていきな」


 そう言って、警鐘者は机に新聞紙を置いた。

 日付は今日のものだ、けれどこの街で配られているものじゃないらしい。


「どうも、爆弾か何かですかね」

「ただの紙だ、あと、少しのインクだね」


 なるほど、ただの新聞紙らしい。

 折りたたまれているが、こちらから見える面には何やら物騒なことが書いているらしい。


「暇つぶしにでも使いますかね」

「我からは以上だ、あとはドライブでも何でも楽しんできな」


 警鐘者は野良猫を追い払うようにシッシと手を振り、小さくあくびをした。

 一応言っておくが、僕を呼んだのはこいつだ。

 一体何をどうしたら、こんな態度でいられるのだろうか。是非ともご教授いただきたい。

 僕は腹いせに扉を少々強く閉めたが、閉じる際には誰かが手を挟まないよう、必ずゆっくり閉まる親切な設計になっていたため、何とも言えない気持ちになった。



 路地を出ると、意外なことに車が停まっていた。最近ではよく見かけるT型フォードという車種だ。

 屋根があるタイプで、急な悪天候でも安心だ。

 けれどたしか、屋根の一部が開くことができるんだっかな、ちなみに五人は乗れそうだ。

 運転席にはなひゆさんが、後ろの席にモルとそしてもう一人、少女がいた。

 女性比率が多い、少し気まずいが。うち2人が子供だと思えば、気は楽か。


「おそいよ〜、早く乗って〜」


 なひゆさんは助手席に移動して、窓を開け涼んでいる。

 僕は必然的に、運転席に回った。


「志東さん!おかえりー!」

「どうも、ふくろうです、ご無沙汰してます」


 モルは平常運転、そして手短に挨拶を終えたのは梟さん。彼女は獣人、名の通りそのまんまフクロウの獣人だ。

 薄墨色の長髪を二つに結っている、ツインテールにしては少し髪束の間隔が狭くポニーテールにも見えなくはない。

 いや、見えない。

 服装は白く厚い生地のパーカーをキャミソールの上から羽織り、黒いショートパンツを履いている。

 そして首元は一見マフラーを巻いているように見えるが、近くで見てみるとそれは羽毛でできている。


 思わず手を突っ込みたくなるが、突っ込むと彼女が今、手入れしている彼女自身の大きさと余り変わらない程に大きなライフルを口に突っ込まれそうなのでやめておく。

 彼女も身長は高くはないが、それでもモルやカラスよりは大きい。というか、それほど広くない、車内の後部座席の幅を取りまくってる。


 なんだか今回は、獣が多いな。ほれに比例してもふもふも多い。


「んじゃあ、行きますか」

「しゅっぱーつ〜」

「おー!」

「いえーい」


 そしてぼくはアクセルと間違え、ブレーキを踏んだのだった。

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