第十三話『匂いだけで酔う人』
居ないかな、いや、居るだろう。
「おーい、居るでしょー!僕が来てあげたよー!」
それにしても、こんなにボロボロなところに住んで。よくわからない。
扉も、もう少し小さくすればいいのに。
「居るんでしょー?知ってるからなー!入るよー?」
ピッキングは簡単にできる、それに志東の家の鍵はもう慣れた。
「おっじゃまーしまーす!……え、なにやってんの?」
扉を開けると、志東と朝にいた女の子。そして、茶髪の男の子が簀巻きにされていた。
「あ、カラス、どうも」
「カラスさん、こんばんわー!」
なぜ、通常運転なのだろうか。
何をしてるんだろう、誘拐かなにかかな。手伝わされるんだろうな。楽しみだな。
「なにしてんの?」
「えーと、プリン泥棒に制裁を、ですかね?」
「なるほど、僕もやっていい?」
「た、たしけて……」と陸に打ち上げられた魚のように、男の子が暴れる。
楽しそうだ。
〇
僕は、ハイハド。
名前というか、コードネーム的なものです。
刀をよく使って、趣味はタニシを眺めることです。
背は年齢からすると普通くらいです、華奢だとよく言われます。目と髪の色は緑寄りの茶色です。
チャームポイントは、このヴィンテージゴーグルです。冬でも夏でも短パンを穿いています。お気に入りだからです。
仕事の件で先輩の家にきています、お昼におじゃましたのですが居なかったので勝手に入りました。
それで、自分、実は甘いものが好きでして。思わずプリンを食べてしまったのですよ。
それで、何故か。
「どう?凄くない?軽量化したけど、弾がなくなったら鈍器としても使えるように強化したんだよ、思いっきり振れば頭蓋骨は割れるかもね」
「なるほど、いいですね、この猟銃は、僕が貰ってもいいんですね」
「うん、いいよ」
カラス先輩と志東先輩が猟銃を挟んで何か話しています、僕はカラスさんに座布団にされて、白髪の女の子にひたすらツンツンされています。かなり鬱陶しいです。
「あ、あのう、そろそろ解いて貰えませんか?腕がもげそうです」
「プリンの恨みですよ」
女の子もそれに頷き、カラス先輩も何故かそれに頷く。
食べ物の恨みは恐ろしいと聞いたことがある、ほんとに恐ろしいです。
「で、どうしましょうか」
「とりあえず、焼く?」
「私が切り刻んでもいーよー!」
「良くないんですけど!?」
なんて、物騒な人達だろう。
「えっとあの、プリン奢るので、ゆ、許してください」
「あー、じゃあプリンじゃなくて今日の夜ご飯奢って!」
あれ、僕カラスさんのものは食べてない気が。
「いいですねそれ、酒屋行きますか」
「酒屋?行ってみたいかも」
夜ご飯、別にそれくらいなら。それにそこで今回の仕事の話もすればいいかも。
「じゃ、行きますか」
〇
夜は賑わう、星空に街の賑わいで夜は明るい。
この街の酒屋はどこも午前の三時で閉まってしまう、しかしそれまでの時間。町はたいへん賑わう。
僕達は、僕の行きつけの酒屋に来た。
ランプの優しい灯りに照らされ、酔った人々の笑い声で溢れ。
レトロな蓄音機がその大きさに見合わず、店の中に曲を満たしている。
ジャズ音楽だ、チェロ、トロンボーン、それからサックスにトランペット。本当に心地よい。
ちなみに、僕が弾けるのはピアノくらいだ。
「志東さーん!みてみて!」
大樽のドリンクバーから帰ってきたモルがジョッキに、とんでもない色をした飲み物を入れて持ってきた。
「なんですか、それ」
「全部混ぜた!」
うわぁ。
流石にこの色の飲み物は飲みたいとは思わないし、飲み物とも思わないが。僕もなにか、お酒的なのが飲みたくなってきた。
「ちょっーと、待ってください、志東さんお酒に弱いんですから、先に仕事の話しましょう」
そう言いながら、ハイハドが僕の襟を掴んだ。
「まずっ」
そして隣でモルがむせた、さすがにそれは自業自得というものである。
店員が僕たちの机にポテトフライを運んできた、店員に軽く会釈をしてポテトをつまむ。
塩が、少し多い。
「今回は護衛任務だそうです、リレー方式で、僕達はこの街の西門で荷物を受け取って、東門で待ってる同業者に渡す手筈になっています、明日の午前2時に決行です」
「なるほど、簡単そうですね」
まあ、きっとその荷物が狙われているわけなんだろうけども。
「まあ!みんなでがんばろーよー!」
ビールのジョッキを両腕いっぱいに抱えたカラスが、机に戻ってきた。
ハイテンションで、僕の肩を揺さぶってくる。
「あー、酔っ払った鳥ってうっとうしいですね」
「志東さん、これあげるー」
モルがとんでもない色の飲み物が入ったジョッキを寄せてきた。
「いりません」
飲めないからって人に渡さないでもらいたい、僕でもさすがにそれは飲めない。その色が物語っている。
「なんで混ぜたんですか」
「美味しいの全部混ぜたら、最強かなって」
ありがちな間違いだが、たとえば、カレーとプリンを混ぜたら美味しいか。というものに置き換えれば分かりやすいだろう。
「あー、まあ、わからなくもないです……」
そうモルに共感を表してカラスが持ってきたビールをひと口飲むハイハド。
未成年飲酒はダメだろう、と突っ込もうとしたが、人のことは言えない。
まぁ、法律なんて意味のなさない、このご時世、細かいことは気にしない方がいいのかもしれない。
「未成年飲酒はダメですよ」
それでも、言いたくなるのが僕だ。
「お酒じゃないよ、子供ビールさ、それくらい守ってるよ僕はね」
カラスはそう言って、店員にポテトフライの追加を注文した。
「これ子供ビールなんですね、そこの人酔っ払ってるんで、てっきりビールかと」
「僕は酔っ払ってなんかないぞー!」
「……」
ハイハドは一口でダウンしたようだ、子供ビールで酔っ払うとは。
いったい、どういうことだろう。
「まあ!ともかく楽しもーよ!」
「いえーい!」
僕達は完全に明日の各々のやらなければならない事を忘れて、今を楽しんだ。
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