第9話 繰り返す朝


 ——ピピッ、ピピッ。


 あれ?今のは……?僕はベットの上で寝ころんでいた。頭に枕はなく、その枕は足元にあった。どうやら朝のようだ。アラームはAM07:00にセットしたものが鳴っている。僕は、一定のリズムで鳴っているそれを止めた。


 その時、自身にまとわりついているベトベトとした汗に気づく。尋常でない汗に驚く。

 何故なら今は真夏でもなければ、暖房をつけて寝ていた訳でもない。ほら、この通り時計に表示されている日付を確認して、……やっぱり今日は10月だ。

 もしかして、もしかしてだけれども最近時間を飛ばしがちな僕は、何かの間違いで時間を戻しちゃったりなんかして、今が真夏に……なんてことも万が一あるかもしれないと思ったけれど、時計に表示されている通りそんなことは無かった。

 となればこの汗は、先ほどまで見ていた夢の、余りにもリアルで信じがたい夢から僕自身が身体全体で受けていた緊張感により発生したものだろう。

 それにしても、驚いた。まさか八重城が死んでるなんて、……夢でよかった。


 夢……だよな……?


 僕は、学校に向かう前に、この全身を覆うべっとりとした汗を流すべく、柄にもなく朝シャンをした。


 別に時間に余裕がある訳ではない。

 いつもの学校へ行くための動作の中にシャワーを浴びるという行為が一つ入るだけで、なんと優雅か気分になれるのであろうか。

 早朝のふんわりとした日差しと、なんとも言えないこの空気感がそう感じさせるのだろうと思う。

 気持ちいい。いつもに増して気持ちいい……。


 「ああ……今日は学校行きたくないな」


 思わずボソッと出てしまった独り言。




 「——学校は行かんと駄目じゃろ」




 独り言だったはずの僕の言葉に、誰かが反応した。

 当然、この声が聞こえるまでは僕は一人で風呂場にいると思っていたし、この声についても、最近の疲れからくる幻聴のようなものだと思っていた。

 が、シャワーで濡れた髪をかきあげ、水が滴る顔を手で拭い、目を開けるとそこには——貘がいた。


 以前、八重城と一緒に居た時と比べて随分と小さい。大きさなんて適当なものなのか。


 「そち……、あんまり驚かんのじゃな」


 「驚いてるよ。この場合、まだ頭が寝ぼけてたおかげで驚きが表に出ずに済んでるって感じかな。にしても、なんか小さくないかお前」


 「まだ二回目じゃというのに、フレンドリーな奴じゃ……。前回の時はの、まぁ初登場じゃったからな。一応威厳を……と思っての。実の所決まった大きさというのはないのじゃ」


 「便利なものだな……。それで、どうしたんだよ」


 「相変わらず急かしいの……。まぁよい、今から吾輩が言うことは、それなりに大事なことじゃから、ありがた〜く聞くが良いぞ」


 「おーけー、改まって聞くわ」


 僕は、湯船の縁に腰掛ける。


「結論から言うと、……そちが見たであろう夢、あれは吾輩が見せた予知夢じゃ」


 「よち……む?」


 ……ふっ、ほら、言っただろ?本当に夢か?って……。


 そこには、ものの見事に、しかも全裸でフラグを回収した僕がいた……。

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