四章 「女の子の正体と夢」

「まずは、あなたの名前を教えてください」

 僕はその女の子から距離をとった。

 高揚感を抑え、少し冷静にもなりたかった。 

 よく周りを見ると、きっとこの子のお店だろう不思議な趣があるお店がそこにはあった。 

 その店は、きれいな紫の明かりが灯されている。

 こんなお店今まであったかなと不思議に思った。

 わからないことは山ほどあるし、おかしなしこともたくさんある。

 それでも、話を聞いてみようと思ったのは、僕が夢を捨てたいという思いが他の気持ちより上回っいるからだろう。

「名前ですか。そうですね、ないと呼びづらいですよね。未来(みらい)とお呼びください」

「わかりました。未来さんですね。ところで、未来さんが言っていることは、夢自体を売るという意味であってますか?」

 僕はそれ以上正体などは追求しなかった。名前を聞いたのも自分を落ち着かせる為だ。

 本当に夢を売れるなら、相手が悪魔でもなんだっていい。 

 僕は夢をいち早く捨てたいのだ。

「はい、あってます」

「今までの人生で叶えてきた夢を売れるということで間違いがないですか?」

「はい」

 未来さんは愛想よくニコニコと答えてくれる。

「そして、本当に夢を買い取ることが未来さんにはできるんですね?」

「はい、できます」

 ここまで確認して、やっとほっとした。

 僕はやっと夢を手放せそうだ。

「方法は?」

「そちら側からしたら、私に話をして頂くだけでいいです。あとは、私が手続きし買い取ります」

「売った側に何かしらの対価は支払われますか」

 対価を求めているわけではない。僕は夢を売れるなら、無償でもいい。

 でも、ちゃんとしたシステムがあるのか聞きたかったのだ。

 夢は売れたけど、中途半端に気持ちが残るなら意味はない。

「もちろん。それは、お金です。夢の内容によって、金額は変わります」

「なるほど。じゃあ売った側に、損することはないんですか?」

 リスクもしっかり考えておかないといけない。 

 なにか起こると後で慌てふためくのは目に見えているから。

 それに、夢のせいで気持ちが落ち込むのは、もう嫌だった。

「残念ながら、一つだけあります。その夢に関する記憶がなくなります」

「それは別に構わないです」

 夢のことは一切合切なかったことにしたかった。  

 叶えた夢は僕にとって無意味なものだったから。

 無意味なものをずっと持っていても、何にもならない。

 夢に関することを忘れても僕の人生においてなんの問題もないと思った。

「じゃあ、売って頂けますか?」

 未来さんの話がすべて本当なら、僕はぜひとも売りたいと思う。

 僕は即決した。

「いいですよ。でもまずはどうなるのか様子みたいので、小さい夢からでもいいですか?」

「はい、どんな夢でも大歓迎です」

 そうして、僕はある話を話し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る