第11話 ジェンガ
「何ふざけてんだよ、ここからが核心だろ」
「…………ぶくぶく」
貘はやめなかった。こいつ、さては……はは〜ん、分かったぞ
「貘さま、貘さま、もしかして、もしかしてだけど、八重城が死んでしまうことまでは分かったけど、現状どうするべきなのか、どうしたら助けられるか、なんて事までは分からないんです、とかじゃないですよね?」
———ドキッ………。
「ゴボッ、ゴホッぶぼぼ……カハッ、しょ、しょーがないじゃろ!吾輩も予知夢でみたことしか分からぬのじゃ。例え吾輩が人間の常識から外れた存在であっても、分からぬのことは分からぬのじゃ!」
「やっぱり分からなかったか。そうなると、人手も欲しい。僕と、お前と、あいつにも話しておこうか」
「お、そちには仲間がおるんじゃな。結構
結構」
「あ、それと、普通の人にも貘の事は見えるのか?」
「見えるぞ、この態であればな……」
「おお、それは便利だ!それじゃ〜……」
目の前が、ふやけていく。これは、あれだ、あれに違いない。
のぼせた……。
——ガクッ。
〓
湯にのぼせたはずの僕は、目を覚ますと、リビングのソファーで横になっていた。それも全裸のまま、ただ局部にタオルが一枚かけられているだけの状態で。
「お、覚めたか」
視線を声の方へ向けると、そこには一人ジェンガに興じている貘がいた。
しかも、それなりにジェンガはクライマックス。アクション映画に例えるならば、爆発に爆発が重なった結果、火、煙に囲まれた建物の屋上で主人公とラスボスが対峙している、そんな状況といったところだ。
「丁度良いところで、起きたな。目覚め祝いに途中からでもこの戦いに参加する権利をやろう。ほれ、抜いて良いぞ」
先程も言った通り、状況はクライマックス。抜けてもあと一本かどうかだろう。しかも、その一本さえも、難度S級である。
「良いだろう。勝利のあかつきには、なんでもいう事を聞いてくれるんだろうな」
「ん?そんな事言ったか吾輩?でもまぁ良いわ。人間に負ける吾輩じゃない……」
貘は、自信ありありと答えた。
僕は、親指と人差し指、つまり僕を勝利へ導く直接の立役者へ全神経を集中した。感じる……、いつもに増して指先は敏感だ。今の僕なら、小さじひと摘みぐらい、少しのズレもなく摘むことが可能だろう。
行くぞ。
ゆっくり、慎重に、優しく、僕は積み木へ手を伸ばす。
ゆっくり、慎重に、優しく、ゆっくり、慎重に、優しく、ゆっくり、慎重に、優しく、………………。
無我夢中。この状況にぴったりの言葉である。なぜなら、僕が我にかえった時、手で掴んでいたはずの積み木は、綺麗に積み上げられていたのである。
「………しっ」
楽しい。ジェンガが老若男女、今も昔も人々を魅力し続けている理由が分かる。
自分の番ですべきことを全うした僕は、表情だけ見れば、誰しもが悪党と言わんばかりの顔で、貘へ言う。
「お次、どうぞ」
堪らないな。もう自分に回ってこないだろうと、たかを括っている相手の鼻を明かすのは……。
無論、貘の表情は曇っていて、青白い。いや、青白いのは元からか……。
「…………」
——ガッシャーン。
「カーッ!そちなんぞ、仲間に入れてやるんじゃなかったわい」
僕は勝った。
「あー、楽しかった!なぁ貘、さっそくだが、いう事聞いてくれ」
「何故なんでもいう事聞くなんてどさくさに紛れて変な約束をしまってたのだろうか」
「心配するな、大したものじゃないよ」
「なんじゃ?」
「あのさ、今のお前ならまだ分かるんだけれども、何で僕はお前と初対面の時、貘は本来の態だったのにも関わらず僕の目に見えたんだ?」
「それか、それはじゃの……」
「それは…?」
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