十四章「夢を買い戻す?」
「売った夢を、買い戻せる?」
僕たちは二人で未来さんのお店に来ていた。
前までは来るときは、いつも一人だった。
「今日はお二人なんですね。しかし、どうしてそんなことを聞くんですか」
いつもどおりニコニコと未来さんは答える。
「それは、樹の記憶を取り戻したいからよ」
一華がそう言うと、未来さんは笑いだした。
「何がおもしろいんですか?」
僕はその時ぞわっとした。
僕の知らない未来さんが、そこにいた。
しかし、そもそも、僕は未来さんについて知っていることなどほとんどないことにも気づいた。
そんな相手に夢を売っていたのかと思うと怖くなった。
「だって夢を売って、人生変えたんでしょ? 前より人生豊かになったんでしょ? それを買い戻してしまうんですか? それは本当に早坂さんの意思ですか」
確かに未来さんの言うとおりだ。
僕は夢を売ることで、劇的な変化を得た。
人生は確実に豊かになった。
「そんなのは、人生を豊かにしたとは言えない。間違っているよ」
一華ははっきりとそう言った。
僕はその熱量に少し驚いた。
「南沢さんなんだかいつもと雰囲気が違いますね。そして、あなた達二人が一緒に来るなんて思いもしなかったですよ」
未来さんは『二人』という言葉を強調した。
「どういう意味?」
僕は一華のことを未来さんに話したことはなかった。
それなのに、未来さんは一華を知っているかのような話し方をする。
そういえば一華も、未来さんと今日初めて会った感じではなさそうだ。
まるで、今まで何度も会ったことがあるような言い方だ。
「だから、夢を売りつくした早坂さんと、その夢をすべて買っていったお客様である南沢さんが、一緒に来るなんて思わないでしょ」
「えっ、どういうこと?」
「どうもこうも、二人は夢でつながってたんですよ。南沢さんにどんな意図があるかまでは私はわかりませんが」
「ちょっと、一華。説明して」
僕は一華に頼まれてここまで来たのだ。
それなのに、わけのわからない展開になっている。
「驚きますよね、普通。私も珍しく驚いているんですよ。早坂さんの夢は全て売り切れていて、買い戻せない。だって早坂さんの夢なら、そちらの南沢さんが全て買っていったのですから。もちろん、対価は頂きましたが」
「えっ、一華が対価を支払った?」
僕はまだ会話についていけていない。
一華が僕の夢を買っていた。
そんな話僕は一度も一華から聞いていない。
しかも、僕の売った夢を全部。
どういうことだろう。
「はい、対価としてすでに寿命五十五年分もらってます」
僕はその言葉を聞いてやっと、本当の自体の深刻さに気づいた。
寿命五十五年分。
一華は今三十歳だから、合わせると八十五になる。
日本人の平均寿命が八十五歳ぐらいだから、一華はもうすぐ亡くなってしまうということになる。
一華はなぜそんなことをわざわざしたのだろう。
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