十八章 「過ち」

 息を切らしながら、一華の家にたどり着いた。

 空にはきれいな満月が浮かんでいる。

 日は随分長くなり、もう夏の気配が近づいてきている。

 僕は、電話をした。

「樹、どうしたの?」

 一華はすぐに外に出てきてくれた。

「記憶、戻ったよ。ありがとう」

 一華に、言わなきゃいけないことは、たくさんある。

 でもまずは、お礼を言いたかった。

 一華のおかげで僕は元に戻れたのだから。

「記憶戻ったんだね。うまくいってよかった」

 一華は、嬉しそうな顔をしていた。

 一華の顔をじっくり見るのは、いつぶりだろう。 

 僕は本当に何をしてきたのだろう。

 そして、会いに来ただけで、そんな嬉しそうな顔をしてくれるんだと思った。

「うん。本当にありがとう。そして、ごめん」

 それだけじゃ言葉なんて足りないのはわかっていた。

 それなのに、一華は抱きついてきた。僕を受け入れてくれた。

「謝らなくていいよ。樹とまた楽しくいられるのだから。それだけでいいの」

 一華は話を続ける。

「樹が幸せそうにしていたら、私も幸せな気分になる。樹が幸せでいることが、私の夢なの。そのためなら何でもするよ。変かなあ?」

「いや、そんなことないよ。僕がその夢を叶えるから。もう絶対悲しませたりしないから。僕はずっとそばにいるよ」

 僕は一華を強く抱きしめた。

「ありがとう。その言葉が聞けただけで、私は十分幸せだよ」

「でも、僕は一華の寿命を奪ってしまった」

「十分幸せだって言ったでしょ。これから先も一緒にいてくれるんだよね?」

「うん。たとえ何が起きても一緒にいるよ。僕も、一華のためなら何でもするから」

「もう、なんで泣いてるのよ」

 いつの間にか泣いていた。

 僕が泣いている場合ではないとわかっている。 

 それでも涙が止まらなかった。

「だって、僕はひどいことをした、取り返しのつかないこともしてしまったから」

「優しい樹を取り戻せたなら、それは十分意味があったことだよ。私は後悔していないよ。たとえ何度過去に戻れたとしても、私はきっとまた同じ行動をとる。だって樹が大好きだから」

 僕たちは再び心を通わすことができた。

 長い道のりだった。

 僕は過ちも犯した。

 でも、一華の言葉を聞いて決心した。

 立ち止まっていてはいけない。

 過去は変えられないけど、未来は変えるから。

 僕は一華のために変わることを決めた。

 この瞬間に、残りの人生すべて、一華のために生きようと心に決めたのだった。

 もう、この手を決して離さない。

 

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