十一章 「夢を嫌うわけと変化」

 その後も僕は何度も、夢を売った。

 僕は夢をすべて捨てたいと思っているのだから、当然の行動と言えるだろう。

 僕が夢を嫌うのは、結果を出すための努力を認められないからだ。

 その夢を叶えるのに、僕がどれだけ努力したかなんて誰も見ていない。

 そこは褒められない。見てはくれない。

 結局上辺だけの夢を叶えたという結果しか見ていない。

 やっと夢を叶えたと思えば、人はじゃあ次の夢を持とうと簡単に言う。

 夢は努力に対して、見返りがあまりにもないのだ。

 だから、僕は夢が嫌いだ。

 いつも辛い思いばかりしてきた。夢を叶えても何だもやもやした気分が残った。

 夢なんてもう叶えようと思わない。

 そして、いろいろな変化が起きた。

 まずは、物理的変化だ。

 僕は今ほとんど家から出ないで生活している。なんだか体はうまく動かないし、集中も最近できない。

 僕は本当にどうしてしましたのだろう。

 家事もなんだかめんどくさくてしなくなった。

 部屋は汚れたら、家事代行を頼めばすむだけだ。

 前までの僕はどんな生活をしていたか思い出せない。

 何が変わったかわからないけど、前とは何かが変わっていることはわかった。


 そして、とうとうお金を使い始めた。

 はじめは使うのが怖かった。

 しかし、使わなければなんのために手に入れたかわからない。

 何かを変えたくて、夢を売っているんだから。

 そういえば、どんな夢を売ったのだろう。

 それは当たり前だけど思い出せなかった。

 そういえば、夢の記憶がなくなると言っていたなと思い出し、そのことについて深く考えなかった。

 どうせ大した夢じゃないはずだ。

 そして、いざお金を使うと、すぐに使うことにたいする抵抗感がなくなった。

 使っても使っても一向になくならないからだ。

 一度使い始めると、ダムが決壊したかのごとくそれはもう止めることができなかった。

 次から次へといいもの、高価な物を求めるようになっていた。

 欲にきりなんてなかった。

 食べ物も日に日に高級なものに変わっていき、お酒も嗜むようになった。

 前までなぜお酒を飲んでいなかったのが不思議に思ったけど、そこは思い出せなかった。

 車も、外車に買い替えた。

 夢であったマイホームも何故買ったのか思い出せない。だから、売って新しいのを買った。

 生活は、完全に以前に比べて豊かになった。

 次に、社会的地位が高くなった。

 手に入ったお金で、個人経営の規模を一気に広げた。

 取引先も増えた。

 前までは冴えないフリーランスだったけど、今では業界ではちょっと名の知れた者になった。

 どうして今まであんなにちまちまと仕事をしていたのだろうと思う。

 数字として見える売上の変化、名前が知れ渡っていく感覚。

 どれも今まで味わったことのないものだった。

 それは僕の心を満たしてくれた。

 ぽっかりあいた心の隙間を社会的地位は埋めてくれた。

 そして、一華を捨てよう思った。

 一華との思い出を思い出せなくなってきたからだ。

 どこが好きなのか思い出せない。 

 どうして三年も一緒にいるのかわからない。

 きっとたいした縁でもなかったと思う。

 そんなわからないものより、お金のほうが僕には信頼できた。  

 僕の人生は夢を捨てたことにより、格段に豊かなものに変わった。

 

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