十五章 「私の夢」

 私こと南沢 一華は、樹が夢を売ったという話を聞くとその度に、すぐにその夢を買いに行っていた。 

 樹の夢を買っていたのは、自分自身の快楽のためではない。 

 未来さんに会って話した感情もすべて嘘だ。

 私は夢を手に入れても変わらないほどの真っ直ぐな気持ちを一つだけ持っている。

 全ては、樹を助けるためだった。


 樹から夢を売ったという話を聞いた時から、これはなんだか裏があると思った。

 何度も何度も、樹に夢を売るのはやめたほうがいいよと声をかけたし、連絡した。

 それでも樹は、頑なに聞かなかった。

 樹にも夢を売りたい理由があるのだろう。

 その気持ちも尊重はしたかった。

 それでも私は、夢を一つ売るたびに変わっていく樹をほっておくことができなかった。

 守りたいと思った。

 人は弱いのだから。誰かに寄りかかってもいい。

 樹はその頼り方をあまり知らないだけだ。

 夢を買う対価は寿命だと未来さんから聞いた。  

 けれど私の寿命で、樹が今後の人生を幸せに過ごせるなら、私の寿命など惜しくないと思った。

 もちろん、私もこれから先も樹と生きていきたいと思う気持ちはある。

 しかし、自分の人生より、樹を救いたいと思うのだ。

 それぐらい樹のことを愛している。

 たかが三年付き合っているだけなのかもしれない。結婚という強い絆でも繋がれていない。まだ他人だ。何も確かなものなんてない。

 でも、私はその間に何度も樹の優しさに救われた。

 決してそれを私は忘れない。

 そして、樹は、愛するという感情を教えてくれた。

 樹は本当に私を愛してくれた。

 愛するって、自分のすべてをなげうってでも、この人のそばで、この人をどんなことがあっても守りたいという気持ちなのではないだろうか。

 たとえ今後樹が、更に変わってしまって私を必要としなくなっても、私はきっと樹を救いたいと思う。

 それは自己満足ではなく、樹の幸せのためだ。

 私が今まで頑張ってきた分を報われる必要はないのだ。

 実際に樹には、今回は別れを告げられるために呼び出された。

 それもわかっていた。

 それでも、私の気持ちは揺らがなかった。

 むしろ、しっかり話をできるいい機会だとさえ思えた。 

 本当の私は案外ボジティブなのだ。


 私の夢は、『樹が幸せでいること』だ。

 だから、それを叶えるために樹の夢を買うことにした。

 私は私なりの方法で樹を救おうと思った。

 もしかしたら、売ってしまった夢を別の誰かが全て持っていたら、何か変えられるかもしれない。

 未来さんに交渉できるかもしれない。樹が失ったものを私が直接話すことで思い出すかもしれない。

 私は、樹の為ならなんだってできる。

 

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