第六話『音』
日はいつの間にやら真上に。
僕も、いつの間にやら町の最上層に着いていた。
ここからの景色はとてもいい。
赤と緑のコントラストが素晴らしい街並みを一望できる。
昔は違っただろうか。
風が少し冷たい。
「よっ、志東くん!久しぶりやねー!」
「さっき別れたばっかりでしょう」
赤い髪を冷えた風に揺らし、結衣さんは戯れて現れた。
街が一望できるスポットだけあってとても高く、鉄柵から身を乗り出している結衣さんのその姿勢は、見ている僕をとても不安にさせる。
「そこ、錆びてますし、やめておいた方がいいですよ」
「……せやね」
一度下を覗いた結衣さんはパッと押し返すように鉄柵から離れ、蔓に這われたベンチに座り、サンドイッチを頬張り始めた。
そんな姿を見て、今度は自分もお腹が空いたなあと、ぼんやりと思う。
もう昼頃、昼ごはんは何にしよう。
「あれ?そう言えばモルはどこに?」
「もる?」
「モル、モータルですよ、
「なるほどー、ってあれ?どこいったんやろ?さっきまで一緒におったのに」
そう言い、サンドイッチにまたかぶりついた。
危険な場所で小さな子を一人にするのもそうだが、危険な不思議を一人にするのはもっと問題だ。
普通に事案である。
「どうしましょうかね、これ」
「ん?ツナマヨサンドは渡さへんからな、たまごサンドやったらあげるけど、ツナマヨは全部うちのやからな!」
何気にたまごサンドを貰えるのは嬉しいが、そういう話じゃない。
これが隊長とは、世も末である。
あ、いや、とっくに終末はしていたんだった。
「どこに行ったんですかね、早く見つけないと色々とまずいですよ」
「んー、せやねー」
思案していた次。遠くで鳥がひとつの黒い塊に見えるほどの数の群れを率いて一斉に飛び立った。
ここからまあまあ距離があるのに聞こえる、鳥たちの喧騒。
「結衣さん、アレって……」
「うーん、たぶんね」
赤い枝が轟音を立てて地を揺らしている。
ひょっとすると、最悪な状況かもしれない。
「結衣さん、たまごサンドください」
「ほいよっ」
ツナマヨを頬に付けた結衣さんがたまごサンドを、放り投げ。
形を崩すことなく、僕がキャッチした。
たまごサンドを一口かじる。おいしい。
「行きますか」
「せやね」
おそらく最悪の事態である、聖堂方面へ僕達は急いだ。
少し強い風が、木々を揺らした。
〇
巨大な木の枝が地を這い廻っている。
一個体の枝が活性化したことにより、連鎖的に周りの枝まで活性化してしまったようだ。
事態は一刻を争う事態だ。
枝が活性化していない地帯を通り遠回りはできるが、時間がかかりすぎてしまう。得策とは言えない。
「で、どうするんや?このまま突っ切るんか?」
結衣さんが声を潜めて、そんな呑気なことを言ってくる。
「こっちはこっちで、今、考えてるんですよね」
もはや瓦礫と化したような古びた車を挟んで、向こう側で枝が獲物を求めて徘徊している。
下手に動けない。
「……一か八か、古典的なやつでやりますか」
石ころを拾い上げ、結衣さんに提案を持ちかけてみた。
たぶん、僕の顔は引きつっていただろう。
結衣さんは考え込むように俯き。
「うちはええけど、志東くんは無理ちゃうんか?」
顔を上げたかと思うと、そんなことを宣った。
石ころを投げて音を立てたとして、その方向へ寄っては行くが完全に騙すことは不可能。
むしろ、中途半端に音を立てたことにより通常より微かに音に敏感になる。
その条件下で枝に触れず、音を立てず、そして速やかにその場を掻い潜らなければならない。
「自信はないですが、やってみましょう」
「心配やなぁ」
石を握りしめて、大きく息を吸う。
その音でバレてしまうんじゃないかと、思考のどこかでそう思っている。
「いきますよ」
「おう!」
思考を集中定めるために、静かに、合図を交し。
石が弾む音と、枝が勢いよく摺れる音の中。通りを駆け抜けた。
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