第二十五話『むかしむかし』

 昔々あるところに、悪い魔王がいました。

 魔王は、みんなに嫌われていました。

 魔王は、たくさんの人を殺しました。

 魔王は、一人ぼっちでした。

 ある日、魔王は一人の白い少女に出会いました。


 白い少女は、魔王に問いました。

「どうして、悪いことをするのが、そんなにも下手なの?わたしは少ししか生きれないけれど、あなたよりももっとたくさん悪いことが出来る」


 魔王は、不思議に思いました。

 魔王は、笑いました。

 それから、白い少女に魔王は、自身の名を教えました。

 魔王と白い少女は、とても仲良くなり。いつも、ふたりでいました。

 いつか、二人でいることが当たり前になった頃。


 魔王は、悪魔に出会いました。

 悪魔は魔王に、呪いをかけました。

 消して解けることの無い、深い呪いです。

 魔王は毎日、悪魔と会う約束をしました。

 それから、魔王と白い少女と悪魔は、たくさんの友達を作りました。

 


      〇



 それから、月日が過ぎて。

 魔王は、神様を怒らせてしまいました。

 神様は、魔王に言いました。

「どちらかを選べ」と、神様は魔王を苦しませる、その最良の方法を知っていました。


 悪魔と白い少女。

 どちらかを選ばないと、いけません。

 少女は言いました。


「私はもう長くは生きれない、だからアグを選ぶべき」と。

 悪魔は言いました。

「お前のことが好きさ、だからお前がどちらを選んでも、それは正しいのだろう」と。

 魔王はには、選ぶことは出来ませんでした。


 けれど、魔王が選ばなければ。神様はきっと、全てを壊してしまうでしょう。

 それは魔王自身も、友達も、白い少女も、悪魔も。

 魔王は、選びました。

 白い少女を。


 けれどそれは、白い少女が、特別だからです。

 白い少女は、たとえ死んでも魂は決して消えない。不死身の出来損ないだったからです。

 必ず、またどこかで会おうと。約束を交わして。

 白い少女は、神様に殺されてしまいました。



      〇



 魔王は、それから沢山の人を殺しました。

 白い少女を、探しながら、何年も何年も、彷徨さまよい続けました。

 そして、ようやく、白い少女を見つけました。

 魔王は、笑って、けれど、涙を流して。

 白い少女を、抱きしめようと、好きと伝えようと。


 けれど、白い少女は。

 約束を、忘れてしまっていたのです。

 ひとつの魂では、ひとつの人生しか生きれません。

 白い少女は、もう、魔王のことは覚えていませんでした。

 それどころか、白い少女は、大切な家族を殺したを酷く憎んでいました。

 少女は、刃を握り、魔王を、大切な家族を殺した、魔王を。


 殺そうとしました。

 魔王は、抵抗しませんでした。

 魔王は、後悔しました。

 魔王は、少女に殺されるのならそれでいいと、そう思っていました。

 けれど、少女は。白い少女は。憎いはずなのに、殺したいはずなのに。

 少女には、魔王を殺すことが出来ませんでした。


 少女は、諦めて。

 自らの、心臓に刃を刺して。家族の元へ行こうと、しました。

 けれど、白い少女の魂は。家族の元へ行くことを、許されませんでした。

 魔王はまたとても後悔し、少女の亡骸を手にいつまでも泣き続けました。

 それから魔王は、魔王をやめる決意をしました。

 いつか、白い少女に会えることを夢に見て。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る