第五話『遺物』
2がつ9にち。
きょうは、おやつにぷりんをたべた。すっごくおいしかった。
おにわで、おにんぎょうさんとあそんだ。おちゃをこぼしちゃったけれど、おにんぎょうさんにはかからなかった。ほんとによかった。
〇
2がつ13にち。
ひみつきちをつくった。いつものはやしのなかに、ひみつきちをともだちと。
ぜったいにばしょは、おとなにはばれないとおもう。
わたしたちだけのひみつのばしょ。
みつけたタイヤはいすにするの。ぶらんこもつくりたいな。
〇
3がつ20にち。
あかいろのちいさいキをみつけた。とってもめずらしいいろだから、みんなでそだてる。
みずもちゃんとあげて、ちゃんとおせわするの。
おっきくなったら、おとうさんにじまんするの。
あかいろのキなんてみたことないとおもうから。
びっくりするとおもう。
〇
4がつ13にち。
あやちゃんがいなくなった。ひみつきちであそんでたら、いなくなって。
いえにもかえってないって。
もしかしたら、まだひみつきちにいるのかも。
さがさなくちゃ。
〇
嘘じゃない。
みんな揃って俺の頭がおかしくなったって。
娘をなくして気が触れたと、そもそも俺の自作自演だと。俺が殺すはずがないだろう、最愛の娘を亡くして気が触れたとしても、俺の手で娘を殺すはずがない。
俺の頭がおかしくなったと、おかしくなったのかもしれない。
ちがう、だが。じゃない。そうか。ちがう。ちがう。
見た、俺は見たんだ。
赤い苗木が娘を土に引きずり込みやがった。嘘じゃない。正気だ俺は。幻覚でも夢でもない。ほんとうだ。ほんとに見たんだ嘘じゃないんだ。
〇
やっぱりだ。
俺の言うことを聞かないからだ。
町はあの赤い樹木に食われた。
無駄だ、あれに火は効かない。意味は無い。
聖堂の方に生き残ったヤツらが逃げたが、無駄だ、どうせ全員食われる。
おわりだ。なにもかも。
こうなるのは分かってた。
わかってるなら、なぜこの街から出なかった?
娘を諦めきれなかったそうだ、そうだよ。どうせ、全員もう食われるんだ、生きて出られねえんだ。
〇
もしだ。
もし、これをお前が発見したとしよう。
この町から出ろ。
なるべく急げ、聖堂には行くな。人が多いところに行くべきじゃない。
最初は気づかなかった、人が入り乱れていたからな。奴らは音に反応する。
静かにしていればこの町から出られるかもしれない。
俺はこの街から出る気は無い。
俺は、娘を取り返しに行ってくる。
もし、お前がこれを見てここから出ようとするなら、ページの最後に挟んでおく。
爆竹の使い方くらいわかるだろう。
もし、あの木を駆除しに来たのなら、あとは任せた。
奴らに火は効果がない、音に反応する。俺から言えるのはこれくらいだ。
あとは任せた。
君の幸運を祈ろう。
〇
追記。
愛してるよ、アリス。
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