九章 「将来の夢」

 僕は今度は『将来の夢』を売るために話し始めた。

 子供の頃に小学校の先生になりたいと思っていた。

 学校のアルバムなどでの将来の夢の欄には、迷わず学校の先生と書いていた。

 色々できないことが多い僕に対して、ある先生だけは丁寧に優しく教えてくれた。

 そんな先生に僕は救われた。

 そんな先生のようになりたいと思った。

 誰かに優しさを与えることができる人になりたかった。

 その気持ちに嘘偽りはなかった。今でもそう思っている。

 それから教育関係の本をたくさん読み、有名な国立の教育学部のある大学にも合格した。

 実際に教員免許も取り、教員試験にも受かっていた。 

 しかし、僕はフリーランスとして働くことを選んだ。

 現実では選ばなかったけど、夢としてはしっかり叶えたといえるだろう。

 

 「夢をお売り頂いて、ありがとうございます」

 話終えると、未来さんは深々とお辞儀をした。

「今回の対価は、現金3億円です」 

 それから未来さんは当たり前のように、そう言った。

 未来さんはいつもはっきりとした口調で物事を言う。 

 また、破格の値段だ。

 今持っているお金と合わせると4億円になる。

 僕の中でものすごくスピードで金銭感覚が狂っていく。

 そもそも、なぜ今までためてこなかったのだろう。

 ためることはできたはずだ。

 でもそれは思い出せない。

 そして、話す前から、前回売ったときより多くの金額が貰えればいいと思っていた。

 いつの間にかもっともっと欲しいと思えてきていた。

 何か欲しいものがあるわけでないのに、お金が欲しかった。

 お金をもっているとただ安心できた。

 お金は希望のように思えた。

「値段が高いには理由があります。将来の夢を子供の頃に誰しも描くと思います。しかし、それを実際に叶えられる人は一握りです。この夢を買った人は、努力せずに将来の夢が叶えられるのです。誰しも努力せずに手に入るなら、そっちの方がいいですよね。だからこの夢をほしい人は、たくさんいます」

 未来さんまたいかにこの夢が買い手にとって価値があるかを熱弁していた。

「そうなんですね」

 僕はとりあえず相槌を打ってみたけど、正直話はまともに入ってきていなかった。

 頭の中はお金のことでいっぱいだった。

 考えることを遮るぐらい、頭の中では『お金』というワードが次々に飛び交っている。

「今回も売ります」と言い、僕は3億円に素早く手をのばしたのだった。

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