七章 「夢を買う」

「こちらのお店で、夢を買えると聞いたのですが」

 私はあるところに来ていた。

 肩まである黒い長い髪が風に揺れる。

 そこは夕方の一時間の間しか空いていないという特殊な店だった。

 でも、なんと夢が買えるらしい。

 私も最近その情報を耳にした。

 私はある目的で、夢を買いたいと思っている。

 誰よりも早く夢を叶えたいと思っている。

 店構えは、はっきり言って怪しい。

 紫の明かりがきれいに灯されている。

 「夢」という小さな看板があるだけで、どんな商売をしているかなどは書かれていない。

 店先には、水晶玉と、なぜか招き猫もたくさん置かれている。

「はい、夢の売買ができますよ」

 出てきた女の子は、それが当たり前のように答えた。

 年はきっと十代後半ぐらいだろう。黒くてふんわりした髪は今風だ。

「ある夢がほしいのですが、探せますか?」

「どんな夢でしょう? たくさん揃えてますよ。あっ、私の名前は未来と言います」

 店の中は、意外と広い。 

 丸い球体がきれいに並べられていて、その球体の前にどんな夢か名札のような小さな赤い札がついている。

 それの大きさは水晶玉ぐらいだ。だから店先に水晶玉があったのかとわかった。

 札は例えば、会社で成功した夢などが書いてある。

 私がそれの条件を言うと、似ていそうな夢を未来さんが次から次に出してきた。

「これがいいです」

 私はある夢に、目が行った。

「お客様、お目が高いですね。それなら対価はいくらだったかな?」

 そこで未来さんが、お辞儀をした。

「あっ、お客様はこの店が初めてですね。夢を買いに来たのであってますよね?」

「はい」

「それでは、夢の購入手続きとルールを説明します」

 未来さんは、丁寧に話し始めた。

「夢を買うと、その夢は買った人のものになります。夢だけでなく、その夢に関するエピソードも自分のものとなります。夢だけ手に入れたとなると、おかしなことになりますから」

「なるほど」

「そして、その夢を誰かから買ったことは、誰にもわかりません。文字通り自分自身が叶えたという形になります」

「そんなに簡単に可能にできるんですか?」

「もちろん、それで商売してるので、私が責任を持って行います。ただ商売なので、タダとはいきません」

「大金が必要なんですか?」

 私は正直、お金には困っていなかった。

「いいえ、お金よりもっと大事なものです。夢を買う対価は、『寿命』です」

「寿命?」

「そうです。夢によって値段は変わりますが、夢に見合うだけの寿命を頂きます。しかし、寿命を対価として支払っても、見た目は変わりませんのでご安心してください」

「生きられる年数だけが減るということですか?」

「そうです。なかなか簡単には夢は手に入らないんですよ」

「わかりました。この夢をください。寿命いくら分ですか?」

 説明はとてもわかりやすくて、納得もいった。

 シンプルがモットーの私にはとても好感が持てた。

「この夢だと、寿命五年分ですね」

「ところで、実際にはどう買うんですか」

 未来さんの話はどれも現実味を帯びていない。わかりやすかったけど、現実味がない。

 本当にこんな感じで夢を買うことができるのだろうか。

「それは、私に任せてください。お客様は、納得したらこちらの書類に署名して頂くだけで大丈夫です」

 そう言って、未来さんが一枚の紙切れを棚から出してきた。

 文字がびっしり書かれているだけで、特に変わった特徴もない紙だ。

 こんな紙一枚で、何が変わるというのだろうか。

「わかりました。それでは、書きます」

 そうして、半信半疑のまま私は初めて夢を買ったのだった。

 

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