八章 「1億と夢」
1億という大金、当たり前だけど手に入れたことがなかった。
あのあとすぐに、一華には夢を売買した話をした。
僕たちは隠し事はなしだよと約束をしているから。
一華は「大丈夫?」と心配してくれた。
次の日に、一華がすぐに家に来てくれた。
ポニーテールの黒髪が揺れている。
身長は僕と同じぐらいあって、とてもスタイルもいい。
ブルーのワンピースを着ていて、清楚さも際立っていた。
僕は不思議な出来事と1億を手に入れた話を改めて詳しく話した。
一華は「やっぱり怪しくない?」と更にそう言った。
そして、「私はどんな話でも聞くからね」と言ってくれた。
一華のその気持ちが、なぜか今ひとつ心に響かなかった。
これまでお金がほしいという欲求はそれほど強くなかった。
お金は僕を変えてくれないと思っていた。
お金は『一過性』のものだと思っていた。
なくなれば、あとには何も残らない。
でも今はこの手の中にずっしりとある。
手が震えた。
いつの間にかお金の使いみちを考えていた。
まさに大抵のことはできる、夢のような金額なのだから。
そのまま数日間1円も使うことができなかった。
正直身に余る金額だった。使うのも怖かった。
一華からは毎日連絡きていた。いつもよりも頻繁に連絡があった。一華はなぜこんなに頻繁に連絡してくるようになったのだろう。
それはわからないけど、僕はそれに毎回すぐに返事を返していた。
でも、いくら何かをしていても、お金のことが頭から離れない。
夢に憧れていた頃を思い出す。
当時は夢のことを考えるだけで、心が満たされた。
今は頭の中がお金のことでいっぱいだ。
夕日が街を赤く染めている。
また夢を売りたいなと思っていると、いつの間にか未来さんのお店の前まで来ていた。
今日もお店は紫の明かりがついていた。
「いらっしゃいませ」
「また夢を売りたいのですが、今いいですか?」
僕は会うなりそうまくし立てた。
何かを得たくて、僕はまた夢を売ろうと思った。
何かを手放せば、新しいものが手に入る気がした。
「はい、いつでも受け付けております」
未来さんは丁寧に答えてくれた。
一華からメールが来たけれど、返事は返さなかった。
なんだかめんどくさかったのだ。
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