三章 「現実?」
それが起きたのは、仕事の打ち合わせの為、外にでているときのことだった。
僕の仕事は、外出することはたびたびある。
それは、僕のとって大変なことが多いけど、我慢している。
また例の同じ夢を見た日のことだった。最近あの夢をみる頻度が多くなってきている気がする。
それは何らかの変化の兆しだろうか。
そうだといいなと少し期待する。
今はもうすっかり日は高くに昇っている。
季節は春で、だんだん温かくなってきている。
道を歩いているだけで花の香りが漂ってくる。
春は香りなどでわかりやすいから好きだ。曖昧なものはあまり好きじゃない。
打ち合わせ場所近くにはもう着いていた。僕は基本一時間前行動をとっている。
人と会う前に色々と気持ちの準備をしたいからだ。臨機応変は苦手で、できるだけイレギュラーを減らしておきたい。
近くのカフェに入った。
そのカフェは、桜フェアをしていた。
もちろん仕事中だからという理由もあるけど、僕はアルコールを健康のために一滴も飲まない。
僕の病気は特殊で、お酒を飲むと次の日体調を崩すことが多かった。
それを気にして、一華がアルコールをとらないようにと言ってくれた。僕はそれを守って、その時から飲まないようにしていた。
タブレット端末で、今日の打ち合わせで何か急な変更連絡が来ていないかなどをチェックしていた。
こんなゆとりをもった時間が好きだ。
運ばれてきたコーヒーは、少しぬるかった。それでも別に気にならなかった。
時間も近づいてきたので、カフェを出て打ち合わせ場所に向かっている時のことだった。
後ろから「また会えましたね」と言う声が聞こえてきた。
僕はすかさず振り向いた。
その声には、確かに聞き覚えがあったから。
そこには、白と黒の例のバイカラーのワンピースを着た女の子が立っていた。
「今は、夢の中じゃないですよね?」
じわりと汗が流れてくる。
今起きていることが、信じられなかった。
あれは僕の願望であり、こんな女の子実際には存在しないはずだ。
「はい。夢じゃなくて、現実です」
しかし、その女の子は平然と『現実』だと答える。
そして、この女の子がハキハキと丁寧な言葉を喋っているのがどこか変な感じがした。
僕よりずっと若い。見た目と、喋り方がちぐはぐだからだろう。
このときに僕は無視をしていれば、大変な事にはならなかった。
でも、僕は自分の欲求を抑えられなかった。
夢を捨てたかった。
「なんで?」
答えはわかっていた。でも本人の口からしっかり聞きたかった。
「なんでって、『また会いましょう』って私言いましたよね?」
その瞬間、ゾクッと震えた。この女の子になら本当に夢を売れると確信した。
「それはそうですが」
「だから、こっちの世界に会いに来ました。早坂さん、夢の中じゃ全然答えてくれないんですから」
「それは話したかったのに、なぜか声が出なかっただけで興味のある話だったのです。しかし、僕の名前まで知っているんです。すごいですね」
バーっとまくしたてるように話した。
僕にはしゃべりだすと止まらないところがある。
もちろん、僕の名前を彼女に教えた覚えはない。
普通なら不気味がるところだろう。
でも、僕にとってそんなことはどうでもよかった。
それぐらい今興奮していた。
「あれ、私今おかしなこと言ってます?」
「いやいや、そんなことないです」
「じゃあ、もう一度聞きますね。あなたの夢を売ってくれませんか?」
女の子はそう言って、ぐっと近づいてきたのだった。
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